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よかったじゃない、と楓は言った。
小島との今までの経緯を打ち明けたドーナツショップ。部活でコンクールメンバーに選ばれたら、彼氏までできちゃうなんて、すごいよ、と。
そうなの、かな。
なんだか、現実感がない。
恋がしたい、とずっと思っていた。
でも、彼氏ができるのと、恋をするのは違う。
「あー、もう。柚葉は、いろいろ考えすぎ!」
ぐるぐるしてる私を見透かすように、楓は、私の額を軽く指で弾いた。
……ちょっと痛い。
「恋なんて、後から付ける名前だよ」
楓は言う。
「だって、柚葉、ずっと小島に絡んでるじゃない」
そうなんだけど。
「私は、ただ、もったいないなーって思っただけで」
時折、胸が痛くなるほど小島は綺麗だから。ちゃんと、素のままでいてほしくて。
楓は、うんうんと頷いて、
「二学期には、いよいよ小島の顔が見られるんだね、楽しみ―」
とドーナツを頬張っていた。
「私がメンバーに、入れたらね」
私が釘を刺しても、
「大丈夫だって」
と笑って。
夜になって小島からメールが届いた。
『発表、いつわかるの?』
『午前中だって』
『じゃあ、昼の休憩のときに、メール入れて』
『わかった』
用件だけの、そっけない応酬。
『楽しみにしてるから』
って、最後に。
楽しみ、って、何が?
私が選抜されること? でもそんなの、本来小島には関係なかった話。私が選ばれたら、小島は髪を切ることになるのに? 彼女になってって、本気だった?
……小島が、わからない。
一二年の吹奏楽部員全員が集まるなかで、部長が淡々とメンバーを発表していく。
「フルートは、………と一年から、石塚柚葉さんと……」
入った!
呼ばれた。自分の名前が、こんなに嬉しく聞こえたことってない。
楓もメンバーに入っていて、お互いに笑顔で視線を合わせた。
お昼休憩は、食べるのにぎりぎりの二十分。いつもバタバタしてしまう。
時間がないので、おにぎりとか、サンドイッチとか、サクサクっと食べられるものを選んで持ってくることが多い。
私は、メンバー発表の高揚を引っ張りながら、同じフルートパートのメンバーたちとお昼を囲んでいた。その時、鞄がわずかな振動を伝えた。
「柚葉、電話じゃない?」
「ん、メールだと思う。ちょっと見ていい?」
断りを入れて、携帯を取り出す。
表示は、小島。
……う、わ。
メール開けなくても、用件は決まってる。結果、まだ連絡してないし。
催促、だよね……。
『結果は?』
やっぱり開けなくても読めるくらいの、簡潔な内容。
『選ばれた』
こっちも簡潔に、リターン。
だって。そうするしかないし。
すると、
『選抜、おめでとう。それと、これから、よろしく』
と、返ってきた。
これって、つきあうってこと? 決定事項ってことなのかな。
……小島のこと、やっぱりよくわからない。