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【実験】絶望的状況の奴隷にすべてを与えてみたら  作者: 畑渚


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第4話 魔力

「まずは私がやってみせようか」


 そういってネメは両手をこちらへ差し出してくる。

 どうすればいいのかわからずにいると、ネメはむすっとしてみせた。


「手を差し出してるんだから手を取り給え」


「ああ、すまん」


 ネメの小さくて柔らかい手に触れる。久々に触れる人肌は生暖かかった。年相応に小さく、名医の手には見えないな、などと考えていると、指先にピリっとした感触がする。


「わかるかい?」


「いや、いまいち」


「うーん、出力を上げてみるか」


 ふんと意気込んでネメが手に力をいれる。

 すると手を通して、ピリピリと何かが流れ込んでくる。


「なんだこれ」


「無意識に抵抗しないでくれ。ほら息吸って吐いて」


「すー、ふー」


 深呼吸してみれば、その何かの流れがはっきりと伝わってくる。


 両手に注がれたそれは、俺の体の中心でぶつかり弾けている。ピリピリとした感触が、体の中心からもしてくる。


「はぁ、はぁ、これがマナの送信だよ」


「おい、大丈夫か」


「普通はこうなるんだ。問題ないさ」


 そういってリュックから青いポーションを取り出すと、一気に飲み干した。

 青のポーションはマナ回復用。とてつもなく苦く、慣れるまで時間がかかる厄介な味の代物だ。

 そんな劇物を飲んでケロっとしてるくらいには、非戦闘職の割にポーションだよりの生活をしているのだろう。


「さて、あとは感触を思い出しつつ、この子にやってみよう」


「なぁ、本当に後遺症とかは出ないんだよな」


「ないといえば嘘になる」


「やっぱあるんじゃねえか」


「魔法のための回路を無理やり広げるような行為だ。ないわけないだろう」


「具体的にはどうなるんだ」


「うーん、あくまで仮定にすぎないが、魔法が使いにくくなる、かな」


「使いにくく?使えないわけじゃないんだな」


「水を流すホースと同じさ。ホースが太くなると勢いをつけるには水の量が必要だろう」


「なるほど、威力が出にくくなるのか」


 わかりやすい例え話だ。

 水の量が同じならば、回路が細いほうが威力が出る。


 だがしかしそれならば……


「なにか変なことを企んでないかい?」


「ん?気の所為だろ」


 俺はベッドに横たわる女の元へと近づく。


「さあ望め。動ける身体がほしいと」


「……」


「沈黙は肯定とみなすぞ」


 そもそも意思などない彼女に語りかけても無駄だ。

 だからこれは俺のわがままだったのかもしれない。


「……」


「よし、じゃあ始めようか」


 俺は彼女の手を取った。



<=>



「おどろいたな」


 ネメこと私は、そう感嘆の言葉を述べざるを得なかった。


 カインが天才魔法使いであることは重々承知している。

 実際それに助けられたことが幾度とあるから、私は彼の要求を基本断らない。


 しかし天才であるにしても、他人の身体にマナを通すというのは難しいことに違いないのだ。

 なぜなら、本来通らない方向にマナを通す、逆流させる行動だからだ。


 常に本体から無意識の抵抗を受ける。それでも彼ならばと言ったのは、ひとえに彼の魔力量の多さからだ。私は彼の魔力量ならば、マナを逆流させ、魔術の式を焼き切れると仮定したのだ。


 その仮定は間違っていなかった。


「うぉ、これは」


「魔術式にたどり着いたかい?」


「予想以上の抵抗力だ」


「そうだろうね」


「だが俺ならば……」


 カインが彼女を握る手により一層力が籠もる。

 通り抜けるマナの奔流は、彼女の本来の魔力回路さえ焼き付くほどに高出力化していく。


「問題ないな」


 彼女の身体を測定していた装置が、一度振り切り、そしてゼロへと数値が戻っていく。


「完了だ」


「おつかれさま。これで彼女は……」


「だがまだだ」


「へっ」


 ここからは完全に想定外だ。


「昔みた本では、人間は魔力の核があるらしい」


 まずい、彼はやる気だ。


「待ちたまえ!もし成功してしまったら」


「水だのホースだの、馬鹿くせえ」


「ちょ、うわっ!」


 魔力の奔流に、機器がガタガタとなり、部屋に風が吹きすさぶ。


「ようは水が多けりゃ解決じゃねえか」


 彼は彼女の手を離し、そして手を前に掲げた。


「万物の神よ、我が呼びかけに応じ、創造主たる力を以てして、形無き形を成せ」


 詠唱は成功し、魔力が彼女の身体に流れ込んでいく。

 許容量を超えた魔力に彼女は身体を痙攣させて耐える。


 数分か、あるいは十数分が過ぎた。


「どうだ」


「君ってやつは……」


 私はプルプルと拳を震わせた。


「なんてバカなことをやるんだい。君は何をしでかしたかわかるかい!?」


「なにって、魔力を増やしただけだが?」


 それが問題だというのだ。


 なぜこの国が魔法によって序列が決まるのか。なぜ魔術師なんていうテロ組織が存在するのか。

 それは魔力量に個人差があるからだ。


 ようはその魔力量を、魔法で増やせてしまうことをこの男は証明してみせたのだ。


「いいかい、ここで起こしたことは絶対に他言無用だよ」


「もとよりべらべら話すつもりはない」


「いいから!」


「お、おう。わかった」


 まったく彼は……


 この瞬間、この世界の秩序を転覆させかねないことをしでかしたとわかっているのか?


 本当に彼は……


 昔からこうやって、不可能を可能にしてみせる男だったと思い出して、理由もなく笑いがこみ上げてきたのだった。



<=>



「さて、と」


 俺はへんに笑ってるネメを無視しつつ、未だ微動だにしない女のもとへと近寄る。


「どうだ、調子は」


 女は無言だ。

 しかし、明らかに様子が違っていた。


 頬に赤みが差し、目に光がやどっている。

 眼球はキョロキョロとせわしなく動いているが、これが不自然な眼球運動ではなく、辺りの状況を確認するために意識的に動かしている運動に見える。


「女、こっちを見ろ」


 頬を掴んで、こちらに視線を固定させる。

 呼びかけてみれば、しっかりとこっちに目線を固定した。


「望みを言ってみろ」


「……」


「なんでもいい。はやく言え」


「み」


「み?」


「み、水……」


 俺は口角が上がりそうなのを隠しつつ、「そうか」と呟いて手を離した。


「ネメ、水をとってくるから診ててくれ」


「ああ、わかった」


 ネメに診せておけば問題ないだろう。もし逃げ出すようであれば、それもまた一興だ。何度でも捕まえて望みを尋ねてやろう。


 俺は階段を飛び降り、魔法で着地する。 

 そして冷蔵庫(これも自作の魔法)のある台所に一目散に駆けていった。


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