13.迷子のお知らせ
園内に踏み入れて最初に目に入ったのは、大きなジェットコースターだった。
この遊園地はあまり広くはないが、これだけ異様にデカいしレールが長い……ということは多分、これに力を入れているんだろう。
つまりこれが、この遊園地の目玉のアトラクションってことなんだろうな……ヒナノはこのことを知っていたから、ここを選んだんだろうか?
まぁ……この近くの遊園地なんて、この『マジクル遊園地』くらいしか思い付かないけどね。
「シュン君! あれに乗ろうよ!」
「ああ、分かった」
そしてヒナノに言われるがまま、俺らはジェットコースター乗り場まで歩いて行った。
……小さな遊園地とは言え、今日は土曜日。まぁまぁ多くの人数が並んでいた。
「やっぱり多いねー」
「まぁな……30分位はかかるかも」
「そっかー。じゃあ頑張って待とう!」
「ああ」
正直、俺は待つ時間は嫌いなんだけど……それでもヒナノがいれば、こんな時間も楽しいものに変わるんだよな。
「シュン君は待つ時間って好き?」
おっと、タイムリーな質問だな。まぁ、ここは素直に答えておこう。
「いや、待つのはあんまり好きじゃないかな。でもヒナノがいるからさ……」
「うんうん」
「えっ?」
もしかして……ヒナノは続きの言葉を待っているというのか?
「私がいるから……どうなの?」
やっぱそうじゃん。いや言ってもいいんだけどさ。いいんだけどさ……照れちゃう。
「えっと、まぁ。ヒナノがいるから、ちょっと楽しくなるかなー。なんて……」
「うん! そっか、嬉しい!」
でも喜んでくれたのなら。何よりです。
……まぁだからといって俺達は、待ち時間ずっと喋りっぱなしってワケでもないんだ。
既に信頼関係? みたいなものが形成されているから、お互い黙ったままでも特別変な空気にはなったりしないんだよ。
むしろ黙ったままの方が心地良いというか、心の中が伝わってくるというか……そんな気がするんよな。
これは俺が勝手に思ってることだけど、ヒナノも同じように思っててくれたら嬉しいな、なーんて。
「……ゴホッゴホッ」
「ん、ヒナノ大丈夫か? 風邪でも引いた?」
「あっ、ううん、大丈夫だよ!」
「そっか」
ヒナノはそう言ってるけど、季節の変わり目は風邪を引きやすいって言うからなぁ。
急に寒くなってきたりするし、今日もちょっと風が強い……あっ、そうだ。いいこと考えたよ。
ここで俺が颯爽と温かい飲み物でも買ってきて……ヒナノに渡せば。気の利く男アピールが出来るんじゃないか!?
やるか……? うん、やろう。
「ヒナノ。俺、何か飲み物買ってくるよ!」
そしたらヒナノは。
「えっ……それなら私が行くよ!」
と。
「いやいや、ここは俺に任せてくれ。こういう時はおれゃ、俺に……頼っていいんだ!」
噛んだ。やっぱ慣れないセリフは言うもんじゃないな。
「でっ、でも……」
「ホントにいいんだよ! パッと買ってくるから待ってて!」
「あっ!」
そして噛んだ恥ずかしさから逃げるように俺は列から抜けて、ヒナノに献上する飲み物を求めて探し回った。
──
「……あった!」
歩き回ってやっと売店を見付けた。そして俺はそこの列に並んで……自分の番が来るのを待った。
……しかし、中々俺の番は回ってこない。どうも前のカップルが注文を悩んでいるらしい……ああ、早くしてくれ。
「……」
……羨ましい。はぁ。やっぱり俺もヒナノと一緒に来るべきだっただろうか。ほんの数分だけしか並んでいなかったんだし、列から離れてもまた並び直せば良かったんじゃ……
いや。俺がカッコつけて……気を利かせて買ってくるという選択をしたんだ。
それを選んだ以上、しっかりと成し遂げてヒナノに喜んで貰おう。そして「シュン君は気が利くね」って言って貰うんだ……へへ。うへへへへ。
「はい、次のお客さんどうぞ」
「えっ、あっ、はい」
気が付いた時には、前のカップルはビックサイズのポップコーンみたいなのを持って、既に向こう側に行っていた……映画館かよ。
「何にします?」
「あっ、えっと……えっ?」
そして俺はそこにあったメニュー表を見て……目玉が飛び出た。
『ポテト500円』『からあげ500円』『飲み物各種400円〜』
たっ、高ぇ……これがテーマパーク料金なのか。にしてもやり過ぎじゃねぇか……?
「お客さん?」
「あっ、はい」
でもこの状況で「やっぱりいらん」なんて言えるワケないし……いやもう、仕方ない。
「コーヒー……ホットコーヒーを2つ」
「はい、まいど。800円ね」
「……」
俺は財布から小銭を取り出して、トレイに置く……そして俺はその場から、ジョワジョワとコップに注がれるコーヒーを眺めた。
「……」
「はい、どうぞ」
そして俺は800円の重みとは思えない軽さのコーヒーを受け取り、ヒナノの元へと戻って行くのだった。
──
「……あれ? えっ?」
それでジェットコースターの場所に戻った俺は……非常に焦っていた。それは何故か。
──ヒナノの姿が見当たらないからだ。
まさか……進み過ぎてもう乗っているとかか? いや、流石にそれはおかしいよな。だってまだ30分も経っていない。
時間がかかったとは言え、せいぜい10分くらいだ。だから……それはありえないんだ。
じゃあ他の可能性……はっ、まさか!
連れ去られてしまったのか!?
嘘っ、うそうそうそヤバイヤバイって!! いやいやおちおちち落ち着け。俺!!
ヒナノが勝手にうろつくとは思えない……いや、そうでもないかも……しれない。
だってあの時ヒナノは何か言いたそうだった……だけど、俺はヒナノの言葉を聞かずに、走って行ってしまった……
えっと。じゃあ。仮に。ヒナノは何かしらの理由で俺を追いかけた。でも俺を見付けられずに、迷子になってしまった。
その時に怪しい黒ずくめの男が現れて……背後から迫ってくるもう1人の男に気が付かなくて……謎の薬を…………
「うっ……うわぁああー!!!!」
何て想像をしているんだ俺は!! あれ以上にヒナノって小さくなるんかなとか考えるな馬鹿!!! 本当1回あの世行くか!!?
とっ、とにかく!! 今俺がやることは、ヒナノの捜索だ!!
まずは周囲をくまなく探そう……!!
決めた俺は、持っていた2本のコーヒーをゴミ箱にぶん投げて走り出した──瞬間。
『ピポパピポポン』
園内アナウンスが。
『マジクル遊園地にお越しいただき誠にありがとうございます。園内のお客様に迷子のお知らせがございます』
「……」
『猫の服を着た麦わら帽子の陽菜乃ちゃんのお兄さん。迷子センターにて、陽菜乃ちゃんがお待ちです。繰り返します……』
「…………えっ?」
いや、確かにヒナノって。えっ。いや同じ名前だとしても。服装も一致するし。えっ。
いや……えっ? ホントに……えっ?
こっ、これは……何が。マジで何が起こっているというんだ?




