12.今来たとこだから!!
そして迎えた土曜日。
「……」
俺は遊園地に来ていた。理由はもちろん、ヒナノと約束したからなんだけど……結局、これってデートなのだろうか?
まぁ……ただの俺のメンタル強化に付き合ってくれているだけなのかもしれないけど。それでもヒナノと2人で遊園地、だなんて楽しみじゃないワケがなかったんだ。
ただ……
「……早く来過ぎたな」
俺は入口付近に置いてある時計を見る。ヒナノと約束した時間は11時だが……今の時刻は10時13分。
なんとまぁ、体育会系もびっくりの50分前行動である。
いや……だってワクワクしちゃって寝れなかったんだから仕方ないだろ?
それにこんなこと今までになかったから……遠足の前日だろうが修学旅行の前日だろうが、ぐっすり眠れた俺がこうなっているんだから、1番俺が驚いているんだぞ!
……俺は誰に言い訳しているんだ?
しかし……こうやって待つのも暇だな。
一応もう遊園地は開園しているみたいだが……先に入っておくか?
いや。それはダメだろ……それに1人で入って何しときゃいいんだよ。アトラクションに乗る勇気もないし……ただ園内をウロウロする不審者の出来上がりだよ。
「はぁ……」
それならやっぱり……この入口で待機しよう。暇だが、ヒナノを待つくらいなら。余裕で耐えられる。
俺は心を無にし、目を瞑ってヒナノが来るのを待った……
「……」
「……あれっ?」
何かヒナノに似た声がしたような。いや……流石に気のせいだよな。気にせず俺は目を閉じたままで……
「…………シュン君?」
「えっ?」
自分の名前に反応した俺はパチッと。いや、バギっと開眼する。
そして目に飛び込んで来たのは……
「ふふっ! やっぱりシュン君じゃんか!」
「────!!」
いつもの制服姿とは違った、可愛らしい猫のイラストの描かれた白いTシャツに、斜めがけのバッグ。そしてチェック柄のスカートに……
「おーい、どうしたのシュン君ー?」
リボンの付いたカンカン帽を被り、前髪にはヘアピンを付けたヒナノの姿だった。
「あっ、あっひ、ひっ、ヒナノ!」
俺は久しぶりにキョドってしまう。でもそうなるのも無理はないよ。
だって。こうやっていつも普通に話していると忘れがちだけど……本来ヒナノは、俺と関わってはいけないくらいの、超絶美少女なんだから。
「もー。どうしたのよシュン君?」
若干呆れたようにヒナノは、ほっぺたを膨らませて言う。
「いっ、いや、そ、その……」
続きの文字が。「可愛いね」の一言が出てこない。何でだ。どうしてだ俺っ……昨日はあんな軽く言えたじゃないか!!
言えっ……どうにか言えよ俺ッ……!!
「……いっ、今来たとこだから!!」
馬鹿! 俺の馬鹿!! 何言ってんだ!! 言葉が違ぇだろ!!
そしたらヒナノは少しポカーンとした後、「……あっ!」と気が付いたみたいで。
「ふふっ、シュン君! それは私が『待った?』って聞いた時に言うんだよ!」
と。それは分かってるよ……あぁ……もうクソ恥ずかしいよ。土に埋めてくれぇ……
「いや……ごめん」
「いいって! それに、そういう所だけ不器用なのも、何だかシュン君らしくて笑っちゃうよ!」
「……」
でもヒナノは俺が何言っても笑ってくれるから……それは本当に助かるや。
「えっと、それでヒナノ……確か集合は11時じゃなかったっけ?」
「うん、そうだよ!」
「なら……どうしてこんな早くに?」
そして俺は気になっていたことを尋ねた。そしたらヒナノは「うーん」と少し考えるような仕草を取った後に。
「それは……ちょっと早く起きちゃってさ。だから先に行って待っとこうかなって思ってたんだけど、もうシュン君がいたから私、びっくりしたんだよ!」
「あっ。そうだったんだ」
「んーじゃあ、シュン君は?」
ヒナノは俺に同じことを聞いてくる。まぁここは……変に嘘をつく必要もないだろう。
「俺は……いや。俺もだよ。俺も楽しみで早く目覚めちゃったんだ」
まぁ目覚めたというか、寝れなかっただけなんだけど。似たようなものだろう。
そしてヒナノは口に手を当てて。
「ふふっ、シュン君も可愛い所あるんだね。ちょっと安心したよ!」
「安心? どうしてだ?」
「だってシュン君って基本冷静というか、落ち着いているイメージがあるじゃん」
「あっ、ああ……そうだね……?」
最近はもう、キャラが崩壊しまくっている気しかしないけど……実際ヒナノの言う通り、俺はクール系キャラなんだよ。悪く言えば陰キャ。
「そんなシュン君が子供みたいなこと言ったから……可愛いって思ったの!」
「どっ……どうも」
というか……女の子に可愛いと言われた男は、喜んでいいものなのだろうか。
別に悪意のある言葉じゃないのは理解しているけれど……これで喜ぶ俺は何だかダサくないだろうか。どうなんだろう。
「じゃ、ほら! もう行こうよ!」
「あっ、うん」
そうしてお世辞にも上手とは言えない会話を終えた俺は、2人のチケットを買って園内に足を踏み入れたのだった。




