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5.小さな暖かい手

 屋上。


 あまり綺麗とは言えないコンクリートの地面に、申し訳程度に置かれたソーラーパネル。そしてかなり錆び付いたハシゴのかかった給水塔。


 こんなんじゃラブもロマンスも始まりそうにない場所だが……それでも俺はこの場所をとても気に入っていた。


 理由は景色だ。


 この馬路軽高校……通称マジ校は田舎に建っているため、周辺には田んぼかジャスコくらいしかない。


 でもここから見れば……立派な高層ビルやタワー。遠くにある遊園地の観覧車だって見える。


 窮屈で退屈だと思っていた世界が、少しだけ広く見えてくるんだ。だから……俺のとっておきの場所なんだよな。


「あははっ! 風が気持ちーね!」


 初めて屋上に入ったであろう雨宮は、喜び大きくはしゃいでいる。ボール遊びしている子犬みたいだ。


 そして雨宮は屋上の真ん中で立ち止まり、両手両足を広げてこう言った。


「そうだ! 今度ブルーシート持ってこようよ! ここに引いてお昼ご飯食べるの!」

「……いいなそれ」


 考えた事なかったが悪くないアイディアだ……全校生徒の1番上から食う飯は、さぞ美味いだろうな。


 それで雨宮と屋上をぐるっと一通り回った後、俺は柵の手すりに体を預け……本題に入ることにした。


「それで……雨宮。お願いしたいことがあるんだけど」

「なあに?」

「俺がマジシャンだってことを……絶対に誰にも言わないでほしいんだ」


 俺が言うと、雨宮はとっくに分かっていたかのように「んふふっ!」と微笑んで。


「うん、いいよー!」


 と、素直に頷いてくれたのだった。


「ありがとう。とても助かるよ」

「でも……どうして言っちゃいけないの?」

「目立ちたくないんだ」


 すると雨宮は不思議そうな表情をしながらも、またコクコク頷いた。


「へぇー。でもでも、マジシャンって目立ちたい人がなるものなんじゃないの?」

「それは…………そうかもしれないけど」


 それは完全に否定は出来ない……けれど。俺はもう違う。あんな目立つような……大勢の前でやるのは。もう。嫌なんだよ。


「人前で披露するのは……もうやめたんだ」

「えっ、どうして?」

「……」


 ……この話をするつもりはなかったけれど。雨宮に聞かれちゃったからな。


「なら……少し過去の話をしていいかな」

「うん。あ、でも、無理に話さなくてもいいからね?」

「……大丈夫だよ」


 …………いや。本当はこんな話を聞いてくれる人を、俺はずっと求めていたのかもしれないな。


 少しだけ自分のことを情けないと思いつつも、俺は雨宮に語り始めるのだった。


 ──


 俺は小さな頃からマジックをやっていたんだ。ほとんど独学でな。


 最初はただの暇つぶしでやってたんだけど……ある日友達にマジックを見せてやったんだ。


 そしたらそいつすげぇ驚いてくれて……無口なヤツだったからさ、そんな顔を見るのがとっても新鮮でさ。


 俺には人を驚かせる力があるんだってその時に気づいたんだ。


 そして俺はマジックと同時に、色んな人の驚いた顔を見るのもスゲー楽しくなってさ。こいつもアイツもびっくりさせてやろう……ってのを続けていたら。


 いつの間にか、俺は立派なステージの上に立っていたんだ。


 そして『天才少年マジシャン』だなんてご立派な肩書きを付けられたりさ。学生のコンテストにも出て、賞を取ったりもしたんだ。




 でも……俺が中学生になって、またコンテストに出た時。そこで事件が起きたんだ。


 その時の俺はそっちの界隈では結構有名で、俺を知ってる人も沢山いた。


 だから恐れたのか知らないけど……俺が目を離した隙に、誰かが俺のマジック道具に細工を仕掛けたんだ。


 マジックが成立しなくなる様な細工をな。


 ……壊してくれた方がまだマシだった。すぐに気がつけたからな。俺がそれに気づいたのは……ステージ上だった。


 …………結果は散々。そりゃそうだ。ほぼ全部失敗したんだからな。


 そして初めて賞を逃して、周りからは散々馬鹿にされて、ボロクソに言われて……もう全てが。何もかもが嫌になった。


 そっからコンテストに出たり、ステージ上でやったり……そういう人前でマジックを披露するようなことはやめたんだ。


 ──


「でも……それでも誰に見せるわけでもなく、1人でこっそりと続けているのは、やっぱりマジック自体が好きだからなんだよな」

「……」

「ははっ。ごめんな、こんな暗い話をして────」



 俺がそう言い終わる前に……雨宮は俺の手を、両手で包み込むように握ってきたのだった。



「……あっ、雨宮!?」

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