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28.清々しい気分

 そして俺はヒナノからスマホを返してもらい、高円寺に言う。


「そんな訳だから、本当に申し訳ないんだけど……花火は3人で見てくれ」


「ちょっと!? あいのーん!!」


「じゃーな高円寺」


「ちょ、まっ──」


 これ以上会話していると面倒なことになりそうだと判断した俺は、ピロンと電話を切った。


 ふぅ……俺も後で草刈と委員長に謝っておこう。そう思いつつヒナノの方をチラッと向いてみたら。


 にへへっと笑顔で、俺の顔を見ていた。


「ヒナノ?」


「あっ、ごめんね? シュン君が心美ちゃんと本当に仲直りしてたみたいだから、安心してたの!」


「そうか。もう俺らは大丈夫だよ」


 ヒナノもヒナノで、自分のせいで俺と高円寺が喧嘩してしまった……って考え込んでいたのかな。それだったら申し訳ないや。


「……アイツもさ。ヒナノと花火見るの、とっても楽しみにしてたみたいだからさ。今度は全員集まってから、会場に行こうな」


「うん!」


 ……そんな会話をしていたら。


『パァン』『ドォン』と花火の打ち上がる音が聞こえてきた。


「おっ、始まったみたいだ」


「そうだね……あっ、でもでも、ほら! ここからでもちょっと見えるよ!」


 ヒナノに言われ、俺も上を向いてみた。そしたらカラフルな花火が、連続して打ち上がっているのが目に入ってきた。


 もちろんここからは離れているので、あまり大きくは見えなかったけど……それでも綺麗だと分かった。


「ふふっ! シュン君凄いね!」


「ああ……もっと近ければ、凄い迫力なんだろうな」


「もー! そんなこと言ったら、近くで見たくなっちゃうじゃん!」


「ははっ、ごめんって」


 まぁ花火なんかの大きさは、どうだってよくて……俺はヒナノと一緒に見れるのが、1番嬉しいんだ。


 俺は花火に夢中になっているヒナノを見つめる……ふふっ。あんなに口開けちゃって、可愛いなぁ。


「……」


「…………ん、どうしたのシュン君?」


「えっ?」


 どうやら……俺の視線に気付かれたみたいだ。え、どどどうしよう……!? どうにか言い訳を……!


「ほ、ほら!ヒナノも花火みたいに素敵だからさ!」


「……」


 だから何を言ってんだよ俺は!? ギャルゲーでよくある、1番下のネタで出てくる選択肢みたいなこと言ってんじゃねぇよ!! 馬鹿ァ!!


 ああ……恥ずかしいよ。そしてこれは完全に嫌われたよ。だってめちゃくちゃ気持ち悪いもん……墓石買う準備でもしようかな。俺、虹色に光るやつがいいな。


「んふふっ。ありがと!」


「……えっ?」


 予想外の好意的な返事に俺は驚いてしまう。


「シュン君って本当に不思議な人だよね。ちょっと内気な男の子かと思えば、たまにチャラい人でも躊躇するような、ドキッとするセリフを言うんだもん!」


「えっ……えっと、ごっ、ごめん!」


「そんな謝らないでよ! 私はシュン君の言葉が……とっても嬉しいんだよ?」


 えっ……? うっ、嬉しい!? 俺の言葉が!? そそそれってどういう……!?


「えっとそれでね……私もね、シュン君に謝らないといけないことがあるの。いいかな?」


「えっ?」


 その言葉で、俺の暴走した脳内は落ち着きを取り戻す。これは……真面目に聞いた方がいいやつだろうか。


 そう思った俺は、真剣にヒナノの言葉に耳を傾けたのだった。


「隠してたじゃん。短距離に出ること。そして午前からあるのに午後から来てって言っちゃったこと」


「ああ……そうだったね」


 高円寺と喧嘩したことの印象が強くて、そのことはすっかり頭から抜け落ちていたよ。


「実は私は短距離の方が得意らしいの。でもちょっとトラウマってレベルの物じゃないんだけど……ちょっと嫌な過去があってね」


 それはもしかして……ヒナノのお父さんが言っていた、運動会で転んで悔しい思いをしたってやつかな。


 まぁ……もう知ってるよ、なんてわざわざ言う必要はないけどな。


「だから私、短距離のスタート前はとっても緊張しちゃうんだ。心臓の音が他の人にも聞こえるんじゃないかってくらいドクドクしちゃうの」


「そうなのか……ヒナノ。こんな言い方するのは本当に悪いと思っているけどさ。そんなに緊張するのに、よく大会に出れたよな」


「ううん、いいのいいの! 練習は何回でもやり直せるから、何回か走ればいい記録が出るの! 大会に出させてくれるタイムもそれで出したんだよ! でも……本番はそうはいかないんだよね」


 なるほど……高円寺が言っていた、参加標準記録の謎もこれで分かったな。


「だから絶対に失敗するって分かってたから私、みんなに走る所は見られたくなかったの」


「えっ? それなら……」


「でもね。心のどこかではね、みんなに応援して貰いたいなって思ってる私もいてね……あはは、ごめんね? 私、おかしなこと言ってるよね?」


 ヒナノは明らかな作り笑顔でそう言った。ヒナノ……俺の前では、そんな無理しなくていいんだぞ。


「大丈夫だ。全然おかしくなんかないよ」


「ありがとうシュン君。優しいね!」


 自分のことを優しいと思ったことは無いのだが……ヒナノが言うのなら、信じてもいいのかもな。


「……だから私ね。走る前、シュン君と心美ちゃんの声が聞こえて。とってもびっくりしたけど、それと同じくらい安心したんだ!」


「安心?」


「うん。言葉にするのは難しいけど……何だか心が暖かくなってね。『見てほしくない』なんて感情は綺麗さっぱり、消えて無くなったの!」


「えっ……!?」


「結果としてスタートは失敗しちゃったけど……それでも、いい走りは出来たと思うんだ!」


「そっ、それって……」


「うん。シュン君達の応援は邪魔なんかじゃなくて。むしろ私の力になっていたんだよ!」


 そうだったのか……それに気が付かなくて『スタートを失敗したのは俺のせいだ』なんて決めつけて、思考停止していた俺は……本当に愚か者だな。


「あの時にそうやって私が言えば良かったね。そうしてたら、シュン君は心美ちゃんと喧嘩なんかしなかったもん!」


「いやいや……俺が暴走してたからさ。それは難しかったと思うよ」


「それでシュン君、私を許してくれるかな?」


「ああ。そんなの当たり前じゃないか!」


「ふふっ、ありがと!」


 そう言って、ヒナノは大きく伸びをする。


「んーー! 言いたいことが全部言えたから、とってもスッキリしたよ!」


「それは良かったよ……それでヒナノ。今度の大会はちゃんと全員で応援しに行っていいんだよな?」


「うん、もちろんだよ! じゃんじゃん来てよ!」


「ああ。少なくとも俺は、毎回行くよ」


「あははっ! そんな無理はしなくていいんだよー?」


 ……お互いに言いたいことが言えた俺達は、さっきよりも明らかに清々しい顔をしていたんだ。

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