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29.花火文字

 そしていつの間にか花火の音は鳴り止み……辺りは真っ暗になっていた。こんな辺鄙な場所には、街灯なんてロクにないからな。


「あっ、もう花火終わったみたいだね」


「そうみたいだ」


 まぁ後半の方はもう話ばかりしていたから、花火なんて全然見てなかったけどね。


 それで……もう何も見るものもないこの場所に、留まっているのも変だから。帰るしかないのかな。


 もう少し一緒にいたいだなんて。それはきっと、俺の大きなワガママだ。


 だから……言わなきゃいけないんだ。「そろそろ帰ろっか」って。それなのに。


「……」


 俺の口は開くことはなかった。


 こんなに幸せな時間を自らの手で終わらすような……そんな馬鹿な真似は出来なかったんだ。


 分かるだろ? 例えば遊園地に行った子供は、自分の方から「もう帰ろう」と親に言うと思うか?


 そういうことだ……多分。


「……」


 それで……俺と同じように、ヒナノの口も開くことはなかったんだ。


 このお互い無言の時間が、かなり長い間続いた。


 でもそれは別に気まずい、なんてことは全くなかった。むしろ……この状態が。こんな時間がいつまでも続けばいいなと思っていたんだ。


「……」


 ヒナノがどう思っていたのかは分からないけど。


 そしてその長い長い沈黙を破ったのは、ヒナノの方からだった。


「……シュン君。あのさ」


「うん」


「何かちょっと……物足りなくない?」


「えっ?」


 物足りない? 打ち上がった花火の数がってことなのか? いやヒナノが言ってるのは、多分そういうことじゃなくて……


「このまま夏が終わるのがってこと?」


「うん、そうそう、そんな感じ!」


「そっか。俺もそう思っていたよ!」


 まさかヒナノからそうやって言ってくれるなんて。こんなに嬉しいことは無いよ。


「それじゃあ……2回戦やっちゃおうよ!」


「2回戦?」


「えっとね、さっき調べて分かったんたけど、ここから1キロくらい先にコンビニがあるみたいなの。だからそこで花火を買って……」


「あっ、俺達だけの花火大会を開こうってことか!」


「うん!」


 中々いいアイディアだ。ただ1つ問題なのは……コンビニが遠過ぎるってことなんですけど。


「でも……1キロも歩くのか?」


「大丈夫だよ! 1キロなんてすぐだよ!」


「それは陸上部員の体感だろ?」


「あははっ! そうかも!」


 ……でもまあ。ヒナノの隣にいる時間が増えるのは、悪くはないのかもしれない。


 俺達は立ち上がり、他愛のない会話をしながらコンビニへと向かったのだった。


 ──


 そんでそこそこ時間は経って。俺らはコンビニで買った花火、ローソク、バケツを持って、さっきの川まで戻っていた。


「ふぅー戻って来たね!」


「ああ……疲れた」


 いくら歩きだからと言っても、この距離はやっぱりキツいよ。ヒナノはまだまだ元気そうだったけど。


「シュン君! 早速やるよ!」


「おう……どれをやるんだ?」


「まずはこれ!」


 言ってヒナノは花火の入ったビニール袋を、ベリベリ破る。そして手に取ったのは、手持ち花火だった。


「ああ、シンプルなやつね」


「うん! シュン君もほら!」


 ヒナノは俺にも手持ち花火を渡してくる。俺はお礼を言って、それを受け取った。


 そしてヒナノは続けてローソクも取り出して……火をつける。


 ……さっき知ったんだが、花火はライターとかで直接火をつけてはいけないらしい。勉強になるね。


 そしてそのローソクに灯った火を、手持ち花火の先端に近づける……そしたら。


『シャー』と音と共に、ヒナノの手持ち花火は光と煙を噴射させるのだった。


「あははっ! スゴいスゴい! ほら、シュン君も!」


「あっ、ああ!」


 俺も火をつけてみようとする。何回かローソクの火で熱していたら……無事、俺の花火にも火がついた。


「わっ!」


「シュン君も出来たね!」


「ああ! すごいな!」


 こんな花火遊びだなんて、もう小学校低学年以来やっていなかったから、やってるヤツらを馬鹿にしていたけれど……確かにこれは面白い。


 そして火を扱っているから、何かイケないことをやってるみたいで……それもなんかイイよな。


 俺はその持っている花火を動かすことなく、じっくりと眺めていた。この光は綺麗というより……やっぱり面白いという言葉が似合うや。


「あー消えちゃった! それならもう1回!」


 ヒナノは最初の花火が終わったらしく、また袋から花火を取り出す。そして火をつけて……


「……ヒナノ? 何してるんだ?」


 ヒナノが花火を振りましているのが、目に入った。元気なのはいいことなんだけど……危ないよ?


「これはね! 花火で文字を書いてるの!」


「文字?」


「うん! シュン君は花火文字って知ってる?」


 知らないけど……まぁ言葉の通り、花火で文字を書くことなんだろうか。


 そんな風にヒナノに言ってみたら、「そうだよー!」と元気な返事が。合っていたらしい。


「ホントはスマホとか使って、綺麗に文字に出来るんだけど……今回は面倒だから、このまま見てよ!」


「ああ、分かった」


 そしてヒナノは花火を上に横に振って、文字らしきものを書いていく……が、俺には何の文字なのか全く分からなかったのだ。


「はいっ! なんて書いたでしょー?」


「いや……分かんない」


「正解は『オムライス』でしたー!」


「何でだよ」


「私の好きな食べ物なの!」


「そうなの?」


 初めて知った……これはメモっとくべきだろうか。


「じゃあ次! 次は……私の好きな記号!」


「き、記号?」


「いくよ!」


「あっ、待ってよ!」


 そんな花火で書いた物を当てる、ヒナノクイズの時間がしばらく続いたのだった……ちなみに記号の答えは、ハートマークだった。


 ──


 気が付いたら、あれだけ入っていた袋の中身はほとんど空っぽになっていた。


「シュン君! これが最後の1本みたいだよ! 使う?」


「いや、ヒナノが使っていいよ」


「やったー!」


 ヒナノはウキウキで、最後の花火に火をつける。そして……


「じゃあこの最後の1本も、クイズやろっか!」


「あー。まだやるのか?」


「だってシュン君、全然当ててくれないんだもん! だから1回くらい当ててほしいなーって思ってさ!」


「そうか。そんじゃ頑張るよ」


 んなこと言いつつ、どうせ分からないからあまり本気で臨もうとはしていなかった……


 ……が、次のヒナノの一言で俺は、その考えをぶち壊す程の衝撃を受けたのだ。


「最後の問題は……私の好きな人の名前!」


「えっ!?」


 おい。おいおい、待て待て待て!! そんな問題を出していいのか!? そもそもヒナノには好きな人がいたのか!? っていうかその好きはどういった好きなのか……


「シュン君、いくよー!」


 混乱してる俺なんか気にしてないのか、ヒナノはもう始めようとしている。


 ともかく……この問題は本気で挑まねばならない。それだけは……確かみたいだ。


「あ、ああ! こい!!」


「うん!」


 そしてヒナノは花火を上に下に振って、文字を書いていく。


 心做しかさっきよりも書くスピードが速くなっている気がしたが……そのくらい、どうにでもなる!! マジシャンの集中力を見せてやるよ!!


 俺はヒナノの書いた文字を指でなぞっていって、1つ1つの平仮名を把握していった。


「……はい、終わり! 2回目は無いよー?」


「……」


 大丈夫。全ての文字をキャッチすることが出来た筈だ。


 俺は最初の文字から順番に思い出し、ゆっくりと言っていった。


「し、ゆ、ん、く、ん、す、き……ん? しゅんくんすき……」


 繋げて言った時に、ようやくその言葉の内容に気が付いた。


「……えっ?」


 えっ? え、えっちょ、えっ? 嘘? うそぉ!!?


 シュン君って……俺のことだよな!? 自惚れじゃないよな!? 飼ってるペットの名前とか言うオチはないよな!? ちょっと待って待って……!


 ……いや、落ち着け。しっかりしろ。俺っ!!


 多分ヒナノは……ドッキリか冗談かで、こんなことを書いた可能性だってある。


「ほら、騙されてやんのー!」みたいなことを言って、馬鹿にされる可能性だってあるんだ。慌てるな、落ち着け落ち着け。


 そう思って、俺はヒナノの方を向いてみた。そしたら……


「もう……どうしてこれだけ分かったの……?」


 顔を真っ赤にして言うヒナノの姿がそこにはあったんだ。


 …………あれーっ? これって。ガチじゃないか?

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