20.後悔しない方を選んで
そして……開会式的なやつが終わると、すぐに競技が始まろうとしていた。
ボーッとそれを眺めていると隣で高円寺が。
「ねぇねぇ、あいのーん。調べて分かったんだけど、大会に出るには参加標準記録ってのを超えないと出られないらしいの」
「さんか……? なっ、何て?」
「参加標準記録。要するに大会が決めた秒数を切らないと、参加すらさせてもらえないの」
「へぇ……そんなのがあるんだ」
マジックの世界ではあんまり聞かないよな……あるとするなら、年齢制限のある大会くらいだろうか?
「ちょっとあいのーん! 何でそんな反応薄いの!?」
「えっ?」
「ヒナヒナが参加出来てるってことは……相当速いってことなんだよ!?」
「ああ……そうか。そういうことか」
なら……長距離に出なかったんじゃなくて……長距離には出られなかったってことなのか。
そんなことを思っていたら……早速予選が始まったみたいだ。
第1レース。ユニフォーム姿の少女達が出てきて、軽いアップを始めている。
そしてその後にレーン毎に1人ずつ名前が呼ばれ、選手は礼をする……選手が紹介される度、スタンドからは応援の声が飛んでいた。
恐らく同じ学校の人達が応援しているのだろう……にしても凄い声援だ。肌が震えている。
そして……ガチの審判の。
「On Your Marks (オン・ユア・マークス)」
で……静寂が訪れる。選手らは準備をして……大きな号砲で一斉にスタートする。
瞬間に歓声は最高潮になり、地が揺れるような錯覚を覚えた。そして圧倒的なスピードで選手は走りきり…………ゴールを超えた。
「……!」
こんな数秒で観客をここまで沸かせるなんて……!
自分の知っている世界とは全く違う物が見れて……俺は一種の感動を覚えたんだ。
「ひゃー! 速いねぇ!」
「そうだな……スゲェや」
見てるだけでこんなに熱くなれるなんて……陸上ってこんなに凄いものなんだ、何て思ってたら。
「よし、あいのーん! 前に行くよ!」
高円寺は立ち上がってそう言った。
「えっ?」
「えっ? じゃないよ! 次はヒナヒナの番でしよ!」
「そ、そうか!!」
すっかり順番を忘れていた。ヒナノは2レース目だ。
俺らは立ち上がって、急いで前に行く……そこにはヒナパパが既に立っていた。
「おっ、君たちも来たか」
「はい。近くで見届けたいですから」
「そっか。ありがとう」
「いいえ……そんなお礼言われることじゃ……」
「……あっ、出て来たよ!」
高円寺の声で俺らは正面を向く……そこには、いつもとは違った表情をしたヒナノの姿が。
「来た、ヒナヒナ!」
そんな脳天気な高円寺に対して、俺とパピーは。
「うわっ、相当ヤバそうだな……ヒナノ」
「ああ……こっちまで緊張してくるよ」
めちゃくちゃ不安がっていた。どう見てもヒナノが……これ以上ないほどに緊張していたからだ。
「えっ? 何?」
どうしてこういう時だけ勘が鈍いんだよ! お前は!
「陽菜乃は明らかに震えている。あの状態じゃいつもの力は出せそうにないな……」
「クソっ……どうか頑張ってくれ……ヒナノ!」
「……?」
そんな中、高円寺は。
「んーそれならさ。選手紹介の時に、思いっきり叫んであげようよ! それで緊張を取ってあげるの!」
「……」
その提案に……俺は賛成出来なかった。
「ヒナノは……この時間に俺達が来ているとは思っていない。だから……ここで声を上げたらより一層、彼女を動揺させてしまうかもしれないんだ」
そしたら高円寺は。
「はぁ!? ウチらはヒナヒナを応援しに来たんだよ! ここで声を出さなきゃどうするの!?」
「……ッ!」
分かってる……そんなの、分かってるよ! それでも……俺は! ヒナノの為に黙って見守るのが! 正しいと思うんだよ!
……そんな言い合いを見たヒナノパピーが。
「……シュン君、君は本当に優しいんだね。道理で陽菜乃がいつも君の話をする訳だ」
「えっ……?」
「もちろん君の考えはとても素晴らしいものだ……陽菜乃を1番に考えてくれて、心情を読み取ってくれている。親としてこんなに嬉しいことはないよ」
「……」
「……でも君は。シュン君自身はどうしたいんだい? 本心を聞かせてくれないかな」
「……!」
俺……自身? そんなの……そんなの決まってる。
「おっ……俺は! 俺だって! アイツの大声で呼んでやりたいです! でも……ヒナノを動揺させたくもないんですよ!」
「……そうかい。それは両立するのは難しそうだ」
「……」
「だから……君が後悔しない方を選んでくれ。結果がどうなろうと僕は、絶対に君を責めることはないから。陽菜乃がどう思うかは……保証出来ないけれど」
「……はい。分かりました」
俺の後悔しない方……それはこっちしか……ありえないよ。
「…………あいのーん。どうするか決めたの? もうヒナヒナのアップ終わっちゃうよ?」
「……」
「ねぇ、あいのーんってば!」
「…………メガホン」
「えっ?」
「メガホン……貸してくれ」
そしたら高円寺はパァーっと明るい表情をして。
「……うん!」
赤色のメガホンを貸してくれた。そしてすぐに選手紹介が始まった……
『……第6レーン。雨宮陽菜乃さん』
俺は……恥なんか顧みずに。今まで出したことのないくらいの声量で。目いっぱい叫んでやったんだ。
「ヒナノォッ!!!! 頑張れぇー!!!!」
「ヒナヒナ!! 頑張ってー!!」




