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19.私だけのマジシャン

「とっても楽しかったね! シュン君!」


「そうだね」


 その後、俺達は屋上に戻って、グラウンドで行われているキャンプファイヤーを上から眺めていた。


 その光景は綺麗で、結構感動するものだったが……ちょっと気になることが。


「なぁヒナノ。普通こういうのってさ、最終日にやるもんなんじゃないのか?」


 そう聞くとヒナノは理由を知っていたらしく、素早く俺に説明してくれた。


「えっとね、確か明日から雨が続くらしいから、今日やることにしたらしいんだよ!」


「へぇ……それなら仕方ないか」


 我々人類は天候に敵わないからな。


「そういや高円寺は? アイツ帰ったのか?」


「心美ちゃんなら……そこのキャンプファイヤーに向かったよ。『イケメンを見つけて、一緒に踊ってやるー!』って言ってた」


「あ、そう……」


 自分に正直なのは素晴らしいことだが……そこまでがめついているのは少し引く。ん、というか……


「……ヒナノは。行かなくて良かったのか?」


「えっ?」


「いや、俺の勝手な予想だけどさ、ヒナノと一緒に踊りたいと思っている奴って、沢山いると思うんだ」


「……えっ、そ、そうなのかなぁ?」


 ヒナノは若干困惑している様子だった。あまりモテていることを自覚をしていないのか、あるいは……いやこれ以上は止めておこう。


 そしてヒナノは大きく手を広げて。


「でもね、私はここで見たかったんだ! きっとここなら綺麗に見えるだろうし!」


「そっか。なら良かったよ」


「うん!」


 確かにこの場所は俺達だけの特等席だからな。誰にも邪魔されずに、誰からよりも高い位置で見られるSS席だ。その辺のカップル共が、喉から手が出るくらいに欲しがっている場所だろう……


「……」


 まぁ……その割にはヒナノ。キャンプファイヤーじゃなくて、こっちばかり見ているんだけど。


 暗闇で分からないと思っているのかもしれんけど……意外と見えちゃっているんだ。まぁ……指摘するのは野暮ですけど。


「……ねぇ、シュン君」


「ん。何だ?」


「私、お願いしたいことがあるんだ。シュン君の気を悪くしちゃうかもしれないけど……」


 気を悪くする? ヒナノのお願いなんか、大概のことは何だって了承してやるのに……それはヒナノも充分理解しているはずだ。


 なら……すげぇお願いしてくるんじゃ? どうしよう、『私と一緒に世界を壊そう』みたいなこと言ってきたら。俺は断れる自信があるだろうか……? あるよな?


「……いいよ。言ってくれ」


 覚悟を決めた俺はそう言って、ヒナノの続きの言葉を待った。


「ありがとうシュン君。あのね……」


「……」


「私ね、今日見たみたいなステージの上でシュン君にマジックをやって欲しいんだ! そして私……その姿を近くで見てみたいの!」


「……!」


「シュン君はとっても凄い技を持っているからさ……だから大勢の人を驚かせられると思うんだ!」


 ……なるほど。要するに……また俺にステージに立って欲しいってお願いか。


 ヒナノの頼みとあったら応えてやりたいのは山々だが……どうしても。それだけは厳しいんだよな。


「そっか…………でもごめん。今の俺にはステージに立つ勇気が出ないんだ」


「えっ……?」


「大勢の前でやろうとすると手や足がガクガク震えて、まともに技が出来ないんだ。それに俺のトークスキルは壊滅的で、今までは技の上手さで誤魔化していたから、もう見逃してはくれない────」


 ────ここで。ヒナノの潤んだ瞳に気が付いた。


 あっ……そっか。そうだよな。 ヒナノは俺のことを認めてくれている。だからこんなお願いをしてきたんだ。もちろんそれを言うのに勇気だって必要だっただろう。


 それなのに俺は……卑下するようなことばかり言ってしまって。認めてくれたヒナノすら否定してしまっていたんだ。


 ごめんなヒナノ……いや。言葉で謝るくらいなら。


『俺』らしく謝ろう。


「……だからさ」


 ここでマジック。何も握っていなかった手から、キャラもののハンカチを一瞬で出現させた。


「わっ!」


「しばらくお客さんは、ヒナノだけで良いかなって。えっと……ほら、昔から応援していたバンドが急に売れたら、何か素直に喜べないでしょ?」


 例えが下手くそ過ぎる。それでも……ヒナノは「ふふっ!」っと元気よく笑ってくれて。


「シュン君はちょっと前までは有名人だったんでしょ? でも……」


 そこまで言ったヒナノはハンカチを受け取って……笑い涙に変わった、その水を拭った。


「でも。『私だけのマジシャン』なんてのも、贅沢でいいかも!」


「ありがとね。ヒナノ」


「ううん。私こそ変なお願いしちゃってごめんね?」


「いいんだ。嬉しかったから」


 ……そして俺らはキャンプファイヤーの方に向き直って。また会話を続けた。


「……文化祭は明日も続くけど。俺はもう来ないよ」


「……うん。そっか。そうだよね、危険だもんね!」


「ああ」


 理解してくれたのなら有難い。もし俺と一緒にいる所なんか見られたら、ヒナノだって何されるか分からないもんな。


「でも……今日は来てくれて本当にありがとね! シュン君のこと信じてたけど……無理させちゃったのは変わりないからさ!」


「いいんだ。楽しかったし、ヒナノに会えたし」


「えへへ……私もシュン君に会えて嬉しかったよ!」


 このタイミングで辺りは暗くなる……どうやらキャンプファイヤーの炎が消えたみたいだ。


「おっと。どうやら終わったみたいだ」


「うん、そうみたい」


「……じゃあそろそろ帰ろうか」


「うん」


 名残惜しいけど……ヒナノとはもうお別れだ。俺達はゆっくり屋上から出て、一緒に階段を降り……外に出た。


 そして俺は……ヒナノに向かって手を振る。


「またね、ヒナノ」


「うん! 今度は停学明けに!」


「ああ。堂々と会おう」


「ふふっ!」




 ……これにて今年の俺の文化祭は終了だ。必死になって作ったお化け屋敷を壊され、怒って殴って停学になって。本当に散々な期間だったけど……


 一生忘れられない。今までで1番濃い思い出になった文化祭なのは間違いないだろう。

2章終了です。しつこいようですが、少しでも面白いと思ってくれた方、応援してやってもいいよって方はブックマークや★★★★★評価お願いします。


頑張れます!!

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