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9.天使の為なら何だって

 ────古来よりマジックによる事故は数多く報告されている。カードマジックのタネがバレてしまった、何てのはまだ可愛い方で。


 もっとヤバいやつ……例を挙げるなら、水中脱出や切断マジック、串刺しやナイフ投げなどなど……それらを失敗したらどうなるか。想像に難くないだろう。


 そんな訳でマジック……奇術というものは、常に死と隣り合わせで行うものなんだよ。どうだ。とっても怖いだろ。


「藍野氏、マジックと言うのは?」


 しかし草刈はあまりピンと来てない様子だった。まぁ……そりゃそうだよね。とりあえず説明しよう。


「えっと……俺、マジックにちょっと興味あってね。他の人よりは多分詳しいんだ。だから使えるのなら、このテーマにしたいなって」

「なるほど。とりあえず藍野氏の話を、もう少し詳しく聞いてみますぞ」


 草刈は俺の話を聞いてくれるようだ。こっからは俺のプレゼンで、採用されるかどうかが決まるらしい……よし、やってやろうじゃねぇか。


「それで草刈君。マジシャンが恐ろしいと感じることって、何だと思う?」

「それは……お客さんが全く集まらないことでござるか?」


 いやそれはそうだけど……見てくれる人が居ないと、成立しないのは確かにそうだけど。


「えっと……それもそうだけど。やっぱり1番怖いのは、マジックを失敗することなんだ」

「まぁそれはそうですよな」


 草刈はウンウン同意してくれた。


「だから……俺は考えたんだ。『このお化け屋敷で、マジックを失敗する体験』をさせてやろうってね」


 すると草刈は、またポカーンとした表情に変化した。何か顔文字みたいだな。


「はぁ……しかし、藍野氏。それ何か逆にテーマパークのアトラクションみたいではありませぬか? お化け屋敷感が薄いような」

「いや、それでいいんだ。舐められる位が丁度いい」

 

 マジックには『サッカートリック』という用語がある。簡単に説明するなら「1度失敗したと見せかけて、実は成功している」というヤツだ。


 サッカートリックはマジックの世界では定番の技になってしまっているが……これをお化け屋敷に導入するのは、中々新鮮だろ?


「草刈君が言ったように、最初はアトラクションみたいな感じで楽しませるんだ。例えば……『この中に人が居るから刺さないで下さいね』と書いた看板とロッカーと剣を置いて。そして刺したら『ギャーっ』みたいなワザとらしい感じで叫ぶ……みたいな」

「ほう」


 序盤はお客さんに「文化祭のお化け屋敷なんてこの程度か」と思われるかもしれないけど……


 それまでにお客さんは他の人の悲鳴や泣き顔を見たり聞いたりしている(はず)。だから本当に怖いものがいつ出てくるか、というドキドキを味合わせることも出来る。


 そんな得も言われぬ不安を抱えたまま、しょぼいお化け屋敷を進んで行くのだ。


「そんな感じで中盤までは楽しませて……どこかで切断マジックをやらせるんだ」

「ほう」

「で、さっきまでのノリで『えい』っとやると……血が噴き出して、急に暗くなって……目の前にゴロンと生首が飛んでくる」


 ここで一気に雰囲気を一変させるんだ。まるで、さっきまでの内容が嘘のように思わせる位に。


「そっから今まで殺してきたヤツらが現れて、追いかけてくる……こんなのはどうかな?」

「なるほどですな……」


 よし。これで俺の言いたいことは全て話した。後は草刈の反応次第だが……


 直視するのが怖かったので、チラッと目ん玉だけ動かして前を見た……そしたら。


「藍野氏……オリジナリティーがあって良いですな! とても面白そうですぞ!」


 と、草刈は燃えるような眼差しでそう言ってくれた。


「あっ、ありがとう……」

「では早速、二宮氏に報告をしに行きますぞ!」

「あっ、ちょっと! 草刈君!」


 俺の制止を振り切って、草刈は委員長の元へ急ぐ。


「……はぁ」


 やれやれと、俺もその後ろをついて行くのだった。


 ──


「……という感じなのはどうかなって」

「へぇ。なるほどな」


 結局俺が、さっき草刈に説明したように案を話した。それで委員長の反応は。


「良いんじゃないか? というかまぁ、既に決める権限を持っているのは藍野なんだから、わざわざ私に許可得る必要はないのだがな」

「えっとじゃあ……決定していいの?」


 そう聞くと委員長は。


「なら全員に話をしようか……よし、みんな集合してくれ!」


 と言いながら手を叩いて、ここにいる全員の視線を集めたのだった。


「えっ、ちょ……!」

「そうそう、お前たちはその辺座っててくれ」


 ザワザワと、作業の手を止めた生徒達が集まって来る……だから委員長! 行動が早すぎるんだって!


 ……1分も経たない内に全員揃った。この辺の統率力は委員長流石だよな……いや、感心してる場合か。


「よし、藍野いいぞ」


「よし」じゃねぇんだよ。こっちは心の準備が終わってねぇんだよ……とか言えたらいいのに。


 嫌な動悸を抑えつつ、俺は集まった生徒の顔を見ていった…………あっ、居た。ヒナノだ。


 どうやら友達と喋っているみたいだけど……その姿を見るだけでも、俺は少しだけ落ち着くことが出来たんだ。


 よし、言うぞ……!


「み、みんな。集まってくれてありがとう……ええっと……今回のテーマはマジック……というか奇術で。それで……」


 うん。別に落ち着いたのなら喋れるようになる……とは限らないんだよな。考えが甘かったよ。


「ああ、代わるでござるよ藍野氏! それで、最初はあまり驚かさずにですな……」


 異常を察知したのか、草刈が素早く代わってくれた。ああ、ありがとう草刈様……美少女プラモ、絶対に奢ってやるから。


「……そういう感じでござる! 藍野氏の考えたお化け屋敷を、皆で伝説にしようではありませんか!」

「……」


 草刈はひとしきり説明した後、皆に賛同を求める。そしたら……


「それ、とっても面白そうだね!」

「────!」


 ヒナノが1番最初に反応してくれたのだ。今の俺には……彼女が天使にしか見えなかったんだ。


 ああ……どうしてこんなに俺の心は喜んでいるんだ? どんだけ歓喜しているんだ!?


「おっ、雨宮氏もそう思うでござるか! 他の人はどうお思いでござるか?」


 ヒナノの言葉のおかげか、みんなも「いいんじゃないかな」と賛同してくれる声を次々に上げてくれた。ああ、ありがてぇ……!


 ……そんな中。


「でもさ藍野君、今まで作った道具や仕掛けは無駄になったってこと?」


 とある女子が俺に問いかけてきた。


「そっ……そんなことはないよ。今まで作ったやつも、絶対に活用させるから。だから……安心して」


 そう答えるとその女子は。


「そうなんだー。なら良かったね、陽菜?」

「……もっ、もー!」


 ヒナノの肩を、肘でツンツンとつつくのだった。ん、一体何なんだ……?


「藍野。正式に決まったみたいだし、私らに指示を出してくれ。作業内容も大きく変わりそうだからな」

「あっ、うん。分かったよ」


 委員長に言われて前の方に視線を戻し、また俺はみんなに話しかける。


「えっと……それじゃあ役割を決めよう。お化け役、受付、宣伝で。それでやりたいものに手を上げて。それで……」


 ────多分……今の俺は生きてきた中で1番頑張っている。その理由は自分の為に動いているからじゃなくて……




 彼女の為に動いているからなんだと思うんだ。

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