8.ギャルゲーは勉強になるから、必修科目に入れよう
次の日の放課後。いつものように文化祭の準備だ。6時間ガチガチに授業を受けた後に、この作業をするのはやっぱり疲れてしまう。
でも……今日は喜ぶべきことに、この場所にヒナノが居たのだ。もちろん俺とは作業内容は別だし、簡単に話せるような距離ではなかったけど……それでも。それだけでも、俺はとっても幸せだったんだ。
「よーし。草刈君、頑張ろう!」
「おっ、藍野氏。今日はやる気満タンですな!」
「えへへっ、そうかな?」
「ええ。昨日とは比べ物にならない程ですぞ?」
草刈にすぐに見抜かれてしまった。参ったな。
自分で自分のことを勝手にクール系キャラだと勝手に思い込んでいたけれど……多分違うのかも。いや、顔に出やすいだけなのか? 分からん。
「それで……今日も血濡れマネキンを作るの?」
「恐らくそうでござるな。昨日は喋ってばかりで、あまり作業が進まなかったですからな……」
そんな会話をしていると。
「藍野、草刈。ちょっといいか?」
背後から委員長の声が。俺が返事をする前に、草刈が反応を示した。
「むむっ、何ですぞ二宮氏」
「草刈……その呼び方は止めてくれ」
「では委員長氏」
「だから……いや、もうそれでいいや」
草刈の相手が面倒だと感じたのか、委員長は草刈から俺の方へと視線を移す。
「2人に提案したいことがあるんだ……お前達、お化け屋敷を設計してみないか?」
「設計?」
「ああ。仕掛けやルート、音響なんかを自由に考えるんだ。元々は私が考えようと思っていたが……どうも2人の方がセンスが良いみたいだからな」
委員長は腕を組んで、口だけ笑わせて言う。
……ええっと。つまり俺と草刈で、このお化け屋敷の内容を決めて良いということなんだろうか。
いやいや、俺はそんな荷が重い役職になんか就きたくはないんですけど…………どうも草刈は、俺とは違う考えをお持ちのようで。
「おお! やりましたな、藍野氏! 我々が全て自由に決めていいらしいですぞ!」
「あっ、うん……本当にやるの?」
「当然でありますぞ! 我らで伝説に残るお化け屋敷を生み出してやろうではありませんか!」
「……」
……別にこれって悪口とかそんなんじゃないんだけどさ……オタクって何でも伝説に残したがるよね。
ほら例えば……彼らの行った過激なパフォーマンスは、後に伝説のライブと呼ばれることになった……みたいなアレ。いや、俺も好きだけどさ。
このお化け屋敷が後に伝説と呼ばれるような……そんなビジョンが全く見えないんですよね。
うん。やっぱり俺には荷が重過ぎる。ここはハッキリと断ろう。
「えっと……草刈君。俺には──」
「それに藍野氏! もしこれが成功したら……想い人に良いところを見せられるかもしれませんぞ!」
「……!」
草刈の言葉で思いとどまる。
いや、別に俺の良いところを見せたいと思った訳じゃないけどさ……これ、ヒナノの要望で決まったってことを今さら思い出したよ。
それで……俺が設計する立場になれば……ヒナノは。もっと楽しんでくれるかな。喜んでくれるかな。
「やっぱりシュン君は凄いね!」って……俺を褒めてくれるかな。
「…………やっ、やろう!」
気付いた時には、俺はそうやって口にしていた……そしたら草刈と委員長は満足気に。
「ええ、やりますぞ! 藍野氏!」
「ありがとな。藍野」
肩を叩いてそう言ってくれたんだ。
──
「ああっ……何か勢いであんなこと言っちゃったけどさ……俺達が怖いお化け屋敷なんか作れないよ……」
もう早速後悔していた。自分で言うのも恥ずかしいけどさ……確かに俺は器用だよ? 器用だけどマジでそれだけなんだよ。
なんなら俺ビビりだし……1度もお化け屋敷なんか行ったことないんだよ? 圧倒的に向いてないんだよ?
そんな頭を抱えてうずくまっている俺に向かって、草刈は自信げに言う。
「ふっふっふ、ならば我に任せて欲しいですぞ!」
「えっ?」
「こう見えて我、知識はあるのですぞ」
う、うさんくせぇ……でも今頼れるのは草刈しか居ないしな。とにかく話を聞いてみよう。
「草刈君。本当に作れるの?」
「もちろんですぞ藍野氏……ここで藍野氏に1つ問いますが……お化け屋敷で恐怖をそそられるモノと言えば何を思い付くでごさるか?」
「えっ? お化けでしょ?」
草刈はチッチッチと指を振る。何かその動き地味に腹立つな。
「いいや、違うですぞ……答えはお客さんの悲鳴でござる」
「悲鳴?」
「待っている間に悲鳴が聞こえたら……何なら泣きじゃくってお化け屋敷から出て来たお客さんとか見たら、結構ビビるではありませぬか?」
「あー確かに……」
これはお化け屋敷以外でも通ずる所あるよな。確か俺もマジックショーの終了後に、帰っているお客さんの表情とかわざわざ確認してたっけな……
「だから遊園地とかのお化け屋敷は、入口と出口がすぐ近くに作られておるのですぞ?」
「へぇー」
「まぁ、これはギャルゲーで仕入れた知識でござるがな」
おい、普通に為になる話じゃねぇか。
「悲鳴を上げさせる大事さは分かって貰えたでござるな。それで肝心の中身でござるが……まずはテーマを決めるべきですぞ」
「テーマ?」
「ええ。この辺は意外に大事なのですぞ。日本人形とチャッキーが同時に動いていたら、悲鳴よりも先に疑問が出でくるでござろう?」
それは確かにそうだ。マジックをやると言いながら、大道芸をやるみたいな感じだろうな……えっ、違う?
「しかし……墓地とか、井戸から出でくる幽霊なんかはもう定番過ぎて見飽きたでござるよ。我々はもっとオリジナリティー溢れるお化け屋敷を作りたいですな」
「オリジナリティーねぇ……」
「藍野氏は何か案はござるか?」
「……」
案と言うか……消去法と言うか……知識量なら誰にも負けないものを1つだけ持っているんだよな。
それでもいいなら……使えるのなら。言うよ?
「……マジック。奇術をテーマとしたお化け屋敷……は結構オリジナリティーあるんじゃないかな」




