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3.人を見かけで判断してはいけない

「それで……話って?」

「ああ」


 委員長は壁にもたれつつ……一定のリズムで足音を鳴らしながら答えた。


「文化祭の出し物の件についてなんだが……実はな、食べ物系の出し物は3年生に譲る、という暗黙のルールが存在するんだ」

「へぇ、そんなのがあるんだ」


 そんなルールは聞いたことがなかったけれど……まぁ普通に考えてみれば、この学校で力を持っているのは3年だからな。


 その3年が人気の食い物系をやりたいと言えば、我々が譲るのが当然なんだろう。


「だがさっき皆に聞いたところ……案に挙がったのは、見事に食べ物系ばかりだった。これじゃウチのクラスの申請が通るわけない」

「はぁ」

「だからもう私らだけで……1発で通るような出し物を考えないか?」

「でも勝手に決めるなんて……また皆に聞けばいいんじゃないの?」


 俺が言うと委員長はあからさまに「はぁー」っと、大きなため息を吐き出した。


「いや、藍野も見ただろ? アイツらをまとめるのは、いくら私でも無理だ」

「ああ……確かにそうだね」


 俺はさっきのあの会議の光景を思い出していた。


 各々好き勝手に、出し物を挙げ続けるクラスメイト。そしてヒナノを傷付けたカス共……うん、まとめるなんて絶対無理だ。


 同情したように俺がウンウン頷くと、それを読み取ったのか委員長も頭をペコッと下げる。


「……まぁそういうことだ。いい案を思い付いたら、明日にでも私に教えてくれ。アイツらの説得方法はこっちで考えておくから」

「うん、分かった。考えておくよ」

「ああ。呼び止めて悪かったな、藍野」

「いいよいいよ。委員長も大変だね」


 委員長は「まぁな」と微笑しつつ、俺の前からテクテクと去って行くのだった。


 ……最初は委員長のこと、怖い人だと思ってしまってたけど、話してみればそんなことはなかったや。


 今後は見た目や口調だけで人をすぐに判断するのは止めよう……そう心に誓いながら俺は、ヒナノのいる屋上の方へと駆けて行った。


 ──


 屋上。俺は既に開いてある扉をガチャっと開くと同時に、謝罪の言葉を発した。


「すまんヒナノ! 委員長に捕まっちゃって……って、えっ?」

「もー! 遅いよシュン君!」


 予想外の光景に俺は呆気に取られてしまう。ヒナノは……屋上一面にブルーシートを敷いていたのだ。


「ヒナノ、これは?」

「前に言ってたじゃん! 屋上でご飯食べるって! だからこれ、家からこれを持ってきたんだー!」

「そう……なんだ」


 ヒナノさんよ……行動が早い。そして規模がデカい。俺はもっとレジャーシート位の大きさを想像していたよ。


 これもう、花見の場所取りみたいになってるから。


「ほらシュン君、座って座って!」

「ああ、うん」


 ヒナノはウキウキしながら、隣のスペースをポンポン叩く。とりあえず言われるがままに俺は、その場所にゆっくり腰を下ろした。


「……」


 うん。超固ぇ。そりゃ下はコンクリだもんな。


 まぁでも不思議と……悪い気分はしない。


 それが全校生徒の1番上にいるという優越感からなのか……屋上に吹いてくる風が心地よかったからなのか……はたまた、ヒナノとの距離がとても近いからなのか……それは分からないけれど。


「それで……」

「あの……」


 同時に話したから、声が被ってしまった。するとヒナノはどうぞどうぞと、手を差し出してくるので、俺から話すことにした。


「……じゃあ俺から。さっき委員長に呼び止められてさ。俺たちだけで文化祭の出し物を決めちゃおうって話になってさ」

「へー! 凄い!」

「それでヒナノは何かやりたいのある?」


 俺がそう尋ねると、ヒナノは首をコテンと傾げる。


「え? シュン君はやりたい物ないの?」

「俺は別に何でもいいんだよ。そもそも文化祭自体が、全く楽しみじゃないしな」

「えっ、そうなの?」


 ヒナノは相当困惑したような声を出す。まぁ……ヒナノには、文化祭が楽しみじゃない人の気持ちなんか分からないよな。


 そんなもん、分からない方が絶対いいけど。


「うん。だからそんな俺の意見より、文化祭を楽しみにしているヒナノの方の意見を優先した方がいいでしょ?」

「そういうものなの?」


 ヒナノはちょっとだけ困った表情を見せたが……続けて俺が「ヒナノのやりたい物が俺のやりたい物だよ」と言うと、随分と納得したような表情に変わった。そして。


「えーっと……それなら私、お化け屋敷がやりたいな!」

「お化け屋敷か……悪くないね」

「えへへっ、そうでしょ!」


 ヒナノは誇らしげに「へへん」と両手を腰に置く。どうしてお前はそんなに可愛いんだ?


「じゃあ委員長に言っておくよ」

「うん! ありがとね!」

「いいよ……それよりヒナノ、さっき教室で何か俺に言おうとしていなかったか?」


 するとヒナノは一転、顔を赤くして俺を視線から外すのだった。


「えっと……それはやっぱりいいの」

「えっ?」

「あっ、それじゃあ部活があるから私、行くね!」

「正式に部活入ったんだ……っておい。部活あるのに、屋上来たのか!?」

「だってシュン君がトランプ見せてきたんだもーん」


 いやいや、そんな用事あるって知ってたら俺だって、そんなもん見せなかったよ!


 俺はヒナノより焦りつつ、屋上からグラウンドを見下ろす。


「って……あれ見ろ! 陸上部、なんかもうアップみたいなのやってるぞ!」

「ホントだ! 急がなきゃ!」


 慌てたようにヒナノは置いていた鞄類を持ち上げて、屋上から出て行こうとする。


 そんな彼女に向かって俺は……激励の言葉をかけてやったんだ。





「……がっ、頑張れよ! ヒナノッ!」

「ふふっ、ありがと! シュン君!」

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