第182話「ユウキ、不死にまつわる推測を話す」
推測の続きといっても、たいして話すことは残っていない。
──古代魔術文明の人々が、俺たちと同じ姿をしていたと思われること。
──根拠は『王騎』を、俺たちが使うことができるから。
──たとえば古代魔術文明人の腕や脚が4本だったりした場合、俺たちが『王騎』をまとうのは難しかっただろう。
──だから、古代魔術文明人は、俺たちと同じ姿をしていると考えられる。
──古代魔術文明人の血を引く者も、人間と同じ姿をしているだろう。
──つまり、古代魔術文明人の子孫と、普通の人間を見分けることはできない。
──見分けるヒントになるのは、その人間の魔力量だ。
──『王騎』は大量の魔力を必要とする。
──俺や、俺の『魔力血』を受けたアイリスとオデットはあつかえるけれど、他の人があつかうのは難しい。
──だとすると、『王騎』を作った古代魔術文明人も、大量の魔力を持っていたことになる。
──俺に多くの魔力があるのは、古代魔術文明人の血を引いているから、あるいは古代魔術文明人が作った『完璧な人間』だから……という推測が成り立つ。
俺はそんなことをオデットに話した。
ただ──
「『エリュシオン』の第4階層には墓地があった。ということは、古代魔術文明人にも寿命があって、普通に死んでたってことだよな?」
「そうなりますわね……」
「となると、一部の者だけが不老不死だったのか? それとも墓地だけを作ったのか?」
「そのあたりは謎ですわ」
「『古代魔術文明の都』も変だよな。都という割には生活感がまったくない」
「そこも気になりますわ」
「他に住居があったのか? でも、そんなのがあったら『聖域教会』が見つけてるよな。となると、古代魔術文明の遺跡は『エリュシオン』だけということになる。だとすると、古代魔術文明人はすごく特殊な生活をしていたわけで──」
「……ユウキ」
気づくと、オデットが苦笑いをしていた。
「話が思いっきりそれてますわよ」
「え?」
「あなた自身のことから、古代魔術文明人の話になってますわ」
「いや、だってそっちの方が興味があるし」
「自分のことよりもですの?」
「俺は『フィーラ村』の守り神、ディーン=ノスフェラトゥだよ。それ以上でもそれ以下でもない。俺の出自を気にしてるのは、それが『聖域教会』の残党を倒すのに参考になりそうだからだ」
俺が『古代魔術文明』の血を引いている可能性については、実はあんまり興味がない。
それがわかったからって、どうなるわけでもないからな。
もちろん、『古代器物』と『古代魔術』を使えるのは便利だと思ってる。
だけど、古代の遺産だって、結局はただの道具でしかない。
問題はそれを誰に対して、なんのために使うのかってことだ。
ライルが俺に『王騎』を残したのは、俺なら使い方を間違えないと思ったからだろう。
ライルのことだから……俺を二度と死なせないためだったのかもしれないけど。
『王騎』を着てれば剣で刺されても死なないからな。
ライルは俺を殺したことがトラウマになったらしいし。
──と、それはさておき。
「長々と語っちゃったけどさ、全部ただの推測なんだよ」
俺は説明を続けた。
「証拠はない。だから、これ以上話しても、結局は推測に推測を重ねることになる。このへんで止めておいた方がいいだろ」
「確かに……そうかもしれません」
「今、気にするべきなのは第一司祭とガイウル帝国の思惑だ。目的を探って、そのあとで『聖域教会』の残党を止める。そうすれば『完璧な人間』作成計画も、俺の出自も、どうでもよくなるだろ?」
「あなたの出自は、あくまでも『フィーラ村』の守り神ってことですの?」
「まぁ、そんな感じだ」
「……それなら納得ですわ」
「帝国の思惑を探るためには、ダーダラ男爵家を調べるのが一番の早道だ。それについてはアイリスが、カイン王子と老ザメルに頼んでくれるって言ってたけど……」
アイリス……うまくやってるかな。
『獣王騎』の起動実験に成功した褒美として、ダーダラ男爵家の調査に参加させてもらうのが俺たちの計画だったんだけど。
「大丈夫ですわ」
オデットは俺を安心させるように、うなずいた。
「アイリスならきっと、話をつけてくれると思いますわ」
「……そうだな。それは大丈夫だと思う」
「じゃあ、どうしてそんなに心配そうな顔をしていますの?」
「アイリスが変なことしないか気になってる」
「アイリスが『フィーラ村』のアリスさんだからですの?」
「そうだよ。アリスは自分の才能を変なふうに活用するからな」
「それも大丈夫です。アイリスだって、成長しているはずなのですから」
そう言ってオデットは、笑った。
「変なことはせずに、頼んだことをやってくれると思いますわ」
「……うん。わかった」
俺がアイリスのことで心配しすぎるのは、前世の癖だな。
転生しても治らないのは困ったもんだ。
オデットの言う通り、アイリスも成長している。
そろそろ、それなりに大人あつかいするべきなのかもしれないな。
俺がそんなことを考えていると、ノックの音がした。
『ごしゅじんー。部屋に人が近づいてくるです。アイリスさまなのですー』
見張り役として廊下で待機させていたコウモリの声だった。
俺は立ち上がり、ドアを開ける。
すると、小走りで近づいて来るアイリスの姿が見えた。
「お待たせしました。ユウキさま。オデット」
アイリスが息を切らせながら部屋に入ってくる。
「おつかれさまでしたわね。アイリス」
「体調は大丈夫か?」
「問題ありません。カイン兄さまとザメルさまとのお話も無事に終わりました」
アイリスは満足そうな表情で、オデットに視線を向けた。
「『オデット派』がダーダラ男爵家の調査に参加できるように、『魔術ギルド』が働きかけてくれるそうです。たぶん、許可が出ると思います」
「それはよかったですわ」
「ガイウル帝国の情報がつかめるといいですね。ユウキさま。オデット」
「がんばりましょうね。ユウキも、アイリスも」
「ありがとう。アイリス。ところで……」
「はい。ユウキさま?」
「カイン殿下や老ザメルと、他になにを話してきた?」
俺は言った。
アイリスの肩が一瞬、震えた。
それでもアイリスはおだやな笑顔のまま、
「そうですね。今、申し上げた通りに、ダーダラ男爵家の調査に──」
「視線が泳いでる。爪先で床をパタパタと叩いてる。これはアリスがいたずらをしたときの癖だ。」
「そ、そんなことはないですー」
「そうか?」
「そうですよ」
「じゃあ、俺の目を見て『おかしなことはしてません』と言ってみて」
「…………えーっと」
「…………アイリス。なにをしたんですの?」
「そ、そうだ! まずは一休みしましょう!」
アイリスは、ぽん、と手を叩いた。
「ユウキさまもオデットも、起動実験に付き合って疲れてますよね? まずはお茶を飲んで、それから……あ、そうそう、『魔術ギルド』の売店には、おいしいお菓子があるんですよ? 事務の人が時々作ってくれるんですけど……」
「「アイリス?」」
「あ、あの。ふたりとも、目が怖いです。わ、私は別に、悪いことはなにも──」
『ごしゅじんー。今度はカイン殿下がいらしたですよー』
再び、廊下からコウモリの声。
俺たちは即座に会話を停止。そのまま待っていると──
「アイリス。それにユウキ=グロッサリアはいるだろうか?」
扉の外でカイン王子の声がした。
「話があるのだ。入ってもいいかな?」
「……カイン兄さま。あの、今は──」「どうぞ、カイン殿下」
アイリスの言葉をスルーして、俺はドアを開けた。
廊下には、護衛を連れたカイン王子がいた。
「疲れているところすまない。ユウキ=グロッサリアに頼みたいことがあるのだよ」
「殿下が、俺にですか?」
「私は近々、グロッサリア伯爵家を訪ねようと思うのだ」
カイン王子は言った。
「表向きは、伯爵家で家庭教師をしているイーゼッタ=メメントの様子を知るため……ということになる。それにあわせて、君の父君と会っておきたい」
「それは光栄です。ですが、どうして殿下が父上に……?」
「これはアイリスの提案によるものだ。詳しくは、彼女に聞いて欲しい」
「わかりました」
俺はカイン王子にお辞儀をした。
「それでは、俺から父上に書状を出しておきます」
「頼むよ。伯爵家を訪ねる日取りが決まったら、すぐに君に伝えよう」
そう言ってカイン王子は去って行った。
俺たちはお辞儀をしながら、彼を見送る。
それから──
「……アイリス」
「な、なんでしょうか? ユウキさま?」
「カイン王子や老ザメルとの会談でなにがあったのか、あらいざらい話すように」
「そ、それは乙女の秘密で──」
「秘密じゃなくて策略じゃないのか?」
「それは私とユウキさま……いえ、マイロードとの見解の相違だと」
「アイリス」
「……はい」
「お説教するから、そこに座りなさい」
「はい」
アイリスは反射的に椅子に腰掛けた。
200年前『フィーラ村』の古城の勉強部屋でそうしたように。
……まったく。
少しは成長したかと思ったら、全然変わってないな。
「目を離せないいたずらっ子のままだな。ほんとに」
「できれば愛情的な意味で目を離せないと言っていただけませんか?」
「そういう態度だとお説教の時間が長くなるんだが?」
「そ、それはごほうびですか?」
「……ふ、ふふっ」
不意に、オデットの笑い声が聞こえた。
俺とアイリスが視線を向けると、オデットはお腹を押さえながら、笑いだす。
「どうした。オデット?」
「どうかしたんですか?」
「……ご、ごめんなさい。さっきまで少し、重い話をしていたもので」
オデットは涙をぬぐいながら、
「安心したら、思わず笑ってしまったのですわ。ユウキとアイリスはなにも変わらないと、わかってしまったから」
「俺とアイリスが?」
「ええ、そうですわ。200年の時間も、古代文明にまつわる因縁も、あなたたちには関係ない……それがわかったのです」
そう言って、おだやかな表情で笑うオデット。
「あなたたちは『フィーラ村』のマイロードとアリスで、その絆はなにがあっても揺るがないのでしょう。それがはっきりと、わかったのですわ。だからわたくしは……とても安心したのです。涙が出るくらいに……」
「オデット」
「はい。なんでしょう?」
「言葉の意味がよくわからないんだけど……」
「問題ありませんわ。わたくしにも、よくわかってませんから」
「でも……気になるんだよな」
「はい! マイロード! 私はもっと気になることがあります!」
不意に、アイリスが手を挙げた。
「マイロードとオデットがしていた『重い話』ってなんですか! ふたりでなにを話していたんですか!? あらいざらい話してください!!」
「お説教が終わってからな」
「えー」
「……ふふっ。ふふふっ」
そんな感じで、俺はアイリスから、彼女が企んだことを聞き出して──
その後で『聖域教会』が目指す『完璧な人間』についての推測を伝えた。
それに対するアイリスの反応は──
「なるほど! マイロードが古代魔術文明の血を引いているかもしれないんですね。すごいです! さすが私たちのマイロードです!!」
──だった。
アイリスのことだし、そういう反応になると思ってた。
まぁ、アイリスの言葉を聞いて、オデットは大笑いしてたんだけど。
そんな感じで『獣王騎』の起動実験は終わり──
俺たちは、ダーダラ男爵家の調査に向けて、動き始めるのだった。




