婚約破棄に王手です
そこからユージェニーの行動は速かった。早速、両親に現状を訴える手紙を書き、婚約破棄を考えて欲しいと願い出たのだ。
しかし、両親としても相手方の家との縁は欲しいもの。決定的な証拠や相手方からの申し入れが無ければ、婚約破棄はできないと言ってきたのだった。
「決定的な証拠か相手方からの申し入れ・・・手っ取り早く両方手に入れたいわね」
もう、婚約破棄に乗り出したユージェニーを止める者はいなかった。
愛していないとはいえ婚約者。ユージェニーはそれなりにビクトールの行動を把握していた。例えば、放課後の資料室でローズに愛を囁いているとか・・・周りの人間がユージェニーに教えてくれるのだ。
(よく考えれば本当に腹が立つ!!)
愛していない婚約者も興味本位な周りの人間も腹立たしい事この上ない。
(一気に婚約破棄を決めてやる!!)
ユージェニーが婚約破棄の現場に選んだのは周りの目のある食堂だった。食堂にはローズとその取り巻き達はもちろん、目撃者になって貰う他の生徒たちも居た。
「ごきげんよう。ビクトール」
「ユ、ユージェニーか。珍しいな?」
「ビクトール。今日、私は話があってきたの。そこのローズ様とのことで」
ビクっと体を震わせるローズ。
「ローズに何の用だ?」
「とぼけないで下さる?もう学校中の方が噂話を私にしてくださいましたわ」
「噂話?」
「ええ。放課後の資料室であなた方が愛を囁き合ってるって」
「な!!」
「あら、その反応。本当の事のようですわね」
「・・・だったら何だというのだ」
「不謹慎ではございません?」
「何?」
「私という婚約者が居ながら別の人間に愛を囁いているのは不謹慎だと申し上げておりますわ。そもそも、婚約とは家同士の契約。私も義務でビクトールと結婚しなくてはならないのに、貴方は自由に、そう婚約者が居ながらも自由に恋愛をするおつもりで?」
「いや、ローズは」
「ビクトール。貴方はローズ様を愛していらっしゃるのでは?はっきりおしゃって下さいな」
「・・・・・」
「愛しているのにも関わらず、私という婚約者がいる。私に対しても、ローズ様に対しても不謹慎ですわ」
「・・・ローズに対しても」
「ええ。もし、ローズ様を愛されているならば、私との関係にケジメをつけて下さい」
「ケジメ・・・?」
「ローズ様!!」
またビクッと体を震わせるローズ。
「ローズ様は如何ですか?ビクトールを愛されている?愛しているなら婚約者の存在など不愉快ではないですか?」
「わ、私は・・・」
「そもそも、しっかりと態度を示さないビクトール様が悪い。ローズ様を愛されているなら、私と婚約破棄してから、行動すべきだったのです」
「そ、そうかもしれない」
「そうでございましょう。私は現状を両親に報告済みです。あとはビクトールがお家の方へ連絡すれば、婚約破棄と相成りますわ」
「そうか・・・確かに、俺はローズに対して不誠実だったようだ。ローズ許してくれ」
「ビ、ビクトール様。私は・・・」
「ユージェニー。君にもすまなかったな」
「私の事は良いのです。そうそうローズ様」
「は、はい」
「ローズ様が愛されているのはビクトールですわよね。あとの生徒会の皆様はお友達ですね?」
「・・・は、はい」
思わずといったように頷くローズ。困惑する生徒会の面々。しかし、ユージェニーはどんどん畳みかけていく。
「ああ、良かった。仮にも私の婚約者だった人が、別の人に懸想している人を愛するとは思いたくなかったので・・・」
「ユージェニー。君こそローズに失礼ではないか」
「ごめんなさいね。ローズ様」
「い、いえ。私も態度が悪くって、皆様に誤解を与えてました」
「では、ビクトール。婚約破棄の件、よろしくお願いしますね」
「ああ。分かった」
周りの目もあった。すぐにこの噂は広まるだろう。ユージェニーは決定的な証拠と相手方からの申し入れの両方を手に入れたのだった。
数日後。両親から婚約破棄についての連絡が来た。ユージェニーにしてみれば遅いくらいである。婚約破棄の現場を見ていた生徒たちの噂は学園中に蔓延した。ビクトールとローズは元婚約者のユージェニーに認められたカップルであり、他の生徒会の面々はお友達である。
「ユージェニー様は損な役回りではなくって?」
また裏庭でベアトリクス様とお会いした。今日は涙を流していない。
「そうですね。でも、スッキリしました」
「本当に?」
「ええ。ベアトリクス様は最近、ジョシュア様と如何ですか?」
「そうね。少なくとも婚約破棄の心配はしてないわ」
「それは良かった」
「ユージェニー様。その、宜しければなのだけど・・・」
「はい?」
「私の弟を紹介しても宜しくて?今回の話を聞いて、是非ともユージェニー様に会ってみたいって」
「まあ」
今度こそ、愛する人と婚約出来たら良いな。