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55.手紙*柏木&八雲&アリス*

 

 ***


 雪の中を子供のように涙を流しながらはしゃぐ鏡野。手紙を読み、心から安堵した。いつまでもはしゃぐ鏡野を佐々木先輩と抱える様に家の中に入れて風呂場に直行させた。鏡野とは違い僕らは屋根のある場所で鏡野を見守っていた。

 きっとあの手紙を読んで外に飛び出した鏡野は、子供の頃もあんな風に雪の中にいたんだろう。母親を失ってやめてしまったんだろう。誰かがいるから出来たんだ。

 風呂から出てきた鏡野にドキッとしつつ、ココアを幸せそうに飲んでいる姿は、今までの鏡野と雰囲気がすっかり変わっている。どうやら千里眼で見た記憶を全て忘れてしまったんだろう。影というのかそういう雰囲気がまるでなく、無邪気な女子高校生だ。これで全て終わったんだ。長い長い僕たちの戦いが……。




 あれから鏡野は風邪をひいてすっかりこじらせてしまったようだった。佐々木先輩からの伝言があった。年が明けたけど鏡野から何の連絡もこなかった。

 僕らも終わったのかな? ずっと連絡がない。連絡するのも気が引けて出来なかった。美咲もはじめはからかっていたが次第に何も言わなくなった。心なしか僕に優しい。同情されてるんだ。




 新学期当日鏡野にどう会っていいのか戸惑いながらも学校に来た。ああ、顔を合わせるのが辛い。今日は部活は朝練もない。登校して下駄箱を開ける。

 ん? 手紙?

 鏡野と付き合ってからはずっと告白される事はなかった。勿論手紙も。

 僕は手紙を開けてみる。

 ……


「あ」


『柏木君へ

  お話があります。今日の十二時半にこの場所に来てください。

  アリス』


 あの時と同じだ。場所も。違うのは日付と時間そして……名前がある。

 何の話だろう。今日は始業式だからこの時間にしたんだろうけど。

 ずっと連絡なしだったのに、この手紙……嫌な予感がする。

 始業式はバタバタと過ぎていく。鏡野とは昼休みしか話をしないから、誰も僕らの変化に気づいていない。九条が一度やったなという目線を向けてきた。そう僕らは確認が取れない終わり方だったからだ。だが、それに返事は返したが内心それどころではない。

 鏡野はと見ると以前と変わらず一人本を読んでいる。今は本当に読んでいるいるんだろう。久しぶりに会ったので友達がやいやいと話しかけて来るしと、そんなうちに始業式は終わった。帰りに鏡野の席を見るともういない。仕方ない、行くしかない。気が重い。


 十二時半、五分前に着いた。

 鏡野は先に帰ったのにどこにいるんだ? 周りを見渡してもいない。何なんだろう? 何の話なんだろう? こんなところに呼び出して。前と全く同じにするのは何の意味があるのか?

 考え込んでいたら、後ろで足音がする。時計を見るとジャスト十二時半だ。振り返ると鏡野がかけてくる。あの時は鏡野を見て胸躍った、だが今日は違う。別れ話なのかと思えてならない。鏡野が僕に惹かれたのは遺伝子のせいだ。それがなくなったんだ、そういうこともあり得る。そう十分に。

 僕は雪の中を舞う鏡野に、ココアを幸せそうに飲んでいる鏡野に、強く惹かれた。遺伝子なんて関係ない思いを感じた。でも、鏡野はあれ以来連絡もこないし、今日も話もしてない。考えれば考えるほどそう思える。


「類!」


 鏡野は僕の名前を呼び走ってきたその勢いのまま飛びついて来た。あの日のように僕の首に両腕を巻きつける。


「か、鏡野?」

「アリス!」

「えっ?」

「アリス。いい加減名前で呼んでよ。もう半年も付き合ってるのに!」


 ええ! 何どういう事?


「あ、あの、かが、いや、アリス。何なのこれは?」

「ごめん。ちょっと、類を試してた。これは、告白のやり直し」

「やり直し? 試してたって」

「類の気持ちわからなくって、不安だったの。でも、これ以上待てなくて。だから、告白し直したの。類好きだよ」


 ああ、不安だったのは僕だけじゃなかったんだ。鏡野はもう見ることが出来ない。だから、僕の気持ちわからなくて……連絡取らなかったんじゃなく、取れなくなったんだ。なのに、僕も連絡しなかった。鏡野はただ不安だったんだ。


「アリス。ごめん。不安にさせて。僕も好きだよ」

「うん。……良かった」


 アリスは僕から離れた。目には少し涙があった。


「何? 泣いてるの?」


 僕はアリスを抱きしめる。


「うん。不安で。……ずっと会いたかった」

「僕も。僕も会いたかったよ」

「ねえ。お昼一緒に食べよう!」

「ああ。アリスの家で食べよう!」

「え!? 桃李も一緒になるよ?」


 アリスは顔を挙げて聞いてくる。


「うん。先輩も一緒に。あとの二人は一緒には無理だけど……世界の終わりを終わりにしたお祝いしよう」

「終わりを終わりか……うん。そうだね」


 僕らは手をつなぎアリスの家に向かう。アリス……か。なんだかいい、やっと付き合ってるって感じだ。九条に感じていた気持ちは消えた。不安も。アリスの涙が全てを物語っていた。僕の気持ちは晴れ渡る。

 そういや今日は曇り空だ。折角の気持ちが……と空を見ているとアリスが同じ様に空を見る。


「あ、あそこ」


 アリスが指差した先には雲間から太陽の光が射し込んでいる。


「私ね。母を失ってすぐにね、車の中からこんな曇り空から射し込んでいる光を見て思ったんだ。あの光の中の人達は祝福されてるんだって。幸せな光を浴びているんだ。まるで天使が舞い降りたように、って思った。でも、勿論そうじゃないし、あの光の中の人達は光の中にいるんだなんて思ってもいないだろうけどね」

「ああ、そうだね。あそこにいても気づかないね」


 ただの雲の切れ間に太陽が見えているだけだろう。でも、そういわれて見ると本当だ、まるで天使が舞い降りてるようだ。


「ファティマの天使の正体を知っていても、そう見えるね」

「桃李のおばあちゃんだもんね」


 アリスがどれだけ孤独でいたのかよくわかる。アリスがあの雪の中流した涙。嬉しいのと懐かしいのといろいろ混ざっていただろうけど、一番は母をなくした事だろう。

 もうすぐアリスの家だ。もうアリスは孤独ではない、観覧車に乗る事も曇り空から射す光を羨む事もないだろう。そうしなければ僕が。




 九条とは二学期よりも仲良くなった。もうわざと距離を置かなくていいからだ。アリスと三人でいることも多くなった。アリスの一人で読書の時間もなくなった。勿論必要がなくなったからだけど。

 アリスは明るくなり友達といることも多くなった。アリスを蝕んでいた千里眼の世界が記憶ごとなくなったからだろう。美咲がアリスに会いたがって最近うるさい。会わせると余計な事を言いそうだから会わせないが。

 佐々木先輩は見事第一志望の大学へ入学した。よくもあの状況で、だ。毎日を受験に充てれなかったのに。まあ、その間も学年一位を貫いていたが。僕はというとあっさりと九条に抜かれ二番となっていたが、三学期からはアリスにも抜かれた。九条が兄と比較されていた理由も、アリスが本当の力を出してなかったのも実感させられた。

 先輩の入学祝いを九条とアリスと三人でお祝いした。あの時出来なかった、お祝いも兼ねている。世界の終わりを終わりにしたお祝いだ。



 ***



 今年も助手据え置きだ。最後は教授の助手らしく振る舞えたからだろう。今から一年生の講義の手伝いだ。講義に必要な道具を持って中に入る。中を見渡すと……桃李君だ。この大学へ入学したんだな。目が合うが少し笑っただけだ。

 きっと学部は違うんだろう。僕の様子を見るために講義を取ったみたいだ。あの様子なら皆元気にしているんだろう。この分だとあと二年後にはここにあの三人もいそうだな。



 ***


 こうして私達の話は終わる。私と類と桃李と九条君と八雲さん、そして母と桃李のおばあちゃんの。

 誰にも気づかれず世界の終わりを終わりにしたお話が。


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