46.運命*九条*
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今日も柏木に大学の研究室に送ってもらい、実験が終わった。八雲さんが帰って来たので鏡野に合図を送る。うう、やっぱり慣れない。気持ち悪い感覚の後、僕は鏡野の部屋にいる。横には八雲さんがいてマウスのゲージを下に置いて手慣れた様子で靴を脱いでいる。僕も靴を脱ぎ、鏡野達を見る。ん? 何だか皆緊張してるようだ。確かに実験結果は重要だけど、そんな表情でもない気がする。
「今日は距離をかなりとった。研究室の気温、僕のいた外の気温と変化をつける為に冷房を強くかけれるしかも壁が厚めになっている大学から一番近いカラオケボックスに行って実験した。これぐらいの距離は届かないとパソコンの普及していない場所を網羅することはできないからね」
八雲さんは話ながら部屋を出る。早く結果を知りたいからだ。皆は静かに八雲さんに続く。
鏡野が研究室を開ける。遺伝子を調べる機械の電源はもう入っていた。準備万端用意されている。八雲さんが手際良くマウスの遺伝子を調べていく。
マウスは変わっていなかった。念のため戻ったりしていないか僕と八雲さん自身も調べたが、結果は以前のままだった。
「もっと距離を伸ばすように工夫してみるよ」
「はい。よろしくお願いします」
桃李さんが何だか言いづらそうに言った。何かある。何だろう?
「どうしたんだい?」
「あの、ファティマの預言の事なんです」
鏡野が話を始めた。柏木にはそういえば妹がいた。僕と違って血が繋がっている。力を持つ可能性はある、だけど実際こんな実験の途中で力を持つなんて。
……確かにファティマの預言は誰がしたんだ……これも僕たちがしなければいけないのか? でも、今ファティマの預言は存在してる。これをどう捉えたらいいんだ。それに、危険過ぎる。場所移動どころではなく、時間をさかのぼるのだ。戦時中の外国である、柏木や桃李さんが渋い顔をしている気持ちがよく分かる。僕も鏡野にそんな危険を冒して欲しくない。
柏木は鏡野と妹の両方だ。反対するのもよく分かる。でも、ファティマの預言はどうなるのかと、それも気になるのは確かだ。ファティマの預言を放っておけない鏡野の気持ちもわかる。いいんだろうか、このままこの実験が上手く行き、僕の試作品が完成したら実行になる。すぐという訳ではないが、もう間近であるのは確かだ。実行してからファティマの預言をしに行く事は出来ない……どうなるんだろう?
鏡野の話を聞き終わった八雲さんは答えた。
「僕も考えてはいた」
「えっ! でも、そんな話全然……」
「いなかったからだよ。預言や奇跡を実現出来る能力を持つものが。この場合過去へ送り戻す能力とビジョンでは足りない部分を補うことが出来る能力が。この中で桃李君だけが力を持っていない。だけど、過去へ送り戻すなんて強い力と両方なんて無理だと思った。無理な話をしても仕方ないと思ってしなかったんだけどね」
鏡野の疑問にあっさりと八雲さんは答える。確かに皆を不安にさせるだけだ。鏡野はずっと気にしていたようだけど。鏡野は長い長い時間これと向き合っていたんだ。いろんな可能性やいろんな結末を考えただろう。ここまで来てもまだ不安なのだ。
「じゃあ……今この時に柏木君の妹さんが力を持ったことは……」
「うん。その可能性が出てきたってことだね」
「でも、もう俺たちはファティマの預言を知っている。もう起こったことを繰り返す必要があるんですか?」
桃李さんは必死だ。そう。確かにもう起きている。新たに僕たちが行動する必要はあるんだろうか?
「それなんだよ。僕は未来を見て知り得ないブロックを作れた。知り得ない未来の情報もその時の僕はもう知っている。じゃあ、過去に戻り起こした行動をもう僕らが知っていても不思議じゃないんじゃないか……この力の訳のわからない部分なんだ。どの力も科学なんて通用しない。未来を見るのも千里眼も物や人を瞬間移動させる力も物を捻じったり戻したりする力も」
「でも……」
柏木も納得出来ない。二人とも大事な人の危険がかかっているんだ……。
「じゃあ、こうしよう。桃李君が力を持てるかやってみる。さっきも言ったけど実現できないなら、それは僕らがすることではないんだ。ここまで来たのも全て運命のような何かのように思う。非科学的だけどね。でも、そうとしか説明出来ない。だから、桃李君願ってみて、ダメならそこでこの話は終わりだ。いいね。アリスちゃん?」
「はい。もちろん。出来なければ違ってる。ここまで来たらそう思える」
確かに僕らの超能力と実際の能力、全てがここまで必要だった。誰かが欠けてもダメだった。そして僕らの出会いは皆偶然のはずだった。なのに出会い今ここにいる。運命とかなんなのかわからないけれど導かれたんだとしか思えない。僕が鏡野を見つけたのは偶然だ。鏡野と柏木の出会いも。八雲さんも鏡野のお母さんのノートだけではなく八雲さんが未来を見なければこうはなっていない。
全てはここにくるように導かれたんだと……。そう……桃李さんだ。気にはなっていた。ここまで皆必要だったのに、確かに鏡野の支えとしては大事な役目を果たしていたし、八雲さんが参加するまで皆を率いてくれていた、だけど実際能力を使ってはいない。持っていないからなんだけど、もしかしたらそれが今なんじゃないかと思えて来た。そうなるために今まで力を持たなかったとしたら?
「じゃあ、やってみます……って何を過去に戻せば? どう思えばいいのか……」
確かに自然に願って力を得たのではない上に、複雑な力だ。いきなり鏡野を過去へやったら戻せなければ大変な事になる。何か別のもので実験のしないといけないが……どうしたらいいんだ?
「そうだなあ。確かに難しいし確認もいる上に過去に送るだけじゃ困るしね。確認が取れて支障のないもの……マウスだと小さ過ぎるから猫ぐらいがいいんじゃないか?」
「猫……猫を過去に送る? どうやって確認を?」
「写真だよ。小さい頃、外で撮った写真。その時に猫を送るんだ。写真を撮る瞬間に。で、戻す。で、どうだろう?」
八雲さんも確実な話は出来ない。何せ僕らの予想を遥かに超えた話だからだ。
「場所は……」
いつもに比べ自信のなさそうな桃李さんだ。
「さすがに場所もとなると持てる力を超えるかもしれない。場所の移動は柏木君が出来るから、君は時間だけに集中した方がいいだろう」
「あ、じゃあ、うちの庭は? 私の写真に何枚か庭で撮ったものがあったと思う。庭に猫が入って来ることもよくあることだし……不自然じゃないと思う。それに庭だと人に見られないし」
「じゃあ、猫は僕が移動させます」
鏡野の案に柏木がさらに乗る。こうなれば、やるしかないと思ったんだろう。そう、やるしかないんだ。確かめるしか。
「わかりました。ただ、明日にしてもらえますか? 時間も時間だし……集中もしたいから」
桃李さんも決心がついたようだ。
「じゃあ、写真探しておくね」
「明日は僕も九条君もここに移動してもらって先にやってみよう。皆気になってるだろうし」
「はい。じゃあ、いつも時間に」
柏木が答える。明日か。運命はいったい僕たちにどこまでやらせたいんだ……。




