44.美咲
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「ただいま」
家に入ると空気が重い。最近こんな日がよく続いている。母と美咲がケンカしているようだ。母はため息をつき美咲、思春期がまたきたみたいと、こぼしている。美咲はよくリビングにいたのに部屋にいる時間が増えているし、僕をからかっていた頃からは考えられないぐらい静かだ。気付けばずっと話をしてないように思う。僕らは仲がいい方だった。こんなに口を聞かないなんて大げんかした後でもなかった。
食後に母はこっそりと僕の部屋に来た。美咲と話してほしいと。母は何度も試したけれど全く話しにならない。放っておけば、ただの思春期だよ、という言葉に母は美咲は何かに悩んでいるようで、言いたそうにしている時がある、イジメとかかもしれない、とお願いされた。仕方ないか。
今日はもう遅いし、話がどうなるかわからないから今日は美咲と話は出来そうにない。明日部活を休もうと、部長に明日は休む事を伝え、鏡野にも連絡したが出なかった。お風呂だろうかと思っていたら、しばらくして電話がかかって来た。鏡野には美咲の話をして、話が終わったら、また連絡をすると告げた。鏡野はどこか元気がなさそうだった。明日会って鏡野とも話さないと。
翌朝、朝飯を食べ終わると美咲はさっさと部屋にこもってしまった。やっぱり様子がおかしい。
美咲の部屋のドアをノックする。
「美咲入るぞ」
しまった。美咲が返事をする前に美咲の部屋のドアを開けてしまった。
「えっ? 誰?」
美咲はベットに座っていたんだけど、その正面に美咲と同じぐらいの年の少年が立っていた。僕の声にも振り返らない。横から見ても微笑んでいるのが見える。おかしい。母は朝飯のすぐ後に家を空けていて、家には僕と美咲だけだったはずだ。誰も来ていないし、入れた気配もなかった。まさか僕と同じ力が!?
遺伝子的には僕も美咲も同じ力が持てる。でも……少年は無反応だ。普通この状況なら慌てるだろう。美咲は僕が入って来て慌てている。美咲は少年の前で両手を振った……まるでその行動でかき消されるように、少年は消えた。
「美咲……お前の力か……?」
「えっ?」
予想外の僕の反応に美咲が戸惑っている。
「ち、力って……気味悪くないの? 変でしょ今の?」
僕は美咲の横に座った。
「気味悪くないよ」
安心させるにはこれしかない。僕は僕の部屋に置いてる携帯を思い浮かべた。そして、手のひらへ。
「ほら」
「うわっ! そ、それ、手品じゃないよね。お兄ちゃん?」
「ああ。じゃあ……そうだな手品じゃない、手品じゃないってはっきりわかる事をするな」
「う、うん」
美咲は素直に頷く。悩みの原因はこれだったんだ。僕は鏡野に持っていた携帯で電話をかける。
「もしもし。鏡野、頼みがあるんだけど。ここに来てもらえる?」
『えっ? うん。別にいいけど。……何かあった?』
きっと鏡野は今の僕を見ているんだろう。状況が掴めないが、何かあったとはわかる。
「携帯で鏡野の映像を送ってくれる? 僕の力を使うから」
『えっ? ああ、うん。じゃあ、ちょっと待っててくれる?』
鏡野はそう言って電話を切る。
「ねえ、お兄ちゃん今のって……彼女?」
「ああ、……うん」
妹にそう言うのは照れ臭かったけど、今はそれどころではない。美咲も力を得たのだ。まずは安心させなくては。自分だけじゃないと。僕もはじめの頃気味悪く、そして自分が自分じゃない気がして悩み苦しんだ。美咲もそうなんだろう。
何の力かは僕が見せないと聞いても答えるか微妙だ。心を閉ざさないように聞かなくては。美咲も何が起こるのか緊張してるんだろう。僕たちは黙ったまま鏡野の電話を待った。
しばらくして僕の頭に鏡野の部屋が一瞬見えた。来る! 僕は携帯を持ち直した。瞬間鏡野からの着信だ、カメラ電話の。
『ごめん。お待たせ。準備いいよ』
「じゃあ、いくよ」
「きゃあ!」
僕は鏡野を美咲の部屋に移動させた。悲鳴は美咲のものだ。自分も同じような事してるのに……やっぱり違う能力なんだろうか。
「お、おはよう。これって、結構キツイね」
僕に美咲の部屋へと移動させられた鏡野は気分が悪そうだ。
「おはよう。ごめんね、呼び出して。見た?」
「うん。呼んでくれて良かった。……美咲ちゃんはじめまして、私は鏡野アリス」
鏡野は美咲に向き直り挨拶してる。
「は、はじまして……」
美咲は頭の中でこの出来事を整理しているようだ。考え込んでいる。
「今見たのは柏木君の力、私のはこれ」
「きゃあ!」
二度目の美咲の悲鳴だ。鏡野が映像を送ったんだろう。美咲は混乱してるようだ。
「柏木君は物や人を瞬間移動させる力がある。ただし対象物が見えてるか、覚えている通りじゃないと移動出来ない」
「だから、カメラ電話で……」
「そう。私の今がどこでどうしてるかわからないから移動は出来なかった。だけど、自分の携帯はどこに置いてるか……」
「覚えていたから移動できた」
「ああ」
美咲の確認に僕が答える。いきなり鏡野の映像で移動させても理解できないと思ったから、あえてカメラ電話でやったのだ。
「じゃあ、さっきの鏡野さんのは?……あれさっきお兄ちゃんが入ってきた時の……」
「私のは千里眼プラス見たことを人に送れるの。映像を頭の中にね」
鏡野は僕が美咲の部屋に入ったところを美咲の頭に送ったようだ。美咲が力を使ってる時の映像だろう……。
「千里眼……映像を送る……」
美咲が囁いている。いきなりいろんな力を見た。自分のものも持て余していたんだ。混乱するもの無理はない。だが、疑う事はないだろう。疑いようのない状況をワザと作ったんだけど。
「じゃあ、さっき送った映像の話。さっきの男の子、柏木君に反応しなかったよね。美咲ちゃんが消していたように見えた。彼は本物?」
「……私が出しだの。本物を思い浮かべて……そこに立ってるって想像すると……」
美咲は鏡野の横にまたさっきの少年を出した。鏡野は興味深そうに触ったりしている。
「うそ……温かい……」
「マジで!?」
鏡野の言葉に僕も立ち上がり少年を触る。温かい……感触もある……。これだけ鏡野と僕に触られても少年は動かない。そればかりか微笑んでいる。
「この、これって美咲の作り物ってこと?」
「うん。そうみたい。私も本物なんじゃないかって最初は疑ったけど、彼、そのクラスメートなんだけど、いつもと変わらないの。本物じゃない。私の思い浮かべた状態でずっといるし」
美咲……こいつが好きなんだ。……
「美咲何願った?」
「えっ?」
「この力ね、強い願いで身につくの。だから……」
「ああ、えっと……」
美咲は俺を見てためらった。少年は何時の間にか消えている。
「ん?」
「まあ、いいんじゃない? そこは。それより、この力がどんなものかって事じゃない?」
「ああ、まあ、そうだな」
美咲が言いにくそうにしているんで、鏡野が追及を止めた。まあ、いいんだけど。多分原因はあの少年だろう。散々からかった僕に言うのが嫌ってところだろう。




