表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/55

42.アリスの考え*アリス&柏木*

 ***



「久しぶり」

「出来たんですか?」


 八雲さんの呑気な挨拶を無視して、桃李が聞いた。


「まだ試作段階だ。とりあえず九条君の能力は消えている。僕のはここで遺伝子を調べて、確認しないと。実験時僕は外に出てみたから、距離もあるし九条君とは条件も違っている。とりあえず僕の遺伝子を調べてみよう」


 九条君の力が消えてる! こんな大きな進歩にも八雲さんはいつも通り冷静でいる。そう、まだ先がある。まだなんだ。皆は母の研究室に移動した。念のため九条君の遺伝子も調べてみた。二人とも変化している。八雲さんは自分の結果を確認して一息ついている。きっと成功したことよりも、望まない力が消えたことにホッとしているんだ。私も消してもらいたい衝動にかられる。だけど、まだ監視する必要がある。そう、最後の日まで必要なんだ……。


「僕の力、消えているね。来週からマウスにも実験してみる。距離がどの程度かみたいし条件も変えたい。いろいろな状態をみたいがマウスは三匹だ。他のマウスも異常がでないか確認のためにみないといけないし。まだ実現には時間がかかる。慎重にマウスを使わないと。というわけで今日はマウスを一匹だけ連れて帰る。明日いつもの時間にマウスを使って実験する。その後ここで遺伝子をみる。上手く行っていればまたもう一匹連れて行く」

「だから、来週もいつものように八雲さんのところへ送ってもらえる?」

「ああ、わかった」


 九条君の言葉に柏木君が答える。やっとここまできたんだ。でも、まだ気になる事がある。それを解決しないと……


「ウイルスの方はどうなんだ?」


 桃李が九条君に聞いている。九条君はちょっと困った顔をしている。


「桃李、九条君こっちにかかりきりだったんだよ。あれもこれもはさすがに無理だよ」

「そうだよな。ごめん」

「いえ、大丈夫です。まだ完璧じゃないけど、試作品はいくつか作ってるんです」


 皆の視線が九条君に集まる。


「それもしてたのか?」

「マウスを探してる時や八雲さんが一人でこの研究をしてくれていた時にね」


 柏木君の問いに九条君は答える。そんなに前から準備してくれてたんだ。家での監視はしないと言ってたので飛ばして削除していたから、知らなかった。


「でも、まだ完璧じゃない。この作業にまだ時間がかかると思うんだけど……その後また続きをすることになると思うんだけど……」


 九条君はちょっと申し訳なさそう。


「いいんだよ。ごめん焦らせて、大丈夫だよ。俺こそ何も役に立っていないんだ。気になって聞いただけだ、気にしないでくれ……」


 桃李は肩を落としている。桃李だけ何も役に立っていないのを気にしてたんだ。だから、八雲さんと九条君を見る事を止めて自分の部屋に行ったんだ。桃李を引き入れたのには訳があるのに……ちゃんと話さないと。


 ***


 マウスを一匹ゲージに入れた八雲さんと九条君を送り僕はまた今日もこの道を帰る。美咲はよくも毎日毎日あきれ顔でいたが、そのうち何も言わなくなった。母はもう詮索するのを辞めたようだ。毎日同じ事を続けるとそれが当たり前になっていく。今日の進展にもそんなに期待をしなくなっている。

 九条や八雲さんの力がなくなり、事実遺伝子が変わり普通の人になったのは大きな進歩だ。だけど、まだまだ先がある。マウスを見つけて期待が高まったのはずいぶん前の事だ。期待しては、また悶々とした日々に入るをずっと繰り返しているから、もうそんなに期待しなくなった。期待して、また苦しい時間を過ごす。

 自分の手を離れてしまうと余計に苛立つ。佐々木先輩が九条にウイルスを聞いた気持ちもわかる。ゴールがどこだか確認したいんだ。自分の手の中にあっても先がわからなかった。それが手を離れてしまったら、ますます不安に駆られる。あんなに鏡野の焦りをなだめていた佐々木先輩が焦っている。

 僕の仕事も移動のみだ。鏡野と一緒にいるから八雲さん達の事を毎日確認していたけど、早送りの二人を見ては焦らされていた。何もしていない自分に。僕の力を使っていない訳じゃない、でも何もしてないのと同じだ。必死になっている二人を見ていると余計に自分の無力を思い知らされる。

 空を仰いだ。今日はいつもより遅くなったのと日が暮れるのがだんだんと早くなってきている。もう暗くなると肌寒く感じる日もある。空は一面赤く染まっている。鏡野と見た観覧車の景色を思い出す。ここは少し高くなっているから家々が見える。僕らはこの家々にウイルスを撒きこの力を消そうとしている。ここから見えるだけじゃない、観覧車からか見えた景色の中だけではない、世界中にだ。はじめからそう言っていたけどなんだかこんなにも大きいことなんだと身近な景色を見て思う。

 出来るんだろうか本当にあと少しまで来てそう思ってしまう。実感がないのもある。やはり自分の手を離れ結果の報告ばかり聞くようになったから、何をどうしてるのか知らないからだろう。自分達で作り上げるという最初の目的からだいぶ外れてしまっている。到底無理だったのはわかる。答えを見ても全くわからなかったからだ。方法なんて考えもつかなかった。

 八雲さんと九条がいなければどうする事も出来なかった。八雲さんは鏡野にずっと見られていて、あのロゴと八雲さんの力でブロックの作成方法を見た、だから僕らが呼んだんだ。でも、九条は違う。九条からのアクセスが原因だ。それすらも決められた道筋だったんだろうか。

 二人の移動は僕がしている。僕も鏡野と偶然同じ学校の同じクラスになった。それも全てということか。僕の参加も決められていたんだと。全ての出会いは偶然だ。だけど、ここまで来ると必然に思えてくる。必然で僕たちは集まりその能力を発揮しているんだ。全ては導かれているようだ。まるで何かに吸い寄せられるように……。

 ヤバイ日暮れが早い赤い空に夜が押し寄せている。僕は家までかけ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ