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39.デート*アリス&柏木*

 柏木君が来た。私はドアを開けた。



「うわ! お、おはよう」

「おはよう」


 インターフォンを押そうとしていた柏木君は驚いて二、三歩下がった。すぐに私が見ていることに気づいたんだろう、笑顔で挨拶してくれた。ああ、本物だ。私は階段を駆け下りていく。今日は最後の一日。約束の日。朝の弱い私は早起きをして昨日選んだ服を、やっぱりと思い直し着替えては桃李に見せ、また着替えてを繰り返していた。桃李にはもう何を着ても可愛いから!と投げやりな一言で終わらされ、結局一人でまた選び直すを繰り返した。柏木君が近づいて来たので慌てて昨日選んだ服に着替えた。桃李の冷たい目線を感じながら、待ちきれず玄関で待っていた。


「ねえ。どこ行くか決まった?」


 柏木君の横に並び聞いた。


「うん。鏡野が気にいるかわかんないけど。行こう!」


 手を差し出された。


「着くまで内緒?」


 手を握り返しまた聞く。彼を見ていたけどいろいろ調べていたから、結局何に決めたのかわからなかった。多分見てる事意識してわからないようにしてたんだ。だって、柏木君は行き先を気にしている私を見て、楽しそうに微笑んでいる。




 ***



 僕が鏡野を連れて行ったのは水族館だった。時期が時期だから混んでるかもと思ったがやっぱり混んでいた。だけど、離れないようにとずっとそばにいれた。計算外の嬉しい誤算だった。鏡野は楽しそうだった。良かった。

 暑いし鏡野は運動が苦手だしといろいろ考えて、見られてるだろうから色々な候補を最後まで探しているフリを続けた。鏡野は何でも見えている。そんな彼女に秘密にしておく、彼女の何もかも見えている毎日から少しでも解放したかった。

 水族館を一回りした後で、近くにある観覧車に乗る事になった。鏡野がどうしても乗りたいと言ったからだ。何だか意外だな。長い列を並びようやく順番が回ってきた。鏡野は嬉しそうだ。その笑顔が見れただけでも来て良かったと思えた。

 観覧車からいろんな景色が見え出した。


「私ね、観覧車が大好きだったんだ。最後に乗ったのは、いつだったかな。父に無理矢理何回も連れて行ってもらったんだ。そうだ。母が死んでこの力を持つ前だった……」

「小学生の頃?」

「うん。こうやって景色を見てると何だか安心出来た」

「安心?」

「そう。私一人じゃないんだ。この世界には沢山の人がいるんだ。あの一つ一つに家族があって、皆幸せってわけじゃないけど、毎日を生きている。沢山の人がいるんだって」


 鏡野の孤独が伝わる……千里眼を持ってからは観覧車に乗ってない。千里眼で見えるからか、または遠くから見る世界ではないものを見てしまったからか。


「うん。鏡野、鏡野は一人じゃないよ。少なくとも僕がいる」


 こんな言葉でいいんだろうか。もっと何か言いたかったけど、何も思いつかない。


「ありがとう。見て。一番上だよ」


 三百六十度広がる世界。僕たちはこの世界を変えようとしている。進化なのか変化なのか人類におこった分岐を消そうとしてる。

 鏡野はその後も楽しそうだった。帰り道はなんだかさみしそうだった。明日も会うのに……今日は本当の意味で鏡野の休息だったのかもしれない。明日からまた始まるんだ。どうなるかいつ終わるのかわからない僕たちの戦いが。

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