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38.装置の正体*アリス*

 



 月曜日がやって来た。照りつける太陽の元、柏木君も桃李もテニスを頑張っているだろう。私は校舎の比較的涼しい場所で本を広げていつもの処理を続けている。毎日こうするつもりだった。少しでも柏木君の側にいる。そう決めた。自分の気持ちがブレないように、柏木君を不安にさせない為にも。こんなことで何かが変わるのかわからなかったけど。多分自分が一番不安なのだ。九条君を知れば知るほど惹かれてしまい、最後には柏木君を追い出してしまうんじゃないかと。そうならないように、柏木君の側にいよう。彼の側に。


 いつものように部活が終わり、私の部屋に柏木君、桃李がいる。新聞紙を広げて用意する。時間だ。柏木君にビジョンを送る。二人が現れた。


「こんにちは」


 とか、


「よう!」


 とか、

 挨拶が終わり、靴を脱いだ八雲さんはマウスのゲージを置いた。ほぅと息をついてから話はじめた。


「まずはマウス。で、パワーを発信する装置」


 ともう片方の手にあるのはノートパソコンだ。そちらの腕を上げ私達に見せる。

 皆はへえ? って顔だ。私もそうだろう。八雲さんは笑いながら言った。


「意外だろう? パソコンの発するパワーをある一定まで引き上げるんだ。今のパソコンならそれが可能性だ」


 てっきりいろいろな機械を分解してまた作り上げるって事を想像していた。それがパソコンだなんて。


「だから母は実現出来なかった……」

「そう昔のパソコンと今のじゃ性能はまるで違う。その当時この性能の物を作り出すなんて到底出来なかった」


 母が実現出来ない訳だ……。


「それから、このパワーを発する範囲は君達が想像しているより狭い」

「えっ! じゃあ、いったい何台のパソコンがいるの?」


 九条君が某然と聞き返す。いくら資金があり、柏木君が送れると言っても数が多ければ限界がある。同時に起動するなら、そんなに沢山を一度には難しくなる。


「台数は……世界中のパソコンだ」

「あ……」


 九条君が気付いた。すぐに私たちも。


「世界中のパソコンを乗っ取るんですね? そして同時にそのパワーを発する。人のいるところにはパソコンがある」

「原始的な生活をしている場所に能力を持つ人はまずいない……必要ないからわざわざ送られていないし」

「そう。そういうことだ。試作品をまずはマウスで実験する。で、その後は……」

「僕が世界中にウイルスを撒く。気付かれないように世界中に。ある時間になると発信するように」


 九条君が続ける。九条君の参加はやっぱり意味があったんだ。


「じゃあ実験はここで? 研究室で?」

「いや、鏡野さんや柏木君の能力がなくなると困るんで、大学の研究室で僕が実験するよ。最後を持って行っちゃて悪いんだけど。あ、でもマウスの遺伝子を確認するのはここでさせてもらうよ。誰かに見つかると大事になるからね。遺伝子が違ってるマウスを見られると。だから、実験して結果をここで見るという形にしよう」

「だから、マウスを……」


 私は沢山のマウスを見ながらいったい。何匹当たりいるかわからないからだろう。まずはその遺伝子のマウス探しからはじまるんだろう。


 やはり一回目でマウスはヒットしなかった。その後もマウス探しは続いていた。夏休みの半分を過ぎお盆はさすがに皆無理なので、お盆明けに集合となった。こうしてマウス探しに時間を取られて行く。私はだんだんと焦ってきた。祖父に頼んでもっと大量のマウスを手に入れたらいいんじゃないかと。


「アリス。前進してるんだ。大丈夫だよ。マウスの方が当たる確率は上だよ。そんなに焦るな」


 桃李は私の焦りを察して声をかけてくれる。わかってる。もうすぐそこなんだきっと。八雲さんはマウスを次々と借りてきてくれる。その間にもあのノートが指し示したパワーをパソコンで出す方法を研究してくれている。八雲さんの能力がなくなるけれど、彼はこんな力何の役にも立たないからと言っていた。きっと早くなくしてしまいたんだろう。私だって……。もう永くこの力を使っている。私の場合はずっとだ。ずっと。と考えてるとまたボールを見逃した。


「アリス! 少しは気分転換しろよ」

「うん。そうだね。考えても何にもなんないね」


 ボールを取りに行った。桃李とテニスをしている。お盆休みになり、祖父の別荘に来てテニスをしている。桃李はテニス部部長だ。遊ばれてる感じだけど体を普段動かさない、運動音痴の私にとってはいい気分転換になる。そう長くは持たないけど、疲れが心地よい。

 毎年お盆には祖父の別荘に来ることが恒例になっている。いつもはギリギリまで桃李とここにいる。父や母は二泊して帰って行く。忙しい身だから仕方ない。だけど今年は休みを一日残して帰る。最後の一日は柏木君と約束した。前にどこかに行こうと約束していたから。

 いつもは楽しいのに、今年は焦りもあってついつい八雲さんを見てしまう。八雲さんはたんたんと家でも作業をしている。そして……こちらもつい見てしまう。柏木君を。会いたな、と思いながら。九条君も勿論見ている。家以外はきちんと見ておかないといけない。

 八雲さんも九条君も柏木君も皆自衛する力を持っている。だから、リアルタイムで見ないで済んでいる。怪しいことがないのを確認するだけだから。九条君は家の中の様子はすぐにさっと流して削除している。でも、この胸の鼓動までは消せない。何でこんな気持ちになるんだろう。柏木君への想いとなぜ並行してしまうんだろう。そのことでも悩んでいた。桃李には言えない。桃李はまだ苦しんでいる……これが全て終われば何もかも解決するんだろうか……。本当はこのいろんな想いを消して欲しかった。この能力も……。

 世界の終わりが本当に来るのか、この力を利用する人たち、母を殺した人たち、司法制度が通用しない社会、そんな問題の解決だという思いを段々超えて行く。私は弱い。身近な自分の問題が勝るのだ。強がって精一杯背伸びをしてきたけど、やっぱり本当はこの苦しみから逃れたかったんだ。あの日、流した涙は私の強がっていた気持ちも洗い流していた。苦しいし辛いのは変わらないが……やっぱりしんどいや。だから、焦っているんだ。早く終わりが来て欲しい。





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