魔改造181ccスーパーカブ
『ワッハッハ!かたじけない!地獄に仏とはこのことだ!』
「なあモカ、この翻訳ソフトまじかや?」
「たぶん慣用句はそのまんま似たようなのを引っ張り出してるからマジだよー」
どういうわけか……どういうわけかあれから意識を取り戻した女騎士はガツガツと豆乳鍋を食っておった。
まあ、鎧脱がせてポカリ飲ませて休ませたら異国語でなんか喋りたおしてあっさり回復しておっただけじゃが。
モカがテレパシー系の呪術もっててよかったのじゃ……!
そこから術式をいじり倒して数十分でステータス画面に翻訳を表示できるようにしたのは驚いたがの。
『ともあれ、世話になってすまん。こちらの獣人はずいぶんと文明的なのだな』
「あー、まあ?何百年もかけてゆっくり良い感じになったんじゃよ」
話を聞くに、向こうは典型的な近世西洋ファンタジーという感じらしいからのう。
まあ……悪気ない差別意識とか普通にあるんじゃろうね。
『さて、いつまでも世話になってはおられん。我が街に戻らねば』
「まあ待てアーネスト殿。そちらで言うダンジョンとこちらで言う妖し筋が衝突してぐちゃぐちゃになったんじゃ。どう考えても復旧するまで待った方がよい。いま引き返しても遭難するだけじゃよ」
女騎士がスプーンとフォークを置いていきなり立ち上がるから驚くのじゃ。
異世界人元気がよすぎんか?もう夜じゃぞ。
というかたぶん異世界と接続しちゃったのヤバすぎるのじゃ。
『しかしだな……この手の普請を待っていては何年もかかろう。異国の地に何年も留め置かれるくらいならば私は一縷の希望に賭ける』
「うーん、たぶん数か月じゃよ?長くともまあ半年くらいじゃろ」
武神とか退魔師とかの武術界隈がたまにストリートファイトで暴れて怪獣映画みたいになるのが常じゃもの。
その上で地震も台風も来る。じゃから我が国は建築業界が異様に強いんじゃ。
『だとしてもそれだけ世話になるのは……』
「じゃあ働けばいいじゃん!うちでバイトしてもいいし、たぶん向こうの人がこれからも来るからその時通訳ぜったい要るよ!」
『うーむ……』
「まあ座るのじゃ。怪しむ気持ちも遠慮する気持ちもあろう。じゃがこういう時は助け合いじゃもの」
『ではなぜここまで行きがかりの旅人にそこまで世話を焼いてくれるのだ?』
よし、とりあえず座ったな。わしは茶を飲んで説得モードに入る。
「うむ、まずこの手の助け合いで案外長い付き合いや良い縁になるのは長く生きとるとよくあるんじゃよ」
『そなたは子供ではないのか』
「見た目はの。こう見えて戦国の終わりくらいからこうじゃよ。まあ三百年くらいかの」
『ではそちらは!?』
アーネストの目線の先には同じテーブルで鍋をつついているモカとひより。
まあ……見た目がそう変わらんからのう。
「え?私?三十八だよ?」
「私は普通に見た目通り二十七才ですけどね」
『まこと異国の地なのだな……獣人に見た目が近いエルフやドワーフの類なのか……?』
「まあそういう種族じゃよわしらは」
うーむ、この長命種バレで驚かれるのものすごく久しぶりで気分がええのう。けけけけけ。
『しかしたとえ数か月であったとしても返せるものがすぐには……本当にその程度の働きでよいのか?』
「旅先で路銀を稼ぐちょっと長めの旅行だと思えばよかろう」
『……わかった。とりあえず三か月待ってみよう。それで進捗がなければ私は帰ってみる。すまんが世話になる』
おっ、またドラクエファンファーレじゃ。
『おんなきし アーネスト が なかまに なった!』
やかましいわ!
……あとでモカに調整を頼んどかないとのう。
■
とりあえず風呂やらトイレやら最低限の水回りはレクチャーして何とか寝てもらい朝じゃよ。
朝は朝でテレビやらスマホやらも一通り説明したしのう。
「うーむ、本当にこちらは進んでいるのだな……」
「いやまあ、そちらの魔道具もだいぶ進んどるし誤差じゃよ誤差」
テレビは魔法の水晶玉とかオルゴールで説明ついたしの。
意外に進んどるわ。たぶん魔法方面に技術が発達した並行世界とやらなんじゃろうね。
「いやー、蔵に翻訳呪符が残っててよかったよー。今だと発禁だもんねえ」
「うむ、助かったぞモカ。これはお小遣いじゃ取っておくのじゃ」
「おー奮発するねえおばあちゃん。ありがとね!」
まさか学研の付録についとったちょっと昔の危ない知育玩具で翻訳魔法がかけれたとはのう。
アーネスト殿もおかげで普通に喋れておる。
「その、ありがたいが副作用などは……?」
「いやー、副作用で禁止って言うより脳の言語野に直で情報流し込むのって危ないからねー。今はもっといい代替手段あるし」
昔は昆虫採集セットとかけっこうワイルドな玩具があったからのー。
アメリカで売っとったとかいう原子力キットとかに比べればたぶんマシじゃよ。
「そちらを使っていただければよかったのでは?!」
「んー、それは世界中のメインの言語に辞書があるのが当たり前になったからで、アーネストさんの言葉の対訳辞書はまだないからねー」
「な、なるほど……なんでもうまく行くわけではないのだな……」
ふー、朝もよう食ったのう。
わしとひよりは今日も参鶏湯じゃがモカとアーネスト殿はトーストか。
文化差を感じるのう。
「まあしょせん技術であって奇跡ではないからのう」
「ふむ……馳走になった。ならばせめて世話代としてこれだけは取っておいてくれ」
うおっ金貨じゃ。うーむまあ、10万円くらいじゃろうな。
おそらくこういう時のためのへそくりじゃろう。
換金手段はどうとでもなる。最悪は潰してインゴッドとして売ればよかろう。
「うむ、受け取ろう。じゃからアーネスト殿もそこまで気を遣わんでおくれ」
「そうか、助かった。もしできるのであれば両替もできるか?」
うおっ、銀貨。このところ地味に上がっとるんじゃよね。
「ふーむ、とりあえず一枚で十分じゃ。二万で買い取ろう」
「これが紙幣か……小切手のようなものなのだろう?」
「ほぼ貨幣じゃよ。紙で作っただけじゃ」
「一万が一枚に千が十枚か。かたじけない。とはいえ不思議な物だな」
「とりあえずはゆっくり慣れるがええよ」
会社に戻るモカを見送り、社用車でギンに事情を説明しに役場に向かう。
「ほう、これが車というものか」
「うむ、説明した通りからくり仕掛けで動く馬車みたいなもんじゃよ」
チョロQがまだあってよかったのう。なんでもとっておくものじゃなあ。
「コン殿が御者を?こういったものはひより殿では?」
「どうぞ楽しんできてくださいね、コン様」
「うむ、まあそういうわけじゃよ。乗るんじゃ乗るんじゃ」
とりあえずドアを開けてアーネストを乗せる。
まあ不安になるのはわかる。白い軽自動車じゃからね。
ドアに社紋と「紺野稲荷」のロゴが書かれているありふれた感じのやつじゃよ。
「慣れると楽しいんじゃよ」
エンジンキーを回せば、なんちゃらターボエンジンがいい音で鳴る。
相変わらず静か過ぎずうるさ過ぎずええ音じゃ。
ようわからんがターボじゃぞターボ。
五速オートマじゃしほんに運転が楽じゃ~。
「コン殿!これは本当に普通の運転なのか!?」
「普通じゃよ普通!まだ五十キロしか出しておらん!」
田舎道ともなれば皆七十キロは出しておる。
ここが埼玉の片田舎じゃからこれでも全然加減しておるのじゃよ!




