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「じゃあ、さっき何が起こったか説明するね。でもその前に、祓い手って知ってる?」
「……存在だけなら」
祓い手……陰魔に唯一対抗出来る術を持つ人間。
確かある日を境に数は激減して、今はもう殆ど見掛けないという話だったけど。
「黎一郎はね、祓い手なの」
「はあっ!?」
今日だけで何回「はあ」と言っただろうか。
まさか殆ど絶滅したようなものである祓い手に僕が出会えるなんて。しかもその相手があのホームレスなんて。
「そもそも陰魔はね、《魔具》という特別な道具でないと祓えないの」
「まぐ……?」
「魔法の道具と書いて魔具だよ。魔具には陰魔を祓う為の特別な力があって……というか、陰魔は魔具でしか祓えない、成仏させることが出来ないの。魔具は《魔具師》と呼ばれる職人にしか作ることが出来ないんだけど……これは今関係ないから割愛するね」
それは助かる。正直、あまり聞かないような単語ばかりで混乱しそうだ。
「その魔具を扱えるのは、ごく一部の人間しかいないの。そもそも、手に馴染む魔具が存在する人間が殆ど居ないんだ。魔具によって形も能力も違うから……」
「えっと、つまり……その魔具?を扱える人間が、祓い手……ってことなのかな」
僕の問いに馨ちゃんは頷いてくれた。
成程ね。祓い手という職業の人間が魔具を扱うんじゃなくて、魔具を扱うことの出来る人間が祓い手と呼ばれるのか。
つまり、現代では魔具を扱える人間が殆ど居ないと。だからこそ、祓い手の数は減ってしまったのだろう。
「なら、さっきの神々廻さんの行為は……」
「もう、何となく理解してくれているとは思うけど。黎一郎は将吾に憑いていた悪霊を祓ってくれたの」
……彼女の話を聞いて想像はしていたが、僕は悪霊に取り憑かれていたのか。
いつからだろう。想像したくない。
そして今の話の内容からして、神々廻さんの魔具はあの番傘なんだな。
あれで僕の悪霊を僕の身体ごと貫いたと。
「あっ。でも、魔具は陰魔にしか効果が無いから大丈夫だよ。将吾の身体が貫かれちゃったけど、怪我ひとつしてないと思う」
ああ。それで全く痛くなかったのか。
そうだったとしても本気で殺されると思ったし、やる前に言って欲しかった。
「それと、もうひとつ重要なことがあるんだがなァ」
先程までテーブル席で寝転がっていた神々廻さんが、何故か僕の前に立っていた。
いつの間に移動したんだろう。全く気配を感じなかったけど……。
「重要なこと?何だよ、それ」
「あァ。テメェに憑いてたのは下級も下級。それどころか欠片みてェなもんなんだよ」
だからこそあんなに一瞬で終わらせることが出来たと?そう言いたいのだろうか。
「……違うよ」
まるで僕の心を読んだかのようなタイミングで、馨ちゃんが否定の言葉を口にする。
「黎一郎が言いたいのは、もっと大切なこと。そしてきっと、あなたにとっても」
抽象的過ぎて、彼女が何を言いたいのか分からない。
だが、その答えはすぐに判明することになる。
「……欠片があるってことは、親玉がいるんだよ。テメェに欠片が憑いてたってことは、親玉はテメェの近くの奴に憑いてるってことになる」
「例えばテメェの関係者……家族とかになァ」