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エピソード:9『葛藤する魔人2』

皆さんお久しぶりです、ライダー超信者です。

ギーツ&キングオージャーの映画を初日朝イチで観に行ってきました、どちらもめちゃくちゃ面白くて非常に満足度が高かったです。特に去年の映画ドンブラが個人的にとことん合わなかったので「これだよこれ!こういうのでいいんだよ」状態になってました。

 


国王レッドバロンの命を受けた宝笑達は目的地の山へと向かう。そこに待ち受けていたのはやはり魔王軍であり…………


追記:ジャマーの名前を思いっ切りジャマンガと間違えていたので修正しました。自分で書いたくせに忘れるな。


『近頃、この城から北東の方角にある山に不審な影を見たという報告が多くてな。これが賊であれゴブリン等の人型の魔物であれ、民はもちろんこの国を訪れる他国の者達にまで被害が出る可能性が高い。

君達にはその調査、可能ならば討伐を依頼したい』



「あ゛ぁ~疲れたぁ…………うーんそれらしいのはいないなぁ…………」

「なーんにもいないっすね~~」


俺達は王様からの依頼にあった北東の山に来ていた。

話にあった不審な影とやらを探し、奥へ奥へと進んでいく。幸い今はそれらしいものは見つけられず、平和なハイキングといったところだ。


「宝笑、くれぐれも無理はしないでね。何かあったら私達がなんとかするから」

「ありがとうございます、すいません……」

「シャンとしてください、誰も責めませんから」


苦笑いで返すとナハトさんは呆れたような困ったような顔になる。と、ヒノカさんが何かを閃いたような顔をして俺の前に来た。

何かしらと思ったその時、ヒノカさんは迷いも躊躇もなく俺を抱きしめた。子供をあやすように背中を優しくポンポンと擦られ、頭まで撫でてくれる。


「?????????????」

「大丈夫ですよ~、宝笑さんを悪く言う人はここにはいませんからね~。よしよし」

「ほんほぉん????????」


頭がフリーズして言語能力が著しく下がる。『柔らかい』と『いい匂い』の二つだけが頭の中をぐるぐる回り、動くことが出来ない。


「ヒノカサン?ドシタンデス?」

「少しでも辛い気持ちが和らげばなぁ、と思って。

すみません、嫌だったでしょうか……?」

「いえいえいえ滅相もねぇでゲス……!」

「ふふっ。それなら良かったです」

「おぉ……ヒノカさん大人っす……!?」


「……………………………………………………………………」

「 宝 笑 さ ん ? 姉 様 に な に を し て る ん で す か ?」


「うっひょおぉぉぉナハトさん怖ぁぁ!!??

なんかフィーニアスさんも顔がベニヤ板みたいにスットントンになってるんだけどぉ!?」


まっ平らな板の如きスーンとした顔で俺を見るフィーニアスさん、そして光のない目でズモモモと恐ろしいオーラを出しながらジッッ……と見てくるナハトさん。

こんな目の鳥ポケモンいたなぁ……


「いやこれほらヒノカさんのご厚意!ご厚意だから待ってぇ!!俺やましいこと考えてないからぁ!!

つーかフィーニアスさんに関してはなんで不機嫌になってんのかマジで分からないんだけど!!?」

「そうよナハト、宝笑さんは悪くないんだからそんな顔しないの。ね?フィーニアスさんも落ち着いてっ」

「……………………………………………………ソウデスネ」


無機質な機械音声のような返事をして、やっとこさナハトさんの激怖オーラが引っ込む。フィーニアスさんの方もとりあえずは冷静になってくれたようだった。

本当に死ぬかと思った…………


「…………………………………………………………」

「? ブレイズさんどうしたんすか?さっきから黙ってキョロキョロしてるっすけど…………」


しばらく口を閉ざして周囲を警戒していたブレイズさんはフラムちゃんの言葉に真剣な顔で返す。


「変です、いくらなんでもここまで来て魔物の姿も気配も全く無いなんておかしい……普通なら縄張りに入ってきた僕達を警戒する筈なのに……」


確かにブレイズさんの言う通り、俺達は既にそれなりに山の奥へと入ってきているが未だに動物も魔物も影すら見ていなかった。おまけにやけに静かで鳥や虫の鳴き声すらしない不気味な静けさが広がっている。

俺は言われて気付いたがどうやら他のみんなは薄々気付いていたようでブレイズさんの言葉に反応した。


「やっぱりブレイズさんもそう思いましたか……」

「山に入った時から変だとは思っていましたが…………何かあるのは間違いないみたいですね」

「みなさん、気をつけて進みましょう」

「はいっ!」

「は、はーい……」


そうして警戒を強めながら山の中を進んでいくとやがて拓けた場所に出る。そこは小さな池のほとりで、いわゆる山池だ。

水面がキラキラと光っていてとても美しく、映画でしか見たことのない光景に感動する。出来れば写真を撮っておきたいところだったが生憎スマホはとっくの昔に充電切れ。思い出の中に写していこうとした時、みんなが臨戦態勢を取った。


「え、なに、どしたのみんな?」

「姉様」

「えぇ」

「宝笑さん気をつけて、〝何か〟います!」


ブレイズさんの呼び掛けがあった次の瞬間、森の中から何かが飛んできた。

フラムちゃんが咄嗟に放った炎のブレスでその何かは焼きつくされ、ぽとりと地面に落ちる。


「な、なんすかこれ?」

「素晴らしい。良い反射神経でしたよお嬢さん」


全員が一斉に声のした方を見る。木々の中から現れたのは蜘蛛の怪人だった。

赤と黒の細身のボディに各所に装着された鎧、蜘蛛を象った鉄仮面には緑色の三つの目と牙が光る。

そして何より、腰にはあのベルトーーモンスライザーが巻かれていた。



「ようこそ、魔修羅とその御一行の皆さま。

私は魔王軍行動隊長のクラバタスと申します、お見知りおきを」

「…………あんたが、今回の事件の犯人か」

「魔物達の件を言っているのであれば正解です。

ようやく愚かな人間達もこちらの策に気付いたようですね。まさか、魔修羅の一行を寄越すとは思いませんでしたが……よほど人手が足りていないと見える」

「貴方の目的はなんですか。魔物を使って何を……」

「もちろん、あの国を襲うことですよ。そのために……ほら」


蜘蛛男がパチンと指を鳴らした瞬間、森の中からたくさんの魔物がぞろぞろと現れた。

ギョッとして臨戦態勢に入るとあっという間に囲まれてしまい背中合わせの状態で魔物達に向き合う。


「おいおい嘘だろ何匹いるんだよ……!?」

「百……は無くとも五十はいそうですね」

「この森にいる魔物は全て私が操っています。

さぁ、あなた方はどこまで保つのでしょうか。楽しみです」


蜘蛛男は再び指を鳴らす。瞬間、魔物達が一斉に襲いかかってきた。


「来たわ!」

「…………やるしかないか……っ」


バジュラブレードを構え、襲いくる魔物達を斬る。剣を振ることに嫌悪感が拭えないが、俺はともかくみんなのためにやるしかない。

みんなが魔物達と交戦する中ブレイズさんは魔物達を捌きながら魔我魂をセットし、抜刀してソードセイヴァーへと変身した。


『レイズ・ザ・ソード!』

「変身!!」

『燃える魂の炎!!

       フレイムドラゴン!!』


変身するや否やブレイズさんは炎の斬撃で次々と魔物を蹴散らしていく。飛びかかってきた魔物を後ろに飛んで躱すと同時に斬撃波を放ち、複数の魔物を一網打尽にしてしまった。


「ナハト!」

「はい!」


ヒノカさんが一瞬消えたのと同時にナハトさんが矢を放ち、高速の斬撃と降り注ぐ矢の雨が魔物を一掃する。


「ヴェレ」

「いよいしょぉ!!」


フィーニアスさんの放った衝撃波がなぎ払い、フラムちゃんの鉄拳が乱れ飛ぶ。みんなの猛攻を受け、魔物はあっという間にその数を大きく減らした(俺なんて十匹も倒していないのに)。

そして魔物の数が二十匹ほどになったところで突然攻撃が止み、拍手の音が響いた。


「…………いや、素晴らしい。行動隊長を二人も破ったのはまぐれではなかったようですね」


拍手しながら称賛の言葉を口にする蜘蛛男。

仮面のせいで表情は分からないが、薄く笑っているのだけはなんとなく察することが出来た。


「どうでしたか魔修羅、他者の命を奪った感触は?」

「………………………………」

「気にする必要はありません。これは戦争、敵を殺すことは悪ではなくむしろ正義。誇っていい。

何よりーー人間の命を奪うあの感触、感覚、実に素晴らしいとは思いませんか?」

「ふざけんなっ!!!人の命を奪うことの!なにが素晴らしいんだよ!!」


自分が思っている以上に今の俺は怒っているんだろう、みんなが圧倒された顔で固まる。

腹の底から怒りを吐き出し怒鳴る俺に、蜘蛛男は肩を竦める。


「ご理解頂けないようで残念です。人間の命を直接この手で奪う、この上ない至福なのですが」

「……………………………………!」

「まぁいいです。賛同を集められないのは昔からのことなので。それはそうと、早くあの国に戻った方がいいと思いますよ」

「……どういう意味だ」


ブレイズさんが剣を向けるが蜘蛛男は気にすることなく話し続ける。


「言ったでしょう、この山の魔物は私が操っている、そして私の目的はあの国を襲うこと……まさか、何もせずに貴方達に狙いを話すと思いますか?」

「…………まさか」

「〝既に魔物は向かわせています。〟これだけの大きい山、普通に考えて五十やそこらしか魔物がいないなんて有り得ないでしょう。侵攻のための尖兵を全て貴方達にぶつけるなど尚更。一人ぐらいは気付くかと思いましたが…………まだまだ青い」


蜘蛛男はそう言うと口から糸を放ち、ヒノカさんを絡め取ってしまった。


「きゃっ…………!」

「姉様っっ!!」

「ヒノカさん!!」

「私はこれで失礼します。追ってくるのは構いませんが魔物のことも気にした方がよろしいかと。

ちなみに私を追った場合、魔物があの国に到達する前に止めることは不可能になりますので」


そう平然と言い放ち、蜘蛛男はヒノカさんを担いで逃走した。急いで追おうとするナハトさんを制止する。


「待てっ!!」

「ナハトさん待って…………俺が行く」

「宝笑?」

「今の宝笑さんが行って何が出来るんですかっ!?

早くしないと姉様が…………!!」

「魔物もいるんすよ!ど、どうしよう!?」


「確かに俺の覚悟なんて中途半端で、すぐ簡単に折れるような物だけど…………でも、あいつは許せない。

許せないと思うし、戦わなきゃいけないと思う……!」


真っ直ぐにナハトさんの目を見て告げると、険しい焦りの表情が少しだけ和らぐ。ブレイズさんも察してくれたのかナハトさん達にこう提案した。


「分かりました。ヒノカさんは宝笑さんに任せて、僕達は魔物を何とかしましょう。

あの男の言葉が正しければ、今向かえばまだ間に合う筈です。急がないと大変なことになる!」

「………………………………………………」

「ナハトさん、宝笑なら大丈夫。行きましょう」

「ナハトさん!宝笑さんを信じましょう!」

「……………………分かりました。宝笑さん、必ず、必ず姉様を取り戻してきてください……頼みましたよ」


俺は頷き、バイクに乗ると勢いよく走り出した。


「私達も行きましょう。ブレイズさん、あのドラゴンって私達も乗れるかしら」

「はい!しっかり掴まっていてください!」

「…………宝笑さん、頼みましたよ」


ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー


バイクで山林を激走しながら蜘蛛男を追跡する。


『マッジーン!』


「魔人転生」


変身準備を完了し、バジュラブレードをバイク後部にマウントしてアクセルを全開にする。

生成、変形していく装甲にバイクが覆われていくのと同時に首から下が一瞬で変わり、魔力が実体化したローブが腰に出現。魔力によって複製された肋骨が体表に浮かび上がって装甲になり、全身に淡く光るラインが血管のように走っていく。

最後に頭部が異形化して俺は魔修羅に変わった。



『この世界の地球は絶えず魔力を生み出している。何気ないこの空気中、大気中にも微量ながら魔力が含まれているの。

貴方ならバイクを利用すれば全身で大量に取り込むことが出来るわ。今度バイクに乗って変身する機会があったらやってみるといいんじゃないかしら』



ノバリスへの道中でフィーニアスさんから受けたアドバイスを思い出し、立ち上がって両手を大きく広げた。

全身で風を受けて魔力を取り込み、余剰エネルギーがローブから排出されて虹色の光が軌跡を描く。目と全身のラインがまばゆく発光し、体に力が漲っていく。

更に加速して木々の間を抜けていき、まもなく逃げていた蜘蛛男を見つけて前に回り込んだ。


「…………………………………………」

「なるほど、報告にはありましたか凄まじいスピードだ。これほど早く追いつかれるとは思いませんでした」

「その人を放せ。俺が相手だ」

「貴方は出来ることなら仲間に引き入れたかったのですが致し方ありません。

邪魔者には死あるのみ。それが魔王軍の掟ですので、貴方も排除させてもらいましょう」


蜘蛛男が合図した瞬間どこからともなくジャマーが現れ、じりじりと近寄ってくる。



「ーーーーーーーいくぞっ!」



突き出された短剣をジャンプで躱し、空中で身を翻して着地すると次々襲い掛かってくるジャマーを徒手空拳でなぎ倒していく。パンチやキックを受けたジャマー達は大袈裟なほど派手に飛んでいき、特徴的な黒い血……と思われるものを撒き散らす。


「ふむ…………この荷物は邪魔か」

「!」


蜘蛛男は担いでいたヒノカさんをこっちに投げると口から糸を吐き、ワイヤー移動のように再び逃走した。ヒノカさんを受け止めて糸を引きちぎるとマウントしていたバジュラブレードを引き抜く。


「宝笑さん!」

「大丈夫!ちょっと待ってて!」


後を追って辿り着いたのは切り立った崖の上。

相対して剣を構えようとした時、蜘蛛男がおもむろに語り出した。


「…………私は人間が嫌いです」

「……何の話だよ」

「差別され、虐げられるもののことなど差別する側の人間には分からないでしょうね。

人間(自分)とは違う〟 たったそれだけの理由で何の罪もない他種族が迫害され、偏見や暴力に曝される。そしてそんな許しがたい理不尽がこの世界にはまかり通っている。おかしいとは思いませんか?」

「…………でも、だからって人間を襲うのは違うだろ」

「私も元は人間でした。愛する女性は蟲人種(セクトール)蜘蛛人属(アラクネア)、つつましくも幸せに生活し、間違いのない確かな愛がそこにありました…………しかしある日、私は彼女と共に迫害された挙げ句、愛する女性を殺されました。

理由は魔王軍の活動に恐れをなした人間共の被害妄想……彼女は魔王軍はおろか人に危害など考えもつかない優しい人だったにもかかわらず、亜人種という理由だけでいっしょくたにして殺されたんです。

私も非人間と罵られて殺されそうになったところを魔王様に助けられ、このベルトと魔我魂を与えられた。彼女と同じ、蜘蛛人属(アラクネア)の魔我魂を。

まさに神からの贈り物、これを以て彼女の復讐と正義を為せと言われたようでしたよ」

「…………確かにそれは悲しいよ、俺にも似た経験があるから気持ちは分かる。でも、やっぱりあんたのやり方が正しいとは思えない。

あんたのやり方じゃ、あんたと同じ悲しみを持つ人間を増やすだけだ」

「そうですか、なら止めてみなさい」


会話が終わった瞬間、斬りかかる。しかし蜘蛛男は初撃を事も無げに躱し、次々繰り出す斬撃やそこに織り交ぜたパンチ、キックも宙を舞うかのようなトリッキーかつアクロバティックな動きに全て躱されてしまう。


「魔修羅、本当は貴方にも人間を殺す幸せが分かるんじゃないですか?

ちょうど昨日、殺したばかりでしょう?」

「っ…………」


動きが固まった隙を突かれて蹴り飛ばされる。

すぐさま立て直して斬撃波を放つが、これも捻りを加えたバク宙で回避されてしまう。


「先ほどジャマー達を倒した一連の流れ、実に見事でした。敵ながら惚れ惚れしましたよ。

その力で私も殺してみますか?このベルトを使っている以上、私は人間には戻れません…………もっとも、戻れたところで戻る気などさらさらありませんが」

「………………………………」

「何を戸惑っているのですか。一人殺すも二人殺すも同じことでしょう、貴方は既に他者の命を手に掛けている。いわば私と同類だ」

「……………………………………そう、かもな……」


俺の肯定の言葉が予想外だったのか、蜘蛛男は怪訝そうに首を傾げる。


「あんたの言う通り、確かに俺は人の命を奪った……

人間だけじゃない、獣人の命も、魔物の命もそうだ。人を守るためだとしてもこれが正しいことなのか今の俺じゃ分からない……でも、俺が戦うことで誰かを救えるなら、誰かの笑顔や命を守れるなら、俺はその罪を背負う。

俺は俺の中にある、誰かを助けたいって声を信じる」


蜘蛛男は俺の言葉に呆れたように額を掻く。


「青い、実に青い。若者らしいと言えばそれまでですが、そのような甘い考えがどこまで通用すると……」

「青くても甘くてもいい。俺は、それでいい。

あんたから言わせりゃ考えも何も甘いんだろうけど……それでも俺は、このままでいるよ」

「…………分かりました。では貴方のその青い思考、ここで打ち砕いて差し上げましょう」


手をクネクネと奇妙に動かしながら向かってきた蜘蛛男に斬撃波を放つ。さっきと同様躱されるが、躱して着地する瞬間を狙ってバジュラブレードを思いっきり投げつけた。

猛スピードですっ飛んできた予想外の攻撃に回避ではなく弾き飛ばすことを選択した蜘蛛男はバジュラブレードを明後日の方に弾く。その隙に相手との距離を一気に詰め、固く握った拳を蜘蛛男に叩き込んだ。

辛うじて受け身を取るが、がら空きになっていたところに渾身のストレートを叩き込まれたのは相当キいたようでフラついて片膝をつく。


「………………素晴らしい、この打撃力……!!

貴方の理解が得られないのが、残念でならないっ!」

「っ…………!」


蜘蛛男は後ろに跳んで崖から落ちる…………しかし、糸と高い身体能力を駆使してそのまま無傷で降りていってしまった。

後を追って飛び降り、落下の勢いを乗せた剣が大地を割るが回避されて背後を取られてしまう。蜘蛛男が吐いた糸が腕や足を縛り、身動きを封じられてしまった。


「くそっ!…………切れねぇ……!」

「無駄ですよ、蜘蛛の糸は強靭でしなやか、鉛筆ほどの太さがあれば大型の魔獣さえ繋ぎ止める…………いくら魔修羅といえどそう易々と千切れるものではない」


「だったら…………イグニスゥっっ!!」


叫んだ途端全身から炎が噴き出し、火だるまになりながら両腕両足を縛っていた糸を燃やし尽くして脱出する。

当然俺自身にもダメージがあり、体からシュウシュウと白い煙が上がっている。


「なんという強引な…………暴発前提とはいえイグニスであれだけの炎を出すとは……!」

「熱っっつぅ!!ちっくしょどうだ見たか熱っついなもう!」

『バーニングドラゴン!』


魔我魂を起動してバジュラブレードに装填、バーニング魔修羅へとチェンジする。


『バーンアップ!ファイヤーオブブレイブ!

         バーニングドラゴン!!』


再び蜘蛛男が放った糸を焼き斬りながら迫る。

逃げようとする蜘蛛男の糸を斬撃波で切断し、逃走を阻止。炎を纏った連続斬りで斬り裂いてふき飛ばすとバジュラブレードのグリップを引いて地面に突き立てる。


「!? なっ…………!?」


蜘蛛男の足下から勢いよく火柱が噴き出し、空高く打ち上げる。飛来したバーニングドラゴンに乗ってはるか上空へと飛んでいき、蜘蛛男を大きく超えたところで背から飛び下りた。

バーニングドラゴンの爆炎を浴びて加速し、右足を突き出す。


「なるほどやられました……!この空中、糸を使えない状況では私が圧倒的に不利…………!!」



『バーニングドラゴン!デモニックブレイク!!』



「残念無念っっ…………!!!!」


蜘蛛男が不利、そして敗北を悟った瞬間、爆炎キックが炸裂した。凄まじい速さでさっきまで戦っていた崖に叩きつけ、無重力のような浮遊感を感じながら大きく宙返りして着地する。

さながら磔のようになった蜘蛛男は最後の力を振り絞るように此方を見る。


「これでやっと、彼女のところに行ける……人間を殺し足りないのは、残念ではありますが…………ふふふ」


変身に伴って超人的に向上した聴力で捉えたのはそんな言葉だった。がくりと項垂れた蜘蛛男が再び顔を上げることは無く、燃えて灰になるように散った。


「……………………………………………………………………」


手を合わせ冥福を祈る。

俺はこれでいいんだ。誰かの命を奪って平然と出来るような人間にはなっちゃいけない。


「宝笑さーん!!」

「! みんなっ!」

「宝笑さん、大丈夫でしたか?」

「大丈夫です!魔物は?」

「なんとか追い付いて対処出来ました。百どころか二百近くいたので苦労しましたけど、皆さんのおかげでなんとか……」

「そう言いつつブレイズさんが一番活躍してたっす!すごかったんすよ!」

「八面六臂の大活躍でしたよ。半分以上ブレイズさんが倒していましたし」

「まぁまぁ、流石は聖剣士ですね~」

「あはは……ところでさっきの行動隊長は?」

「倒しました。もう大丈夫です」

「え、だ、大丈夫っすか…………?」

「…………無理、してない?」

「ありがとう、もう大丈夫。俺は俺の中にある『誰かを助けたい』って声を信じるよ」

「……そう。大丈夫みたいね」


フィーニアスさんは微笑むと(きびす)を返した。


「それじゃあ帰りましょうか。国王様にも報告しなきゃいけませんし」

「姉様っ、本当にご無事で何よりです……!姉様のお顔を見るまでは生きた心地がしませんでした…………」

「ごめんねナハト。宝笑さんのおかげで私は傷一つないわ。宝笑さん、本当にお疲れ様でした。ありがとうございます」

「ヒノカさんが無事なら良かったです。何かあったらナハトさんに合わせる顔がないですからね」

「…………宝笑さん、ありがとうございます」


ナハトさんはペコリと頭を下げる。


(あぁ、やっぱりこれで良かった)


そうして俺達は山を下りたのだった。


ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー


「……………………ありがとう。まさか魔王軍の策略だったとはな……恐ろしい連中だ」


俺達からの報告を受けた国王様はため息をついて天を仰ぐ。


「……何はともあれ、君達のおかげで再びこの国の危機は回避された。重ねて礼を言う。君達の活動は大々的に報じ、この国での地位の向上を約束しよう」

「あ、ありがとうございますっ!」

「それと、望むものは何か決まったかな?

私に用意出来るものであれば、何でも用意させてもらおう」

「あっ、そういえば…………ん~~なんだろうなぁ、見返りとか考えてなかったな……」

「正直頭からすっぽ抜けてたっすね。自分もわざわざ国王様に用意していただくほどのものは…………」

「私達も……」

「はい、特には」

「僕も」

「私もありません」


俺達の返事に「随分と無欲な英雄達だ」と笑いながら呟いた王様は拍手するように手を二回叩く。

すると恐らく待機していたのであろう団長さんが何かを持って現れ、それを王様に献上した。なんだろうと思っていると王様は俺達の前までやって来て、献上された何かを渡してくれる。


「えっと……国王陛下、これは?」

「国に多大な功績を残した者、著しい活躍をした者に贈られるノバリス最高位の勲章だ。君達に相応しいのはこれだろうと思ってね」

「ちなみに、授章出来るのはこの国の人間であっても数年に一人いるかいないかだ。とても名誉あるものだから大切にしてほしい」


団長さんの注釈にビビりまくりながらも受け取った勲章をまじまじ見る。太陽を象った装飾に炎のレリーフがはめ込まれ、赤い宝石が一つ輝いている。勲章というよりは最早芸術作品と言った方がしっくりくるような代物だ。


「まぁ、綺麗…………」

「国王様、その、失礼ですが本当に私達が戴いてもよろしいのですか?」

「もちろん。君達のような人間に持ってもらうためにある物だ、遠慮せずに受け取ってほしい。

その勲章があれば君達が信頼出来る人物だという証明にもなる」


国王様はそう言って満足そうに笑みを浮かべた。


「今回は本当にありがとう、重ねて礼を言わせてほしい。君達はこの国の救世主だ」


その言葉を聞いた時、俺はやっと自分の使命を果たせたような気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やるねぇあの子、旦那の見立て通りかそれ以上だ」

「えぇ、よくやってくれるわ。でもまだよ…………もっともっと頑張ってもらわなきゃ……頼んだわよ、宝笑くん」



閲覧ありがとうございました。

毎日毎日暑いので体調には気をつけてください。

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