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メンズエステ  作者: みぃ
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1 飲み会

 仕事中、私は目を閉じている。目を閉じるだけの事で、仕事がすごく楽になる。他の女の子達はどうしているのか知らないけど、目蓋を閉じている子は多いと思う。

 何も見えない方がやりやすい。肌に感じる感覚はすごく強く、匂いも、重みも、熱も、激しく伝わってくる。音も聞こえる。声も。優しい愛情表現、号令、囁き、呻き。会話をしたがる人もいる。

「こんなふうにされたことある?」とか。

「いつもこんなになるの?」とか。


 相手が望む通りの相槌を打つ。事実など誰も求めていないひと時だから。

「目を開けて、見て」と言われるまでは、無意識に目を閉じてしまっている。



 顔を晒すのを嫌がる女の子達が多いこの業界には珍しく、送別会が開かれたことがあった。お店が入っている雑居ビルからすぐの焼き鳥屋さんで。そのとき隣に座った女の子が甘いアルコールの香りのするヒソヒソ声で教えてくれた。

「コツがあるんだ」と。


 彼女は当時お店で1番人気のある子だった。整った彫りの深い目鼻立ちの可愛らしい子だ。けれど、初めて会った日の第一印象からは、それほど可愛らしくは見えなかった。仕事終わりですごく疲れているように見えた。

 飲み会の最初に遅刻した彼女は暗い影でも引き摺るようにして現れて、何かどんよりした憑物でもついているかのような濃い負のオーラを放ち、近寄り難さを極めていた。

 隣のグループとの境界線が座布団とか背中と背中との隙間とかでできている狭い通り道をかいくぐり、いかにも疲れている人らしく自分の体を投げ出すようにして私の隣にドサっと座ってきたので、横目でチラチラ窺っていると、

「今日も、1日に休憩も無しで5人も6人もお客さんにつかされたんだぁ」

と話しかけてきた。

 私は、咄嗟に自分に話しかけられているとは信じられず、ちょっと周りを見回してしまった。間を開けて、

「あっ、へぇ、それは…大変だったね…」

と、慌てて曖昧な返事しかできなかった。私自身、飲み会はまだ人生初くらいの経験で、その場にいるだけでドキドキしていていっぱいいっぱいだったのだ。


「ビールの人~?」

「はーい」

「カンパリオレンジ誰~?」

「はーい」

「この白いのはなんだ?カルピス?頼んだのは?」

「誰?」

「誰?」

「え、誰?」

「え…誰も頼んでない?」

「カルピスじゃないんじゃない?」

「誰だよ〜」

「ちょっと飲んでみれば?」

「どれどれ…」

「やっぱりカルピスだよ」

「そうかなぁ?薄〜いサワーかも知れないよ?」

「もう一口飲んでみてよ」

「カルピスサワーだ、これ」

「もうこれみんなで飲もう」

「誰のだよ!これ!」

と一悶着あり、トイレから帰ってきた女の子のカクテルだった事が判明した。グラスはみんなに回し飲みされて半分以上減ってしまっていた。

「結局何ですか?これ、カルピスですか?」

「見た感じそうじゃない?」

「え、頼んだんですよね?」

「何頼んだか忘れちゃった」

ようやく1杯目の飲み物がそれぞれ手元に届き、

「かんぱーい」

と誰かが叫んだ。

 そこからは、隣の女の子はどんどんヨギーパインやラムコークとかカルーアミルクなどの甘いお酒を追加して美味しそうにガンガン呑み、次第に陽気になって顔も明るくなってきた。すぐにヘラヘラしだした。

(ああ、お酒が好きなんだな、良かったな…)

と私は思った。

ニコニコ笑っているところを見たら本当に整った目鼻立ちの見惚れるような可愛いらしい子だったし、ぐいぐいジョッキを干す様は自信に満ちて(慣れたもの)というふうに見えたので、安心して、良かった良かった、と思っていた。


 壁際の人から自己紹介していくことになり、みんなそれぞれ源氏名と、お店に入ってから何日目かと、趣味とかを一言ずつ順番に言っていくような流れができ、私は自分がなんて言おうか考えるのに必死で、他の人の自己紹介を全然聞いていなかった。学校でもどこでもいつでも私は要領が悪い。

(あ、しまった…)と思った時にはもうとっくに手遅れなのだ。

 7.8人いる女の子のうち最初の4人くらいは聞き逃してしまった。隣の子がココちゃんという源氏名だと言うことだけはなんとか聴き逃さないで覚えた。誰かが、

「あの子が指名率No. 1の…」

と言っているのが聞こえた。


 次は自分の番だった。

「源氏名はモコです。先週入店しました。趣味は…読書と映画鑑賞です」

パチパチ拍手をしてもらい、自分の番が終わってホッとしていると、ゆっくり一息ついているうちに全員の自己紹介がいつの間にか終わってしまっていた。またルール無しのお喋り大会が始まった。


 どのくらい飲んだらどんな酔い方をするのかまだ自分自身の限界を知らなくて、チョビチョビとお酒に口をつけ、他の人たちが賑やかに話を弾ませている方向へ顔を向けてなんとなく参加しているふりをしてニコニコしていた。それでも人見知りなりに楽しんではいた。なにもこの場で友達が欲しいわけではない。ただこの飲み会という大人にしか認められない空間に自分が身を浸しているということだけでなんだか楽しく、満足で、ワクワクして心地良く、

(自分もこうして大人の仲間入りを果たしていくんだぁ…)と広い世界の始まりにウットリ酔いしれているだけでよかった。友達ができたとて、どうせ明日にはまた個人個人の仕事に戻るんだし…

 そんなことを考えていると、隣のココちゃんがふいにもたれかかってきた。


 見ていないうちにどんな量を飲んでいたのか…打ち上げられた海の軟体動物みたいにグデングデンに体から力が抜けていた。ココちゃんの手が払い落としたジョッキに私は腰骨を叩かれたような気もしたけれど、それよりも、ゆっくりずり落ちて倒れていくココちゃんをスローモーションで見ていたのにもかかわらず、支えようと手も出せなかったどころか、驚きで逆にちょっと身を引いてしまった自分が情けなく、周囲から女の子達みんなが駆け寄ってきて、後頭部からぶっ倒れたココちゃんを取り巻いて座布団を頭の下に敷いたりおしぼりを当てたりするのを、呆然と遠い目で眺めていた。

 せめて後からでも何か為になる事を私もしてあげたかったが、ボヤボヤして何も思いつかないでいるうちに他の女の子達が邪魔そうに私とココちゃんの隙間に入ってきて、もっと冷たいおしぼりを当てたり、うちわであおいだり、みんなで持ち上げたり引きずったりして、壁際の他のお客さんのいない場所に移動させたりしだし、私にできた事は、みんなの邪魔にならない場所に遠ざかってただ見ていることだけだった。

「この子、あんまりお酒強くなかったんだね」

と優しい声で呟いたお姉さんの名前も私は知らなかった。

「可哀想に…」

と自分の子どもにするみたいな優しい手つきで額に掌を当て、前髪を払ってやり、冷たいおしぼりを当ててやっているお姉さん。この人の名前もまだ覚えていない。この場の私以外のみんなが立派で素敵なちゃんとした人達に見え、でもきっとこの人たちの方が普通なんだ、みんなが普通にできることを普通にやれない自分がダメ人間なんだ、と自己嫌悪に陥り始めた。

「どうしよう、誰かこの子の住所知らないよね?」

「お店に運ぶ?一晩寝たら起きて、朝には自分で帰れるよ、多分」

「でもあの店長が来たらどうする?餌食にされちゃうよ…」

「放って帰れないな…」

「誰か1人くらいそばについててあげないと…」

みんな困り顔で首を横に振り始めた。

「私はダメ、帰らないと…」

「私も子どもが…」

「親に怒られる…」

挽回のチャンスはここしかないと、私は手を挙げた。

「はい、私残れます」

みんなが振り向いて初めて私に注目する中、

「大丈夫?」

と唯一知っている先輩の佐藤さんが聞いてきた。

「はい、夏休み中なんで。明日も出勤するし。大丈夫です」

佐藤さんは私をちょっと不安げに見つめてから、でも他にどうしようもないか…と頭の中で納得したように、小さく頷き、みんなを見回して、

「良かった、助かった。モコちゃんが居残ってくれるって。これで一安心」と言った。


 佐藤さんの事だけは知っていた。というのは私に面接をしてくれたのがこの人だったからだ。

 時間をかけ何枚も書き直して清書した履歴書と職務経歴書をクリアファイルに入れて持参し、リクルートスーツに身を包んで面接に望んだ私に、

「面接の場所、ここで合ってる?」

と心配してくれた人だ。

「普通はそんな素晴らしいちゃんとした格好でこんな所に面接受けに来る子いないんだよ…

 本当に…ここで合ってる?面接…

個人情報とかも…できるだけ伏せてみんな面接に来るんだよ、こういう所には…」

そして履歴書と職務経歴書をトントンと机の上で立てて角を揃わせ、返してきた。

「はい、全部鞄にしまって。今度からは身分を証明するものを持たずにおいでよ?」

「えっ?…そうなんですか…」

私は書類を鞄に戻した。佐藤さんからは初めから教わることばかりだった。

「私も1週間前に入ってきたばっかりなんだ、実は。1週間しか違わないんだよ」

と言って、自己紹介してくれた。

「佐藤です。よろしく」

「あ、よろしくお願いします」

「年は?」

「あ、22歳です」

「えっ、1個しか違わないんだ、私は23」

ふっくらした赤ちゃんのような頬っぺたの見た目からは23歳と言われても全く違和感はないが、佐藤さんの落ち着きぶりと堂々と当然のことのように物事を仕切って動かしていく采配振りはどう見ても20代には見えなかった。まるでこの店を任されている重鎮か店長かのように振る舞っていたし、その通りに私の目には映っていた。だから43歳と言われてもそんなに不思議には思わなかったと思う。皺一つないなぁ若いなぁと思ったくらいだろう。彼女自身がまだ一週間前に入ったばかりだなんて信じられなかった。

「まだここの店長の顔も見た事ないんだ、私。」

と佐藤さん。

「私の面接をしてくれた子も、ほんのちょっと前に入ったばっかりのアルバイトの女の子だったから。ここの店長、滅茶苦茶だよ?経営も管理も。…それで、何でここで働きたいと思ったの?」

「あー…えっと、マッサージは経験者なので…」

「どんなマッサージ?」

「あー…痩身の…あの、ダイエットの…痩せさせる…」

私は両手を前に出して空中で揉み揉みしたり、それから雑巾を絞るような引き締める動きをして見せたりして、足りない言葉の足しにした。

「ああ、だったら思ってるのと絶対違うよ、この店は。

だって…その、前の働いてたところって、女性のお客さんがメインだったんでしょ?女性向けだったんでしょ?」

「そうですね、はい」

「じゃあ、やっぱり来るところを間違えてる。勘違いしてるよ。ここはそう言うお店じゃないから。男性のお客さんしか来ない店だから。」

佐藤さんは頷き、辺りはシンとした。

 さっきから周りで聞き耳を立て、お化粧直しやひそひそ話などをしながらこちらの成り行きをチラチラ窺っている子達が何人かいたが、みんなが今や動きを止めて一斉にこちらを向いてジッと見ていた。私は場違いなところに面接を受けに来て落とされかけている、その時まさに一番重大な合否が決定される瞬間だった。背中にジワッと汗をかいてきた。

「いや、でも、私ここで働けます。マッサージの経験者なので…」

「うん、むしろこっちとしてはありがたいんだけどね」

佐藤さんが若いツルンとした顔に苦笑を浮かべた。

「ありがたすぎるんだけど、でも貴女が思ってるのと違うから、そっちがガッカリするよって、言ってあげてる…」

佐藤さんはそれからも暫く、

 貴女は勘違いしてここに来ているのだ、大丈夫か?本当に大丈夫か?ここで働きたいか?本当に?

と念を押して尋ねてくれた。この店で働きたいという考えを改めさせたい、その方が為になるよ、と一生懸命説得してくれているみたいだった。


 正直、私は商店街やコンビニの出入り口の脇などに置いてあるフリーの普通の求人情報誌を見て普通に面接を受けに来たので、普通の職場だと思い込んでいた。

 実は1番初めの出だしは、本当にちょっと勘違いして面接を受けに行ったことから全ては始まったのだ。

 そう言われればやけに時給が良いなぁとは家で求人広告を見ていた時から感じていた。

(まぁ裏にカラクリがあるにせよどうせ一歩踏み込んで見なければわからない話だし、落とされるかも知れないんだから…)

と、とりあえず面接しなくては何も分からないままなので、電話し予約して来てみたのだ。

〝経験者歓迎、未経験でも安心の研修制度あり″

と求人広告には謳われていた。〝エステ、マッサージ″と職業種には載っていた。

 なにやらトロリとしたオイルで背中をマッサージして貰いながら、重ねた両手の上に頰と顎を乗せ、蝋燭の明かりの下、ウットリと寛いだ表情のオレンジ色に照らし出された外国人の美女の写真も載っていた。前に働いていたエステのお店でもこんな風な外国人の美人のお姉さんが気持ち良さそうに施術を受けている写真が使われていた。それで私は大した違和感もなく、

(自分も一応は経験者だ!高時給で働ける!)

と求人に応募したのだ。

 確かに、面接を受けに来る前に考えていたのとは全く違う種類のマッサージのお店らしい。それだったら私は勘違いして来ているのだ。


 前に働いていた所は大手の名の通ったエステティックサロンで、そこで私は正社員として働いていた。来るお客さんも待ち受けるスタッフも全員が女性、男性は絶対禁制の店だった。

 ピンク色の縁取りのドアの中はむせ返るような女の園。女子校とか女風呂とか女子更衣室と同じくらい、女性が半裸でうろつき回る。痩せるために訪れる人が大半なので、お腹や太腿やお尻のお肉を複数人がかりで揉みまくる。寄ってたかってガシガシ、ゴリゴリ、お客さんは痛くてヒーヒー、それがあっちでもこっちでも。ベットを並べて痩せたい側も痩せさせたい側も汗みずくになってみんなでワッショイワッショイやっている。紙パンツは履いてもらっているし胸にタオルも掛けてもらうけれど、激しいマッサージでズレまくるし、捲れ上がるし、どうせそうなるのが分かっているからと面倒臭がる人さえ出てくるし、男の人が見たら卒倒してしまうような現場だった。

 そこを辞めたのは65歳まで働けるような生易しい環境では無く、若いうちしか持ち堪えられなそうな激しすぎる肉体労働だったのと、ノルマが自分にはキツ過ぎ、どう頑張っても向いていないなぁと感じたからだった。

 少なくとも、今度のお店には〝ノルマ無し″と書いてあった。それにアルバイトでなら、過酷過ぎる労働条件からも外れ、自分でペース配分してやっていける、と思ったのだ。

〝学生さん多数在籍″〝シフト自由!″とも書いてあった。私には完璧すぎる理想の職場に見えた。


「ここのお客さんは男の人ばっかりだよ?男の人をマッサージするんだよ?分かってる?本当に。大丈夫かなぁ?分かってんのかなぁ?」

と佐藤さんには再三注意を受け、確認された。

 ビクビクし過ぎていたり笑顔が薄っぺらくヘラヘラしているから、私は軽率と見なされやすく、よく頼り無い印象を相手に与えてしまう。その通り、なんにも使い物にならない場合もある。沢山。だけど、結構頑張れる事もあるのだ。とにかくやらせて貰わなければ上手くいくかダメか、自分にだって分からない。

 ここまで来たのだし、何か仕事はしなければならないのだし、私は一生懸命になって食い下がった。

「とにかく一度やらせて下さい」

そしてそう言い始めるとだんだん意地のように必死になって来て、頼み込むようにして

「落とさないでください」

と粘った。

佐藤さんは、

「ここはあんまり真面目な子が来るところでは無い…」

などというような事を何遍も呟いていたが、私は私で、薄々ちょっと水商売とか風俗寄りな所なのかも知れないなぁとは面接中に勘付いてきながらも、そこでさえ落とされた日にはもう他に何処にも行くところが無いではないかと、逆の焦りを感じ始めたのだ。

 自分の経済状況を少し大げさに苦しそうに脚色して話し、過去にクラブで働いたことがあるとかいうほんのちょっとしかない事も大げさに引き伸ばし、親も水商売をしていたとかいう話まで持ち出すと、

「分かった分かった、もう。合格」

と押し切り負けてくれ、その場ですぐ採用を通知してくれた。

 佐藤さんは情に厚く面倒見が良く、私だけでなく他のみんなにとってもお姉さんみたいな存在だった。飲み会でも自然に幹事みたいな役を果たしていた。



 ココちゃんが眠り姫みたいに眠ってしまってからはすぐ、飲み会はお開きになり、みんなでココちゃんに一生懸命、

「ちょっとだけ起きて!」

「ちょっとだけ歩いて!」

と励まして、細い路地一本を挟んだだけの向かいのビルまでなんとか歩いてもらった。そこが私達のお店が入っている雑居ビルだった。信長書店の裏口の斜め向かいの建物だ。

「よしよしよし、なんとか行けそう…」

「良かった、お店のそばで」

「ほらほら、もう少しだけ」

「ああっ、ダメダメ、まだエレベーターの中だよー」

「ああああ、ちょっとみんな支えて支えてー」

「あと最後の一段だけ、頑張って」

「よいしょー!」

などとキャーキャー大騒ぎしながらお店に辿り着いた。

 鍵はアルバイトのみんなでいつも管理していた。

 在籍が長くなってきたらいつの日か私も鍵の管理もさせて貰えるようになるのかなぁなんて思っていたら、採用されてから3日も経たないうちに、店に入ろうとしてドアが開かなかったことがあり、佐藤さんに電話したらすぐ、隠し場所と暗証番号を教えてもらえたので、

(このバイト先ほんとに大丈夫かな)と内心不安になった。


 7つある各部屋の全てにベッドがあるからどこででも眠ることはできるのだけれど、ココちゃんが滑り落ちるかも知れない。そこで一つだけある畳の個室にあちこちの部屋から枕やバスタオルを集めてきて、即席の2人分の寝床を作り、何があっても動じずに眠り続けているココちゃんをみんなで奥の方へ寝かせた。

(じゃあ自分はこっちか…)

と思って自分の寝る手前側の布団を見下ろしていると、なんだか急に心細く、寂しくなってきた。眠り込んでしまっている初対面の女の子と二人だけでそこで一晩を過ごすことにジワジワと今更ながら現実味が湧いてきて、自分で立候補しておきながらも、一夜が途方もなく長く思われてきた。


 店長の顔はその時まだ見たことがなかった私に、

「大丈夫だよ、へなちょこのほっそい男だから、」

「ヘラヘラしてるだけだし、2人いたら何もしてこないよ」

「そもそも多分来ないよ、こんな時間に用もなく…」

などと言ってくれた。でもどこかみんなが面白がって、ちょっとずつ帰り際に、

「あ、でも、あのカーテンの影には気を付けてね…たまーに出るから…」

とか

「夜中に非常階段の方から足音が聞こえてきたら…南無阿弥陀仏を唱えて。…南無阿弥陀仏、続きって言える?」

など怪談めいた冗談を言い残して、ぞろぞろ帰っていってしまった。

 閉まっていくエレベーターにぎゅう詰めになった騒がしい一団に手を振り、扉が閉じてからもひとしきり、

「狭い狭い、」

「痛い」

「キャア」

「足踏んでる踏んでる、おい!こら!」

とワイワイ騒ぐ賑やかな声が聞こえていたけれど、それも下の方に降りて行って聞こえなくなってしまった。


 怖いけれど、受付と廊下の電気を消しながら店の奥へと戻った。間接照明の柔らかい光に照らされて、ココちゃんは相変わらずスヤスヤ眠り続けていた。とうとう2人だけになってしまった。よく見ると、ココちゃんのお菓子のグミみたいなプクッとした赤い唇から濡れたような光が溢れている。涎を溢しているようだ。私は笑いを堪えてティシュを探し、柔らかな唇に当ててそっと拭き取ってあげた。

 この子は本当に綺麗な造りをしているなぁとつくづくと見入りながら思った。

 現代のディズニープリンセスみたいだ。蝶々の翅の鱗粉みたいな細かく輝くお化粧が落ちかけた大きな瞼。真っ黒で長くふさふさした濃い睫毛。つるりとした柔らかそうな綺麗な頬。

 私には嫌なニキビが顔のあちこちに沢山あって、一つ治ったと思ったらすぐ隣にまたできかけているのがいつも現れ、ちゃんと全部なくなってつるんとした頬っぺたに一回もなったことが無かった。ココちゃんみたいなこんな綺麗な健康な肌が羨ましかった。

 息を潜めジッと見つめていると、時々、睫毛が細かく震えている。瞼の下で眼がゆらゆら動いていた。何か夢を見ているみたいだ。

ソロリと手を伸ばし髪に触れてみると、しっとりと纏まっていた一房がサラサラと私の指の間でほどけ、手から落ちるとまた緩い一房の纏まりに戻った。清らかな、お化粧をした子どもみたいな寝顔だった。

 静かに胸に迫ってくるものがある。美しさとか。若さとか。失われていくまでの過程にあるこの貴重なひと時に触れ、静謐な気分に浸りかけていた。

 ポーン!と音がして、飛び上がりそうなほど驚いた。

エレベーターがこの階で停まったのだ。

(店長が来たのか!?)

と思って出迎えに行きたいが怖くて動けず、ただ首を捻ってそちらの闇を凝視した。

 廊下に明かりが灯り、光の中に姿を現したのは佐藤さんだった。私の顔を見て吹き出し、ヒーヒーお腹を押さえて笑い転げだした。コンビニの袋をかざし、

「お水とか歯ブラシとか買ってきた、あははははっ」

と言った。

「ごめんね、ふーっ、あははははっ

モコちゃん1人に全部押し付けて…はははっ…もう、そんな顔しないで、笑いが止まらない!

 私も終電まであとちょっとしか居られないけど、それまではここにいるから」

コンビニ袋の中からはプリンやパンも出てきて、お金を払おうとすると、

「いらないいらない、差し入れだから。明日2人で朝ご飯にして」

と言ってくれた。

ちょっとココちゃんの髪を撫で、

「みんな家族持ちとか同棲中とかだけど、モコちゃん達2人だけみたいだよ、一人暮らしなの」

と教えてくれた。

「あ、私一人暮らしじゃないんですよ。同棲してます」

と私は言った。

「え、そうだったん?えええ?でも帰らなくていいの?」

「はい。彼、居酒屋で始発まで働いててどうせ帰ってくるの朝の7時過ぎとか8時頃とかなんです」

「じゃあそれまでに帰れば良いの?」

「あー…まぁ…でも別にそれまでに帰らなくても大丈夫かなぁ、いつも学校がある時とかは彼が帰ってくる前に私は家を出てるので…」

「それじゃあ行き違いで寂しいね…」

「んん…」そうでもないかなという顔をしている私を見て、佐藤さんは

「そうでもない?」と笑って当ててきた。

「なに?うまく行ってないの?倦怠期?もう長いの?」

「長いですかね…地元にいる時からです」

「別れたいの?」

「うーん…」

別れたいかと言われると、別にそれも、そうでもなかった。特に別れようとも思っていない…ただもう好きかどうかよりも惰性で、同じ家の同じベッドを二交代制で使っているだけ、というような関係性だった。

 同じ時間帯に同じ家にいること自体が少なく、一緒に寝ることもなく、お互いが自分の仕事に学校に忙しくて、顔を合わせることがほとんど無い。それが私には心地よい暮らしになってきていた。たまに寂しいなぁと思う時もあるけれど、喧嘩してすごく嫌な思いをし合ったり傷付けあったりするよりはだいぶマシだ。時々顔を合わせた時に、

『休みの日を合わせて普通のデートをしようよ』

と誘われたけど、過去何度かアルバイトの日を調整してこちらが相手の休みに合わせて休みを取った日にドタキャンされ、ガックリしたし喧嘩にもなったし、もう今後デートの約束をする気がこちらからは失せてしまっていた。

 そもそもデートして楽しいと思ったこと自体、振り返ってみるとあまり無かったような気がする。初めて付き合った人だったので、デートは初めのうちは緊張するものでしかなく、緊張が溶けると今度は楽しむ間もなく喧嘩ばかりするようになってしまっていた。もともとそんなに大して好きになったことが一度でもあったかどうかさえ定かではなくなってきていた。

(…それだったら簡単に、独り暮らしだという事で通しておけば良かったかな、わざわざ否定してまで彼氏います、同棲してます、なんて、訂正する必要もなかったな…)

と佐藤さんが帰った後でなんとなく後悔した。

 別に嘘をつく必要があるわけではなくても、何でもかんでも本当の事を言う必要もあまりない。佐藤さんは仕事上のお付き合いの中での良い先輩だけれど、大親友というのでもないし、私生活を全部知らせておかなければいけない何か義務があるわけでもないのだ。説明するのが手間なら、彼氏はいません、と言ったって別に良かったのだ…


 佐藤さんが来てくれてホッとし、また帰ってしまっていなくなった後も、慣れてきたのか、もうそれほど怖くはなく、明かりを消し真っ暗にして横になった。ただなかなか寝つかれずに、何度も携帯を手に取って時刻を確かめたり、天井に映る車のヘッドライトをぼんやり目で追ったりしていた。

 佐藤さんには付き合っていると言った自分と彼氏の関係は、実際何なんだろうと考え始めた。

 1度も好きになったことがないなんてことはやはりあるはずがなかった。けれど、もともと地元でアルバイトしていた先の居酒屋の店長さんで、10歳以上年上で、落ち着いた声でゆっくり話し職場では誰よりも大人に見えていた彼は、一人暮らしをしていた私に、

「一緒に暮らそう、そしたら生活の面倒くらいは見てあげられるよ、」

と提案してくれたのだった。

 そこに一番の魅力を感じた私は、やっぱり彼を好きになったのではなく、生活が楽になる事に魅力を感じたのであって、彼を好きになったのではなかったのかなぁ、

(…自分は彼を利用しているだけなのかなぁ…)

と思えてきた。そう考えると狡い自分が嫌になりそうだった。

 隣でココちゃんが何か聴き取れない寝言を喋っていたが、そちらに顔を向けて目を凝らしても、起きたわけではなさそうだった。いつの間にか私は眠ってしまっていた。


 目が覚めたのは、隣で起き上がる動きを感じたからだった。まだ夜は明けておらず、辺りは暗かった。窓から入ってくる街灯の明かりで私を見ているココちゃんがぼんやりと見えてきた。怯えている気配を感じ取り、慌てて急に目が冴えた。

「起きた?ちょっと待って…」

と言って立ち上がり、壁に手をついて手探りで明かりをつけた。目が慣れてくるまでは立ちくらみがする時みたいにじっとして動かずに目が開けられるのを待った。

「あれ、」と眩しそうな顔で周りを見廻しココちゃんが言った。

「みんなは?」

「帰っちゃった」笑いながら私はペットボトルを差し出した。

「お水飲みますか?」

ぼんやりした顔で首を振り、何かを探し求める目がうろうろしてから、こたつ台の上のコンビニ袋に止まった。

「パンかプリンは?佐藤さんが買ってきてくれた…」

ココちゃんはふいに立ち上がり、視線を左右に彷徨わせ、またゆっくりと腰を下ろして、初めて焦点のあった目で私の顔を見た。

「うわぁ、…何も覚えてないです」

私が笑っているとココちゃんもだんだんニヤニヤしだした。急に自分の鞄を掴み、ゴソゴソ探って携帯電話を取り出し、時刻を見て

「あああ、終電ももう無いですね…」と言った。

「どうしましょう、コンビニ行ってお酒でも買ってきますか?始発までまだ長いし」

冗談だと思ってニヤニヤしていると、ココちゃんは本気の顔をして私の返事を待っている。

「え?」と言うと、

「え?」と聞き返されてしまった。

「え、本気?」

うん、と頷き、本気以外に何があるの?という顔をしているココちゃんを見ていたら、まぁいいや、と思えてきた。あと3時間もすれば始発が走り出す。目を覚ましている2人でコンビニまで行ってお酒をもう少し買って来るくらいなら、どうって事ない。

「じゃあ行こう」

 立ち上がったココちゃんは右に左にフラフラ揺れた。

「大丈夫?やっぱりやめとく?」

「やめないです」

「お水飲む?」

ペットボトルを渡すと、壁に手をついて喉を上に向け、ゴクッゴクッゴクッゴクッと勢い良く音を立てて飲み、はああーと大きな息をつき、

「行きましょう!」

と気合を入れるように強い声を出した。

布団に座ってその姿を見上げていた私は、そのもっとお酒を飲むぞという揺るがない決意の固さに圧倒された。もう1人くらい誰か大人な人が残ってくれていればどうにかしてあの手この手で説得して朝まで禁酒してもらえたかもしれないのになぁと思いながら、勢いのある相手には付き合うことぐらいしかできない私は、のっそり立ち上がってフラフラ先を行くココちゃんの手を取り、支えながらコンビニまでついて行った。


 酔っ払っている相手には小さく書かれたノンアルコールの文字は見えないだろうと思ってカゴに紛れ込ませていたら、

「これはノンアルですよ」

とすぐに気付かれ棚に返却されそうになり、

「でもそれ、私が飲むやつだから」

と言ってカゴに戻し、

「えー、ちょっとはアルコール入ったのも飲みましょうよ」

とモメながらアイスクリームや枝豆やフランクフルトやじゃがりこなども買い、手を繋いで戻って来た。ココちゃんは明らかにまだ酔っていた。2人だけの二次会を始める前から、まだ前の酔いが抜け切ってないのは見え見えだった。本人にもその自覚があって、まだフワフワしているのが気持ちよく、正気に戻りたくないから急いで酔いを追加しようとしているようだ。

 隣り合って畳の自分の寝床の上にそれぞれ寛いで寝そべったりあぐらをかいたりして落ち着くと、ココちゃんはすぐにプシュッとお酒の缶を開けた。

「聞いてくださいよ、1日に5人も6人もお客さんをとらされるんですよぉ?」

何だか既に聞いたことがあるような台詞をもう一度聞かされた。


 けれど、もしかしたら私が初めからちゃんと返事をして話し相手を務められていれば、彼女はひっくり返るまで1人で孤独に限界までの挑戦みたいに飲み続けることはなかったのかも知れない。

ふんふん、と目を見て相槌を打ったり聞いたりしてくれる相手がいると、彼女も最後までちゃんと言いたいことを言ってしまいたいからか、自分でお酒の量を調節し、たまにお水も飲み、いきなりひっくり返って眠りこけてしまうということは二度目にはなかった。

私達は朝まで自分たちの仕事を語り明かした。


 ココちゃんの悩みは、流行り廃りの激しいこの業界で、あまりにもお店が〝今が旬の1番人気ココちゃんです〟と煽るように宣伝すること、煽られて来たお客さんが自分の事を次に来る時までずっと覚えていて欲しがる事、そんな無理な要求でも叶えてあげられなかった時のお客さんの落胆する顔を見るのが辛いこと、などだった。

要するにどうにも解決のしようのない悩みに思われた。

 お店だって、流行り廃りの激しいこの業界で、少しでも稼がせてあげられる旬のうちに女の子を宣伝するし、その間はなるだけ休まないでねともそら言ってくる。お店が看板と推している子が休みがちでは話にならないからだ。

 お客さんも、身を入れて応援してあげよう、また来てあげようと思う女の子には、自分の名前くらい覚えておいて欲しいと思うし、1日に何人も何人も接客する女の子の側からすれば、目の前の仕事をこなしていくだけでも必死の連続で、それが毎日で休みもないとなればフラフラで、1、2ヶ月前に1、2時間会っただけのうろ覚えの人の名前などいちいち一人一人覚えていられるわけはない。

 それでも、自分を指名して来てくれるお客さんの期待に応えられないと、一応、良心は痛むのだ。

「一度長期で休みをもらうか、定期的に休みを増やしてもらうか、しか…ないんじゃないかなぁ」

私は当たり前のようなことしか言ってあげられなかった。

「とにかく一回休むしか…」

ココちゃんは黙り込み、ゆっくり一度頷いた状態からしばらく動かなくなってしまった。本人にも実はよく分かっていたことだったのではないかと思う。

暗い顔になってしまった彼女を励ましたくて、

「それよりも、すごいよね、」

と私は言った。

「人気の秘訣は?仕事のコツとかあるの?」

首を傾げ、お人形さんのような顔でじっとこちらを見つめてきた後、

「コツはあるよ」

とココちゃんはニヤリと微笑んだ。

「別の人格を作るんだ」

彼女はまたグビグビとマンゴーの味の缶チューハイを煽った。

「仕事用のキャラを作って、働くときはその仕事用の別人格に働いてもらうの。そうすれば、自分を消耗せずに済む…

 テレビで二重人格の人の話をやってるのを見て、閃いたんだ。

 別人格をでっち上げて、それをうまく使いこなせれば…こういう仕事ってすごく上手くいくんじゃないかなぁって。本当の病気の人にはとんでもない不謹慎な話だけどね…」

「ふーん…?」

私はココちゃんの目を見ながら話を促すように頷いた。

お酒の缶を両手の中でくるくる回し、ココちゃんはもっと詳しく説明してくれた。

「…例えば、普段の私は人見知りで、バイトと彼氏募集中で、つまんなくて、頭も悪いけど、その分そんな大した悪い事もあんまりしない、普通のどこにでもいる子達と一緒の普通の子だよね?」

私は頷いた。

「でも〝ココ〟は…私本当の名前は中西あいかって言うんだけど、

別人格の〝ココ〟は、甘えんぼで人懐こくて、惚れっぽくて、あざとい悪女なの。生まれながらにして小悪魔。スラスラ嘘が付ける。

『貴方だけです』とか、一時間おきに言える。とにかくこの仕事向きな要素を全部持ってる。騙して騙して、それでもケロッと平気でいられる。

…そんな無敵のキャラを自分の中にもう一人作り上げて、そんな子に成りきる。働いてる時はね。ここに来て、タイムカードを押したら、切り替えるんだよ…頭の中で、

(さぁ、今から私はココだぞ!)って。

(どんな悪い手を使ったって良いんだ!)って。

だって中西あいかは体をのっとられて、眠らされて、退勤のタイムカードを押すまでは意識がないんだから…被害者で居られる。」

へぇ、なるほど、うんうん、とそんな夢のような話を聞いていると、分かってきたのは、彼女の言っている内容よりも、

(こんなに綺麗な可愛い子でも楽には稼げないんだ…)

という事だった。甘やかされてチヤホヤされてお金がもらえるわけではないんだ、彼女も色々悩んで苦労して工夫して頑張ってるんだ…ということだった。



 自分の仕事を伏せたままで下手に学校の友達や別の職場で知り合った友達なんかにこの商売の話をしようとすると、汚らわしいというような皺を鼻に浮かべ、

「寝転がってじっとしていれば終わってしまう仕事」

「誰にでもできる仕事」

みたいに言われることもあるけど、そんなに簡単じゃないと私は思う。ただ丸太みたいに身を硬くして「早く済ませてください」という表情を顔に貼り付けていては、お客さんが全く面白くない。

 お金を払ってもらっている以上、お客さんに満足して帰ってもらわなくてはいけない。また来てもらうため、そして、自分を大切に扱ってもらうためにも。


 この仕事は自分の体ひとつの商売だと、初めは思っていた。でもそれは間違いだった。体だけでは済まない。心も売らなければいけない。真心を込めて精一杯の接客をしなくては、自分の体をお客さんからも大事なものとして扱ってもらえない。嫌そうな顔をして身を硬らせているだけでは、つまらないな、お金が勿体なかったな、と思われ、腹いせに、使い捨てのような酷い扱いを受けるかもしれないのだ。

 ただ反応が欲しいために痛みを伴うやり方をする人だっている。NGを出せるのは1度事が全て終わってしまってからなのだ。

「二度とあの人には当たりたくないです」

とは言えても、

「嫌な人に当たりたくないです」

という要望は通らない。その場で、自分の身を守れるのは自分しかいない。だから、やる気を出して、敵を味方に変えてしまわなければいけない。出来る限りこちらから愛情を込めて接すれば、無理なばかりでは無いはずだ。基本的には、愛されたがっている人がお客さんとして来ているはずだから。だから愛してあげなくてはいけない。

 本当の売り物はだから、心なんだ。


 私がやっと、まだ不完全ではあるが、自分なりにコツを掴んできたかもしれないな…と思えるようになったのは、もっともっと後、あの飲み会から7年も8年も経ってからだ。

 

 あの飲み会が開かれたのは夏休み中だった。夏休みが終わり後期が始まると、私はある男の子と仲良くなり、とても小さな神戸のアパートで毎日一緒に寝起きするようになった。その生活は5年ほど続いた。


 心を込めて体を売るという仕事、その難しさを克服するために私が覚えた逃げ道は、目を閉じ、彼を想うことだった。実際には目の前の相手が誰であろうと構わない。どうせ彼でないのなら、誰でも。

 私は目を閉じ、彼を想う。そうすれば仕事に愛情を込めることができる。

 




続く

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