軽薄な人
その日、俺は屋上につながる階段を降りていた。行きは二人、帰りは一人というやつだ。生徒の不祥事が続き、学校側も何かと神経質になっているはず。爆弾を落とすにはこれ以上ないタイミングだろうと思った。
死んだのは優木めぐみ。彼女は担任の菅原から性的暴行を受け、それを苦に自殺する。そのような事実はおそらくないが、それを訴える本人の遺書があれば話も変わってくる。致命傷とまではいかなくとも、何かしら傷をつけられればそれでいい。
そのまま帰ろうとすると、鹿波が正門に立っているのを見つけた。もう遅いのに、俺を待ってくれているのだろう。だが、いま会うとさすがにマズい。俺がこの時間に学校にいたことを証言されると、かなり疑わしくなる。だからここは心を鬼にして、彼女の死角から通り抜けた。
ぼんやりと歩きながら、俺は譲のことを思った。彼に鹿波を幸せにできるのだろうか。彼女は世話焼きで面倒見がいい。だから一見でき損ないに見える譲にも親身になって接していた。それだけなら微笑ましい関係だろうが、実際は違う。譲にはきっと、人の心がない。恐怖や不安を感じないとともに、嬉しさや喜びさえ欠落してしまっているのではないだろうか。だとすれば、鹿波は必ず不幸になる。譲は鹿波を都合の良い道具としか見ていないはずだ。そんなこと、許されるはずがない。
俺は譲と同じく、恐怖や不安を知らない。しかし、嬉しさや喜びなら知っている。これは神様の犯した間違いではなく、神様が与えてくれた好機なのだと解釈しつつあった。
「いい加減、しつこいよ」
「親友同士の喧嘩ってのはさ、一日経てば仲直りするもんじゃないの?」
相変わらず、上原の顔から嘲笑の色が消えることはなかった。田村は話し合いを試みたが、そのどれもが実らず、まるで暖簾に腕押しだと思った。正直、まだ分かり合えるかもしれないという一縷の望みを抱いていた。その一縷に賭けてみたかった。一緒になって一人をいじめるという歪んだ関係性ではあったが、どんなに歪んでいても、そこには仲間意識なるものが育まれていると信じたかった。だが、結局すべては無駄だったらしい。
「俺は、お前を仲間だと思ってた」
「仲間は仲間だよ。僕は暴力が見たかった、そして君は暴力を振るいたかった。利害が一致して、結び付いた仲間だろう?」
どこまでもヘラヘラとしている上原に嫌気がさして、田村はその場を立ち去った。微かな希望が砕けて、ついに自分の周りから仲間が消えたことを悟った。




