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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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85話 試験結果・前

 これはあくまで俺の主観だが、綾葉高校のテスト返却は少し変わっている。

 俺が今まで通ってきた学校はどこも、それぞれの科目の担当教師がテストを返却して、後日成績表が担任から渡される形式だった。学校によって多少の違いはあれど、概ねは同じだ。


「それじゃあ、今から期末試験の解答用紙と成績表を返却する」


 冬休みも目前まで迫ったある日の終礼のこと。

 俺は、俺たち生徒はいまだ自分の試験の点数を知らなかった。綾葉高校ではどうやら、全教科の解答用紙と成績表が一括で手渡される形式のようだ。

 出席番号順に生徒たちが呼ばれ、各々受け取りに担任のもとへと赴く。転校生である俺の名前が呼ばれるのは言わずもがな最後だ。

 ただ待っているこの時間、俺は正直、自分の結果よりも水方くんの結果の方が気になっていた。前にも言ったが、俺は今回の範囲は二度目だ。それに加えて1週間強の勉強会もあり、文理ともに大して心配はしていない。

 それよりも、今回の勉強会のきっかけとなった水方くんの努力が結実したのかどうかの方が重要だ。本人は心配ない(と思う)と言っていたが、俺も教える側として関わった以上、不安も募るものである。


(でもそりゃあ……一番不安なのは、水方くん自身だよな)


 今も背筋を反らせる勢いで伸ばし、揃えた膝の上で握り拳をふたつ作っている。

 その間も短い間隔で生徒たちの名前が呼ばれ、頭から数えて35番目。


「水方」

「はい」


 自身を呼ぶ声に緊張感を多分に孕ませて返事をし、教室の前へと足を進める。

 その様子を見ていると、何やら担任から言葉をかけられているようだ。テスト結果で一喜一憂する生徒たちの話し声で、残念ながら一番後ろのこの席からは聞き取ることは出来なかったが。

 だが、その後に手元の紙に目を落とした彼の表情から、俺の一抹の不安は綺麗さっぱり消え失せた。同時に俺自身、どこか報われた気がした。

 自席に戻ろうと顔を上げたところで俺に気がついた水方くんは、少し恥ずかし気に、控えめなサムズアップをして見せた。俺もそれに倣い、気づかれない程度に小さく右の親指を立てた。……なんか、恥ずかしいなコレ。


「織宮」


 それから僅かふたりを挟んで間もなく、出席番号最後の俺の名前が呼ばれた。


「はい」


 返事をして、特に思うこともなく前へ。担任から5枚の解答用紙と、ひと回り小さな紙を1枚受け取る。


「成績表を見る限りでは、勉強は得意のようだな」


 手渡される際にそんなことを言われたが、やはり俺としては肯定しにくい言葉だ。


「苦手ではないですけど、今回は前の学校と範囲が被っていたのでそれもあるかと」


 と、水方くんの時と同じように返して早々に引き上げ自席に戻る。

 着席して取り敢えず、6枚あるうちの小さな紙――成績表にひと通り目を通す。


 2年3組 織宮 悠灯(オリミヤ ユウヒ)

  国語:89点 

  数学:72点

  英語:95点

  理科:76点

  社会:81点

  合計:413点

  平均:82点

  順位:27/199位


 他には、偏差値や各教科の順位、全体平均や自分の得点の分布などが記載されている。

 一応自分で計算してみたところ、どうやら平均点の計算は少数以下切り捨てのようだ。

 順位は199人中の27位。確か遠柳での最後の定期試験が33位だったから、勉強会や範囲被りによる得点上昇も考慮すると……大体レベルとしては同じくらいだろうか。


(にしても、祈鷺先輩効果スゲェな……)


 理数科目――特に数学の点数が50台から約20点も上がっている。たった1週間とは言えかなりの成果だ。

 意外と教師、向いているのかもしれないなあの人。まぁもしそうなった場合、生徒たちから友達認識されてそうだが。


「お前たちもそろそろ進路を考えていかなければならない時期だ。今回成績が振るわなかった者はそろそろ本格的に、将来に対し危機感を抱く必要がある」


 担任のそんな言葉が、俺の意識を成績表……というか祈鷺先輩から現実に引き戻す。


(進路……進路かぁ……)


 将来こうなりたいという展望もなく、特別やりたいこともない。せめて進学か就職かだけでも今のうちに確定させておくべきだろうか。このままズルズルと時の流れに身を任せているだけでは、ただでさえ転勤族くらいしかこれといったステータス(?)がないのに、そのうち本当に何の面白味もない人間になりそうだ。

 その後は再び自分の思考に浸り、話の内容も両耳を通って抜けていき、学級委員の号令を以て今日も学校で過ごす一日を終えた。

 皆が帰り支度を進める中、俺は一旦着席し今度は解答用紙を眺める。英語はケアレスミス、国語は文章問題、社会は大体が暗記不足でそれぞれ点を落としている。理数に関しても、祈鷺先輩のおかげでせっかく点が大きく伸びたのだからまた下げるわけにもいくまい。


「へぇー、織宮くんって頭いいんだ」

「頭がいいって言うか、今回は範囲が――って、え?」


 不意に投げかけられた問いにもう何度目かわからない定型文句を返すが、ちょっと待てと言葉を止める。

 あまりに自然に返してしまったが、俺誰とも話してなかったよな。


「ん?」


 解答用紙から顔を上げると、当たり前のようにそこにいた都島さんが、机の上に無造作に置いていた成績表を覗いていた。机に手をつき、髪を垂らし、キョトンと顔を傾ける。……いや、ん? じゃなくて。


「……どうかした?」

「ううん。織宮くん、点数も見てないのに余裕そうだったから来てみただけ」


 それだけでわざわざ真反対からこんなとこまで来たのか。俺だったら真っ先に帰ってるな……出入口近いんだし。


「でも、27位かぁ……確かにこれなら余裕なのも頷けるね」

「都島さんは……その、悪かったの?」

「私? 31位だよ」


 普通に高いじゃん……と思ったのは俺だけだろうか。なんか「いいなぁ」って雰囲気を醸し出していたから若干ためらったのに、これなら気を使う必要もなかったな。

 それに、さっきも言おうとして切ったが――


「なら、多分俺と同じくらいだよ。さっきも言いかけたけど、今回は前の学校と範囲が被ってたから、それに救われたとこあるから」


 ほんとに、これ言うの何回目だろうな。言い慣れしてきてそろそろただ薄っぺらな言葉になりそうだ。


「そうなの? じゃあ、次からは勝負だね」

「ははは、そうだね……え、そうなの?」


 なんだかとても面倒なことになっている気がするが、何も言わぬその笑顔は割とガチっぽい。


 ……何はともあれ、俺の綾葉高校での最初の試験は良好な結果に終わった。




 ◆◇◆◇




 今日は学校から直帰せず「Frieden」に寄ることになっていた。理由は言わずもがな、試験の結果報告だ。祈鷺先輩曰く、成績表は全学年同じ日に返ってくるからちょうどいいとのことだ。

 よって、俺は今現在「Frieden」の扉の目の前にいる。俺が教室を出る時には水方くんはいなかったので、多分先に着いているだろう。


「織宮く~ん。こっちこっち~」


 入店一番、祈鷺先輩の呼び声が飛ぶ。相変わらず元気で、もうなんかこの人の結果見えてるな。

 予想通り水方くんもいるようで、祈鷺先輩の対面に座ってこちらに顔を向けている。

 俺は店長と、今日もしっかりいた史渡さんにひと言挨拶して、いつものを注文してからふたりが待つ席へ向かった。……まぁ、実際は「いつもの」なんて小洒落た言い方はしていないが。さすがに恥ずかしくて俺には到底できない。


「さってっと~~。それじゃあ始めよっかぁ、結果発表会~」


 俺が注文したものが届くと、それぞれの成績表をテーブルに裏返しで置いて準備完了だ。


「ってことでまずはあたしから~~はいどーん!」


 ひとりノリノリな先輩は、大仰に右手を天(井)に掲げ、表に返した紙をどーんという掛け声とともに叩きつけた。


 3年2組 梶倉 祈鷺(カジクラ キサギ)

  国語:77点

  数学:100点

  英語:77点

  理科:98点

  社会:77点

  合計:479点

  平均:85点

  順位:14/197位


「「おお~~!」」


 高っ! ……と思わず声を上げそうになった。順位が14位というのも十分驚愕ものだが、理科は98点、数学に関しては100点満点だ。

 ……感心したのと同時に、やっぱりキャラじゃないよなと思ったのは心の内に仕舞っておこう。


「どうよぉ? 祈鷺センパイのジツリキは~」


 ヘヘンと両の腰に拳を当て超鼻高々になっている。

 点数と順位を見ればいかに文系科目が足を引っ張っていたのかが明らかだ。もし試験科目に理系の方が多かったら、一桁台は余裕なのではないだろうか。


「凄いですね、祈鷺先輩!」

「うんうん~。もっと褒めてくれてもいーんだよぉ~」

「はい! とても凄いです!」


 素直だなぁ水方くんは。おかげで先輩これ絶対調子に乗っているな。もう鼻が伸びそうな勢いだ。

 ……それにしても、メチャクチャ気になる部分が一点。


「文系科目……全部77点ですね」


 水方くんの言葉ははちょうどそのまま俺の代弁だった。


「いやぁ、それは先生にも言われたけどあたしが一番驚いたよ~。偶然ってあるもんなんだねぇ」


 苦手科目が全部同じ点数……しかも決して低い点数じゃないところがまた凄い。これがいつもと同じような点数で、かつ極端に低いか、90点とかの高さなら「そういう実力」で頷ける。だが今回の先輩のように点数が上がったうえでのことなら最早奇跡の域だろう。


「でも、苦手科目の成績が上がって全部同じ点数で、それも77点なんて、縁起がいいですね!」

「ふぇ? そぉかなぁ……そうだねぇ~。えへへ」

「はい! きっといいことありますよ!」


 ここぞとばかりに褒めちぎる水方くん。言葉が熱を帯びている辺り、きっと無自覚なのだろう。心からそう思っているから、相手が好きだから、そんなことばかりで今の彼に邪な感情はミリほどもない。

 先輩も先輩で、顔がニマニマ緩みまくって満更でもない様子。案外このふたりはいい組み合わせなのかもしれない。

 純情少年とフリーダム先輩……なんかそんなラブコメ漫画ありそうだな。


 また転校する日が来るかも知れないが、それでもせめてこの町ここにいる間はふたりの関係を見守らせてもらおうと、そんなことを思った。

今月はなかなか時間が取れず、申し訳ありませんが、もしかしたら2回目の更新ができないかもしれません。

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