76話 午後はゲーム三昧・前
今話と次話は、執筆時間の都合上、本来1話にまとめる予定だったものを分割して投稿します。
昼食後は、そのまま3人で主にテレビゲームをして過ごした。瀬良曰く、午後からはゲーム祭りらしい。
最初にやったのは、長すぎて名前は忘れたが横文字いっぱいの体を動かすタイプのゲームだ。制限時間いっぱいコントローラーを振り続けたり、タイミングを合わせてコントローラーを振ったり、身体全体を動かすわけではなかったものの、運動不足気味の俺と運動が苦手らしい奥海さんは腕の疲労が早かった。慣れていてかつ現役運動部の瀬良は最初から最後まで難なくこなしていた。
次に……というか現在進行形でやっているのは、50以上のキャラで遊べるビッグタイトルの格ゲーだ。今は俺たち3人VSコンピュータの最大レベル×3を、何のギミックもないステージで何戦かしている。
「……って、強すぎね?」
格ゲーどころかテレビゲーム自体する機会が滅多にない俺ではコンピュータにボコボコにされるのがオチで、せいぜい体力を何割か削るのが関の山だった。
「ははっ。まぁレベル最大だからな」
早々に3機全てを消費しきり退場した俺に瀬良が笑いながら言うものの、当人は今もカチャカチャとコントローラーを操作し続けている。
意外だったのは奥海さんだ。瀬良を挟んでプレイングを見ていたが、マジで指以外動いていなかった。齧りつくように画面を見る表情は瀬良とは対照的に真顔で、一瞬誰かと思った。
最終的にふたりの健闘でプレーヤー側の勝利となったが、瀬良が1機を失ったのに対し、奥海さんは1機も失うことなくその上で体力も余裕を持たせていた。
「奥海さん、もしかしなくても格ゲーガチ勢?」
「えっと……それほどでもありませんが、家では勉強や裁縫の息抜きなんかによくやりますよ」
おぉ~。勉強を疎かにしない辺り、さすがにしっかりしていらっしゃる。
「津々璃はこう見えてランカーだぞ。1回だけ1位にもなったことあるしな」
「え、マジで?」
「はい……。と言っても、最近は時間もあまり取れないのであぶれることもありますが」
控えめに言うものの、ランキングに入るだけで十分凄いと思う。ゲームのランキング上位ってモノに関わらずマジの戦場だろう……そんなとこに食い込むなんて、たとえ俺が本気で打ち込んでもビジョンが見えない。
「じゃ、そんな津々璃と1対1やってみるか?」
そんな提案をしてくる瀬良だが……明らかにロクでもない他意がありそうな笑みが張り付いている。
「やんねぇよ。結果見えすぎだろ」
レベル最大のコンピュータに完封負けする俺と、その相手に完封勝ちする奥海さん。そんなふたりの1対1を見て何が面白いというのか。
「え~、面白いと思うんだけどなぁ。ユウがボコボコにされるトコ」
やっぱり面白がっていたか。道理で嬉々としていたわけだ。
「俺はいいから、ふたりでやってくれよ。瀬良も上手いんだろ?」
「えー、オレぇ? オレじゃ相手になんねぇんだけどなぁ……」
露骨に嫌そうな顔するな。どうやら瀬良をしても奥海さんには敵わないらしい。
「いいですねっ。1度だけやりませんか?」
だが、対する奥海さんは乗り気な様子。
「え、マジで?」
「はい、ぜひっ」
おぉ、超いい笑顔だ。心なしかキラキラ輝いている。しかももう既にコントローラーを構えて準備万端だ。
好きな人と好きなことをするのが、よほど嬉しいのだろうな。超眩しい。
「なぁ……これを断るのは彼氏としてどうかと思うぞ。瀬良」
「あぁ……言われなくてもわかってるよ。ユウ」
瀬良も俺同様、目の前の純真な光に当てられたようだ。
こうして一戦、瀬良と奥海さんの1対1の試合が決まった。
「もう何ヵ月かぶりだな、1対1でやるのは」
「はい。最後にやったのは、確か7月の末にお邪魔した時でしたね」
渋々引き受けた感じの瀬良だったが、なんだかんだで始まる前から楽しそうだ。……ってか、
(……やっぱり俺、邪魔じゃね?)
今のこの状況、要は俺と沖田さんがふたりきりで屋上にいるところに瀬良がいる……みたいなものだろ?
俺の不純物感が凄いんだが……
(まぁ……今更か)
当の本人たちはそんな俺を気に留めずキャラ選びに勤しんでいる。正直俺には誰が強いとかはわからないが、ふたりはそれぞれ使いやすいキャラがあるようだ。これも醍醐味というヤツなのだろう。
……ふたりともこの調子だし、今は静かな観客に徹するとしよう。
「ステージはいつも通りでいいだろ?」
「はい。問題ありません」
両者ともに準備が整い「Ready Fight!」のコールでバトルがスタートする。
(うーわー……)
取り敢えず、言葉は失った。
初っ端から何をどう操作しているのかわからない動きをしている両者だが、簡単に言うと瀬良が遠距離攻撃で牽制しながらステージを動き回り、奥海さんはそれを回避しながら近づく機を窺っている感じだ。
(ってかさっきから奥海さん、ほぼダメージ受けていないんだけど……)
タイミングを合わせてガードしたり、攻撃技のアクションを利用したり、回避と同時に距離を詰めたり、改めて奥海さんのスキルの高さに驚かされる。かと言って、瀬良が苦い顔をしているかと言えばそういうわけでもない。実際、牽制が上手くいっているのか瀬良の方も今のところはノーダメージだ。
俺には到底実況しきれない一進一退の攻防が目の前で繰り広げられている。
「……」
「……」
「……」
「……」
咳払いひとつすることさえ憚られる、沈黙の時間が続く。そこに和気藹々とした雰囲気はなく、聞こえるのはテレビから聞こえるゲームの音声とコントローラーのカチャカチャ音だけ。
始まる直前まではあんなに緩い空気だったのに、今はそんなものはどこへやら。緊張感で張り詰めている。完全にガチの戦いだ。
俺は無感情に画面に意識を注ぎ続けることでその空気感から逃げ、ただただ勝負の行く末を見届けることにした。
……それからいったい何分経っただろうか。
奥海さんが操作するキャラの空中叩き斬りが命中した瀬良のキャラが、フィールドにバウンドしてそのまま画面外にふっ飛んでいったことで、長い戦いが終わった。
「っかぁーーーッ、負けた負けたぁ~。やっぱ敵わねぇなぁ、津々璃には」
勢いよく後ろに倒れる瀬良だが、言葉とは裏腹に清々しそうだ。
見事勝利した奥海さんは反対に、静かにほっと息をついている。
「いえ、わたしも危ない場面が沢山ありました」
そうは言うが、最終的な奥海さんの残機は3機中あと少しで2機目のゲージが尽きるほど。実力差的には瀬良を大きく上回っていたのが素人目でもわかった。
でもまぁ瀬良も奥海さんも、勝敗より一緒にやること自体に意味を見出しているのだろう。だってふたりとも、超満足そうな顔してるし。
「お疲れさん。こっちは緊張感に当てられてどうにかなりそうだったよ」
「あぁ~、だろうな。一瞬チラッと見えたけど居心地悪そうだったなぁ」
最早さすが瀬良と言うべきか。チラ見だけでもしっかりと読みとられていたらしい。
「えっ……あの、すみませんっ……」
と、いつもの調子で瀬良に皮肉ったら奥海さんが真に受けてしまった。
「あぁごめんっ、別に咎めようと言ったわけじゃないんだ」
「そうそう。俺らは大体このノリだから、ユウの皮肉は気にしなくていいぞ」
「そ、そうなんですね……」
ありがたや、やらかしたと一瞬焦ったが、俺に続けて瀬良がフォローを入れてくれたおかげで誤解されずに済んだ。確かに、初耳じゃあ嫌味言ってるようにしか聞こえないよな。
これからは気をつけた方がいいだろうか。……いや、そもそも3人揃うこと自体ほぼないだろうし、そこまで気にする必要もないか。
何より、瀬良に対する態度を今更変えられそうにない。俺にとって唯一、気の置けない親友だからな。




