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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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41話 策士なる学級委員

 当初の予定とは少し違ったが、沖田さんと文化祭の2日目に一緒に回る約束をすることにも成功し、更に初めて名前(苗字)を呼んでもらうという特典もついてきた。

 ……なんか、恋情を自覚した時といい、今考えると結構チョロいよなー俺。下の名前ならともかく苗字呼びで舞い上がるとは……というか夏休みを挟んだとはいえ5ヵ月間一度も名前を呼ばれたことがないって結構すごいよな。3バカなんてもう毎日のように呼ばれてるし、成田と芽野に関しては転校1週間から既に下の名前呼び捨てだった。


 まぁ今アイツらのことはどうでもいいんだ。とにかく、せっかくの文化祭だ。1日だけでも好きな人といられるのだから、俺にとっても沖田さんにとってもいい思い出にしたい。もちろん、1日目に3バカに付き合うつもりは毛頭ない。文化祭で叩き出されて今回出禁くらってるかもしれないって、何があるかわかったもんじゃない。そんなロクでもない思い出は必要なしッ!


 でも、1日目どうしようかというのは本当に悩みどころだ。この学校で五十谷たち以上にいい「それなりの関係」を築いている人はクラス学年男女問わずいない。独り文化祭ってのも十分考えられるし、いずれ去る可能性が高い身としてはそれも許容範囲内だ。わざわざ娯楽系の模擬店やうちのクラスみたいな腰を下ろす必要がある模擬店に入らなくても、屋台系の模擬店を回っていれば十分に楽しめるだろう。


 とまぁ、そんなこんなことを放課後の文化祭の準備真っ最中の教室で考えていると、


「織宮くん。申し訳ないんだけど、買い出し行ってくれないかな? サクラモールの食料品売り場なんだけど」


 邦依田さんにそう頼まれた。


「えっと……なんで俺?」


 俺はこの中の誰よりもここの地理に疎い。サクラモール自体は二度訪れているから道順は問題はないんだが。


「ん? さっきからずっと手持無沙汰でやることがなさそうだったから。それに、織宮くんがサクラモールの場所を知ってることも分かってるし。大丈夫だよね?」


 そういえば一度モールで邦依田さんと会っていたな。瀬良の買い物に付き添って来た時に偶然会って沖田さんとのことを相談されたんだ。文化祭の件から見るに少し進展があったようで何よりだ。

 ってか今はそれは置いといてだ。やることなくて思考に耽っていたのは事実だし、季節的にも暑いだ寒いだで苦労はないしお安い御用だ。


 ……というか、個人的にはさっきの邦依田さんの言葉――具体的には「大丈夫だよね?」の部分に名状しがたい謎の圧を感じたのがとても気になるのだが……触らぬ神に祟りなしだろう。なんか意地でも行かせるという強烈な意志を感じたのは果たして気のせいなのだろうか。


「まぁ……やることないのは確かだし、ないならないで困り物だし、大丈夫だよ」

「そっか。よかった。これ、リストとこっちがお金ね」

「あ、うん」


 そこにある笑顔や声には、先ほどの妙な感覚は籠っていなかった。

 ……女子ってすげぇ……てか怖えぇ。普段は見られないであろう邦依田さんの一面を垣間見た気がした。

 若干の冷や汗を頬に感じながらメモ帳の紙に纏められたリストと、山吹色の小さめの財布を受け取る。おそらくこれが共用の財布なのだろう。


「でも、買い出しって先に買っておく分はもう買ってあるんじゃなかったっけ?」

「うん。それは先週のうちに済ませてあるよ。これは、追加と買い忘れの分。ほら、よくあるでしょ。これくらいってアタリをつけて買ったものの、後になって数が足りないっていうの」


 なるほど。今回はまさにそのケースというわけか。確かにメモを見る限りそれほど大量に買うわけではないようだ。本当に不足分の買い足し程度の量だ。


「邦依田さーん! ちょっといいー?」

「あっ、うん! それじゃあ、お願いね。あと、レシートはちゃんと貰ってきてね」


 教室の奥で看板を作っているグループの女子の呼び声。邦依田さんは邦依田さんで忙しそうだ。学級委員という立場からか、はたまた邦依田さん自身の人徳の為せる業か。でも、沖田さんの件もそうだが、邦依田さんがもともと持ってる責任感だとか積極性だとかが関係しているのかもしれない。……まぁ、勝手な憶測にすぎないわけだけど。


 さてと、俺も与えられた役割を果たすとしよう。




 ◆◇◆◇




「えーっと……沖田さん? どうしたの?」


 いざ買い出しに行こうと教室から出たところで、沖田さんがいた。いや、待っていた(・・・・・)。それはもうこちらを向いて、すぐ目の前で。


「私も、頼まれた」


 ……と、いうことらしい。

 なんとなぁ~く、嫌な予感がしてチラと邦依田さんを窺う。偶然目が合った邦依田さんは何か含みのあるウィンクをして見せた。右手にサムズアップを添えて。

 つまり、沖田さんに事前に頼んでおいてその後俺に話を持ってきたということか。沖田さんが待っていたのは、俺にも声をかけるとかそんな感じのことを口添えしていたのだろう。……策士である。

 これが純粋な好意なのか、はたまた3バカのような茶化しや揶揄いなのか……まぁ前者なのは確かなんだろうが、どちらにせよそういう意図・・・・・・があるのもまた間違いないだろう。だってサムズアップしたもんあの人。


「行こ」


 呟きとも思えるような声で淡白にそれだけ残し、そそくさと踵を返して行ってしまう。以前は何も言わずに行ってしまうのが普通だったのを考えたら十分な進展だ。

 俺も追いかけて沖田さんに並ぶ。出会って間もない頃は隣に並ぶことさえ勇気を要し、それも出来なかったというのに、どうやら成長した部分もあるようだ。


 なんか邦依田さんにしてやられた感がないでもないが、買い出しを口実に沖田さんと行動をともにすることが出来るのだからラッキーととっておこう。ちゃんと心の中で感謝も忘れない。ありがとうございます、邦依田さん。

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