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笑わないキミの笑顔を探そう  作者: 無色花火
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39話 友達を文化祭に誘うミッション

 邦依田さんと沖田さんへの疑問もそのままに、時間は淡々と流れていき、いつもの昼休みだ。今日も今日とて沖田さんの弁当が美味い……

 もはや母親の料理よりありがたみを感じ始めているのは絶対に内緒だ。墓場まで持っていく。知られたら餓死しそう……割とマジで。


 相手を意識しだしたり、恋情を自覚したりすると相手に対する態度がぎこちなくなる、というのは物語の中ではよく耳にする話だ。

 前者はこの身をもってしかと経験した。だが、どうやら、後者は俺に当てはまらないらしい。

 というのも、これまで感じていた妙な緊張感だとか焦燥感だとかむず痒さだとかがないのだ。いや、「ない」というのは語弊があるか。正確にはそれらを覚えても違和感なく接することができる。開き直っているとも言える。

 なんだか懐かしい感覚だ。



 さて。懐かしさに心を和ませるのも程々に、俺はこれから沖田さんを文化祭に誘うわけだが…………どう誘おうか。

 何も捻らず「文化祭一緒に回ろっか」だろうか……いや、それだと勝手に決めてる感があるな。それとも「文化祭どうする?」と含ませた感じで遠回しに訊いてみるか……でもそれだとなんかくどい感じが…………あぁだし巻き玉子冷めてても美味い(思考停止)。

 水族館の時は割引券という小物があったからすんなりといったが、今回は特にお助けアイテムは存在しない。

 まずは予定を訊くところから入ろうか。意味は同じでも「どうする?」よりはマシだ。


「沖田さん、文化祭って何か予定あったりする?」


 口の中にだし巻き玉子の余韻を残しつつ、尋ねる。


「……ある」


 えっ? と一瞬思った。失礼千万もいいところだが、正直のところ「別に」と返ってくると思っていた。


「厨房」


 ああ……それね。それなら俺もある。だが訊きたいのはそれじゃない。


「えと……仕事以外で。どっか行くとこがあるとか」

「……ある」

「それって……2日とも?」


 恐る恐るといった具合で尋ねると、今度の問いには小さく首を横に振る。


「金曜日だけ」


 それを聞いて安心した。土曜は望みありということだ。

 でも、予定ってなんだろうか。てっきり、沖田さんなら文化祭でも変わらず淡々と何事もなく過ごすのだと思っていた。

 自慢ではないが、クラスの誰より彼女の事情を知っている故に、今回のケースは驚愕にまで至った。

 ……誰か一緒なのだろうか? もし沖田さんが誰かと一緒にいるとして、最も自然なのは言わずもがな桜木先輩だ。


(その線が一番濃厚と考えて、あとあり得るとしたら……)


 そこまで考えて、ふとさっきの光景が思い浮かんだ。根拠なんてないが、そうだとしたらまだ納得がいく。


「もしかして、邦依田さんと一緒?」

「……ん」

「そっか。さっき一緒に教室を出るのが見えたからもしかして、って思ったんだ」

「……そう」


 沖田さんと邦依田さんは休み時間、コントのような喧騒を尻目にふたりで教室を出ていった。帰ってきた時、邦依田さんが妙に喜色を含ませた表情をしていた。これまで何度も沖田さんにアプローチを仕掛けては砕けていた邦依田さんが沈んだ表情をしていなかったのを見ると、何かふたりの間に変化があったのだろうと予想できる。

 それが文化祭の日に沖田さんに時間を貰うことだとすると邦依田さんの顔が綻ぶのも頷ける。


 きっと、これはいい変化だ。邦依田さんにはこれからも何卒、頑張ってもらいたいものだ。


 さて。次は俺の番だ。

 俺だって沖田さんと文化祭を共にしたいのだ。思い出を、ひとつでも増やしたいのだ。


「ねぇ……」

「っ!? な、なに?」


 そんな矢先、不意を突かれた。何度目かの、沖田さんからの呼びかけ。


「ぁ……土曜日……い、いっしょ……に…………」


 ほんの僅かの変化だが、これまで見たことないくらいの恥ずかしがった様子。それは、俺が抱く擽ったい感情を容赦なく刺激し、俺も釣られて紅潮してしまう。

 ぎこちなく、頬を赤らめながら言わんとしていることは、俺の勘違いでなければ分かった気がした。

 ……だって、俺も同じことを思っていたのだから。

 ならば、俺は口を出すべきではない。その言葉を遮るべきではない。彼女の語る一言一句を、その耳に刻みつけるのだ。


 迷っているのがわかる。言葉を探しているのがわかる。

 俺もそうだったからだ。沖田さんに何かを尋ねる時は、特に言葉を探した。どう訊くのが適切か、どう訊けばまっすぐ伝わるか。……まぁ逡巡や思考に没入しすぎて言うはずのなかったことを口走っていたりするのだが。何度羞恥心を引き出されたか……


 こうやって迷いを見せる姿に「普段は見られない」という理由で、なんだこの可愛い生き物は……などと思えてしまうのは惚れた弱みだろうか。


 そうして何十秒経ったか、遂に開かれた沖田さんの口から出た言葉は──


「やっぱり……いい」


 どこか沈んだ声で告げる、撤回の言葉だった。

 俺の胸の奥に暗い靄が広がる。天上を目前に叩き落されたような、喪失感とも言うべき心情。

 望むなら、その続きの言葉を彼女の口から聞きたい。たとえ俺の想像と違うものでも、どうしても聞きたいと思ってしまう。


「聞きたいたいな」

「えっ……?」

「俺は聞きたい。沖田さんの言葉」


 決して目を逸らさない。逃げない、という理由もあったが、もしかしたら「逃がさない」という気持ちも篭っていたと思う。

 好きになった人が自分に言おうとして、もう少しのところでやめてしまった言葉だ。何がなんでも最後まで聞きたいと思ってしまうのは自然じゃないのだろうか。


「ぁ……ぅ……」


 きっと困らせているのだろう。追い詰めているかもしれない。

 それでも聞きたい。その一心だ。

 今の俺は、彼女の言葉を渇望しているといってもまだ足りない。

 こう思えるのも、俺自身の変化。もしこの恋を自覚していなかったら、きっと彼女が止めた言葉も、それならばと許容していただろう。


 沈黙の困惑の後、再び言葉が紡がれようとしている。

 俺はただ、待つだけだ。


「土曜日……一緒、に……まわりたい……」


 ……グッと歓喜の波を抑える。感情が爆発しそうになるのを堪える。

 今の俺はどんな顔をしているのだろう。大層マヌケな面をしているのか、堪えすぎて奇っ怪な顔になっているのだろうか。嬉しさのあまり涙しちゃあいないだろうか。

 しかしそんなことがほんの些事に思えるくらい、俺の中は歓喜と感激でいっぱいだ。


「ありがとう……っ。俺も、同じこと思ってた」

「…………ん」


 残念ながらあの微笑みは拝めなかったけれど、それでも今は、喜んでいるんだろうってことはわかった。


 あぁ……せめて今くらいは、いつ来るともしれない転校の日に気を削がなくてもいいんじゃないだろうか。

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