136話 球技大会、終幕
俺たち2年4組の2回戦突破から1試合挟み、それから10分の休憩を挟んでの準決勝。
対戦相手は3年5組。
俺たちにとって初の上級生というだけでなく、サッカー部員を今年の最多人数である3人擁する、最有力優勝候補だ。
言うまでもなく、格上である。
そんな相手との試合も既に後半戦。俺たちは、0-2というこれまでにない差をつけられてのリードを許していた。
「わかっちゃいたけど、厳しいなってか……厳しすぎるな」
「相手はサッカー部3人。逆によく2点で抑えてるって思うぜ」
時期的に既に引退しているとはいえ、さすがは3年生。数ヵ月部活に参加していないブランクなど微塵も感じさせない。
そしてそんな相手に俺たちは2点で抑えている。これは自チームという色眼鏡ではないと思う。
事実として3年5組は、1回戦を6-0、2回戦を3-0で突破している。1回戦はサッカー部員を擁さない1年生、2回戦は俺たちと同じくサッカー部員がひとりいる2年生だ。
「まずは1点。確実に返そう」
「「おう!」」
満島くんの言葉に応じ、試合に戻りそれぞれのポジションにつく。
後半戦の初動は、満島くんがディフェンスに回り、防御を固める作戦。それが功を奏してか、しばらくはどちらも得点のない膠着状態が続いた。
だが、シュートされる回数こそ大きく減ったものの、なかなか攻めに転じることができず、防戦一方なのは変わららない。
そんな中、絶好のチャンスが巡ってきた。
独走状態だったサッカー部の先輩からボールを奪取した満島くんが、そのままの勢いで駆け上がり、それをまたしてもサッカー部の先輩が阻む。
しかし抜ききれないと判断した満島くんは、先輩の脚にボールを当てて外に出し、コーナーキック権を獲得した。
蹴るのはもちろん満島くん。すぐさまボールをセットし助走の体勢に入る。
見事な足技で蹴り上げられたボールは、綺麗な弧を描いて敵味方入り乱れるゴール前へ。
「押し込め!」
「ゴールから離せ!」
シュートを決めたい2年4組と、ゴールからボールを遠ざけたい3年5組。
蹴っては人に当たり、また蹴っては人に当たり……
「……え?」
ゴール前で燻り続けていたボールが、ペナルティエリアから少し離れた位置にいた俺の元に転がってきた。
トラップした瞬間、相手選手の眼が一斉にこちらに向いた。その捕食者の如き気迫にゾッとしたのと同時に、俺は見逃さなかった。
(……空いてる)
俺の目前、ゴールまでのコースが綺麗に空いている。
(どうせ勝ち目はもうないんだ……なら一発くらい!)
試合はもう終盤。
明らかな格上相手に今から無失点で3得点するなんて、相手が手を抜くでもしない限り不可能。
最後まで諦めなければなんて、俺には到底思えない。
だからこそ……ほんの1回、初心者がヤケを起こしたっていいだろう。
俺は力の限り、ボールを蹴った。
渾身の一撃は狙ったコースにまっすぐ飛んで……行くことはなく、勢いよく横にブレた。
そしてそのボールはゴールポストどころかキーパーにも当たらず、相手ディフェンダーの肩に命中し…………その反射によってコースが大きく変わり、そのままゴールへとバウンドしながら転がっていった。
――ピーーーッ
ホイッスルの音が耳に飛び込んできたことで、俺は初めてゴールしたことを理解した。
「おおおおっ! 織宮ナイシューッ!!」
「え、あぁ……うん」
今試合初得点でテンションの上がった菱谷くんに、ガッと肩を抱かれる。
その勢いに押され、僅かに体勢を崩してしまう。
「なんだよ、点決めたんだぜ? もっと喜べよ!」
「いや、実感がなさすぎて……入ったのもたまたまだし」
どうにでもなれで放ったヤケクソシュート。それも狙いからは大きく外れ、相手のディフェンダーにバウンドしての偶然のゴールイン。
到底見事とは言えない得点劇だ。いや、劇と言うのも過大だな。
「んなこたどうだっていいんだよ! 相手はここまで無失点の優勝候補だぜ?」
「そうだよ。どんな形でも、1点は1点だよ」
遅れて駆け寄ってきた水方くんも声をかけてくれた。
「そうそう。目ぇ瞑ってたら奇跡的に頭に当たった菱谷だって1点だしな」
「おい、なんでそこで俺を刺すんだよッ!? あと、ちゃんとヘディングの意思はあったぞ!」
自陣に戻りながら、クラスメイトたちが口々に称えてくれる。……菱谷くんはダメージを受けたみたいだが。
(そっか……)
格上の相手、優勝候補の相手に……遂に、1点を返すことができたんだ。それも、俺が蹴ったボールで。
偶然だったとしても、得点してなお相手に追いつけないとしても……何か目立ったことを成せたというのは、確かに嬉しいものだ。
その後、失点を許したことでサッカー部の先輩が対抗心を燃やし、俺たちは追加で1点を失い、最終的に1-3で敗北――準決勝敗退となった。
◆◇◆◇
特にトラブルもなく球技大会全ての試合が終わり、女子も含めた全校生徒がグラウンドに集まっている。
男女の1位から3位までのクラスの代表者(体育委員)が朝礼台の横で待機している。
「では、これより球技大会表彰式を始めます」
前方から教師の声が、マイクに乗って響き渡る。
そう。これから表彰式が行われるのだ。
と言っても、全校集会でやるようなお堅いものではないらしい。声こそ出さないが、周りの空気も心なしか緩んでいるような気がする。
「男子サッカーの部、第3位。2年4組」
先に行われた男子の表彰式。その3位で呼ばれたのは、俺たちのクラスだった。
準決勝で負けた俺たちだが、実は決勝戦が行われていたその隣で、Aブロックで敗退したクラスを相手に3位決定戦の試合をしていたのだ。
相手は1年5組。
うちと同じくサッカー部員がひとりいるクラスで、なんとその生徒は1年生で唯一のスタメン入りを果たしているという実力者だ。
逆シードからは外れたものの、1回戦ではサッカー部員をひとり擁する3年生を相手に2点差で。2回戦ではサッカー部員がふたりの同じ1年生を相手に3得点無失点で勝ち上がっている。敗退した準決勝でも明確な格上相手に、俺たち同様1-3とただでは終わらぬ健闘ぶりだ。
上級生という立場などアドバンテージにはならない……そんな相手と3位の座を懸けた試合をした。
前半の数分で先制し1点。
しかしその後中盤から前半終了直前までで2連続で失点しリードを許した。
しかし後半で同じく2点を返し、終盤での最後の猛攻を凌いで結果は3-2。
デッドヒートと言うべき戦いをなんとか制し、俺たちは表彰台の一席を勝ち取ったのだ。
そう。間違いなくデッドヒートと形容してもいい試合だったのだが……ギャラリーは目に見えて少なかった。
それもそのはず。さっきも言ったが、隣のコートでは最強を決める一戦が行われていたのだ。大体の生徒が決勝戦を観ているため、3位決定戦を観戦しているのはほとんどが試合をしているクラスの生徒ばかり。
(まぁ、どっち見るって言われたら、普通は決勝戦だよな)
あと、3位決定戦は奥のコートで行われるから、観るためにグラウンドの中に入ってこなきゃいけないっていうのもあるだろう。
花形の決勝戦がグラウンドに入ることなく観戦できるとなれば、仲のいい友人でもいない限り、わざわざ関係ないクラスの3位決定戦を見ようという物好きはそういないだろう。
とまぁ、そんなわけあって。今目の前では、うちの体育委員であり唯一のサッカー部員でもある満島くんが、表彰状を受け取っている。
くるりと振り返った満島くんが軽く表彰状を掲げると、周りのクラスメイト達が歓喜の声を上げる。
「おぉ……」
予想外の展開に思わず気圧されてしまうが、どうやらこれが恒例というものなのだろう。
俺も、皆に倣って声を上げ……はしなかったが、小さく拍手を合わせておいた。
やがて拍手がおさまる頃、ここで予想外なことがひとつ。
「第2位。3年5組」
全校生徒の拍手を浴びながら、俺たちと準決勝で戦った3年5組の代表者が朝礼台に上がった。
そう。最も多くのサッカー部員を有し、優勝候補と言われていたクラスだ。
「第1位。3年1組」
そして、そんなチームを下し優勝の栄光を手にしたのは、同じく3年生は1組。
サッカー部員の人数はふたり。
戦績は、初戦は逆シードを勝ち上がった1年生を相手に3-1。2回戦はサッカー部員のいない3年生を相手に4-0。そして準決勝は、俺たちと3位決定戦を戦った1年5組を相手に3-2。
対戦相手が2年4組を除いてことごとく初心者だけのクラスだった5組と比べると安全な戦いだったとは言えないが、それでも俺たちでは勝ち目がなかったというのは満島くんの見解だ。
(まぁ、俺的にはサッカー部員のいる上級生ってだけで戦いたくないけど)
初心者からすれば、どちらもヤバイのは変わらない。……って、今俺のことはどうでもいいか。
そんなヤバイのとヤバイのの雌雄を決する最後の一戦。
俺たちは例の如く隣で試合をしていたため内容は知らないが、その試合結果は3-3の引き分けだった。
つまり、決着したのはPK戦ということ。
ここからは俺たちも試合が終わっていて、Bブロック側のコートから観戦していたので知っている。
最初の5戦は4-4で引き分け。そこからサドンデスに移行し、合計11戦まで続いての最終結果は8-7。
俺たちの時とは試合時間の長さも点数も段違いで、まさに白熱とという言葉に相応しい激戦だった。
ちなみに今回PKまで縺れ込んだのは俺たちの2回戦とこの決勝戦だけだそうだ。
……とまぁ、そんな感じで男子の表彰式が終わり、そのまま女子の方へ移行する。
3位、2位と順々に賞状が手渡されていき……
「女子バレーボールの部。第1位、2年4組」
当然の如く、うちのクラスが優勝していた。
聞けば、終ぞ1セットとして落とすことはなかったらしい。
まぁ……優勝候補の上級生を相手にストレート勝ちしてた時点で想像は出来てたけど。
(とんでもねぇな、蓮見さん……)
菱谷くんも言っていたが、バレー部員が得点源になれないこの大会のルール下において、彼女という存在はチートもいいところである。




