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宴と飛龍討伐

4話目です

 

 扉を開けるとそこはカオスだった。


 ここ蛇の丸呑み亭は元冒険者のマスターが経営する酒場兼宿屋だ。ギルドと提携しており依頼の受注業務を代行できる王都では数少ない宿屋で冒険者のたまり場の一つである。俺たちも王都にいたころはここで寝泊まりしており、ここをたまり場にしている冒険者の一組だった。


「おう、グレイやっと来やがったか。後ろの坊主も入ってこい」


 マスターも大騒ぎしている冒険者の中に混ざっており、顔を見るに完全に出来上がっているようである。なぜ酒場全体を巻き込んだバカ騒ぎになっているのかは心当たりがあるが、当の本人はたくさんの酔っ払いどもに囲まれ、宴の中心にいた。キースは隅っこのほうで黙々と酒を飲んでおり、静かではあるがしっかり酔っているみたいだ。メリルはパーティの中で一番感情の読み取りにくい奴だが、やはり久々に王都に帰ってきてホッとしたのかついつい飲みすぎてしまっているようだ。先ほどから危険な笑みを浮かべながら、寄ってくる男どもをうまくあしらっている。さすがは年の功である。ステラは彼女の周りだけ人一人分綺麗に隙間ができているようだ。「私みたいな美人が酒場で酒を飲んでいると男に絡まれて鬱陶しいのですわ」といって男除けのために薬指につけている指輪が機能? しているようでなによりである。


「おう、お前さんらも飲めや、そこの坊主もそろそろ飲めるんだろ?おーい酒追加だー、もっと持ってこい、樽だ樽で持ってこい」


 おいおい、あんたここのマスターだろ。と思っているとマスターがワハハと高笑いしながら自分で取りに行ったみたいだ。


 男どもに囲まれたままのルイーゼが大声を上げる。それに続いて男どもの地響きのような声が上がる。どうやらもうここでも酔っ払いどもを掌握してしまったようだ。


「なあグレイ、俺酒飲んだことないんだけど」

「よかったな、今日で自分がどれだけ飲めるか人のおごりで確かめられそうだぞ」


 酒のたっぷり入った樽を持ったマスターが戻ってきたようだ。


「追加だおらぁーーー」



 ーーー


 鳥の声が耳に届き、目を閉じていても太陽の光を感じる。昨日の酒は綺麗に抜けたようで、すんなり起き上ることができた。二日酔いにならなくてよかった。


 死屍累々、そう形容する以外に表現のしようがない。そんな光景が目の前に広がっている。さすがに女性陣は自分の借りている部屋に戻っていたようであるが、男どもはその辺で折り重なって雑魚寝している。


 うわ、きたねぇ。自身のゲロに沈んでいる奴もいるみたいだ。とりあえず窓と扉を全て全開にしよう。


「おはよう」

「おはよう、ルイーゼ。二日酔いはないみたいだな」

「あたりまえよ、とりあえず片付けでもしようか?」

「そうだな、昨日はいくら使った?」

「しらないわ、マスターには金貨の詰まった袋をひとつ渡して酒場中に今日は私のおごりだと宣言しただけよ」

「金は無限じゃないぞ、いくらなんでも適当すぎるだろ」

「大丈夫よ、パーティ共有財産から投げたから全体の5%程度だと思うわ、それにあなた以外のみんなからも賛成はもらったから」

「ならもうこのことは言わないが……」


 片付けをしていると物音に反応したのか次々と男たちが起き上り片付けに加わっていく。


 太陽がそこそこ上ったころ、片付けが完了しみんな三々五々に散っていった。


「あんたらはどうすんだ、どうやらもう酔いを引きずっている奴はいないようだが、依頼でもこなすのか?」

「そうしようと思ってる、昨日ギルドで依頼を見ていたらちょうどよさそうなのがあったからな、ワイバーンの討伐依頼はここで受けられそうか?」

「ワイバーン、ワイバーンっと、ああこれだな、フェデル山脈のはぐれワイバーンか、今のお前たちならそれほど危険はないだろうが、気を付けて行って来いよ」


 そういってマスターは手続きをしてくれる。


「ワイバーン?ちょっと簡単すぎない? ほら、これとかどう?」


 そういってルイーゼが見せてきたのは、王都の東にある森深くに住んでいるという支配者級の吸血鬼の討伐依頼書だった。ちなみに依頼主は国で討伐者には報酬として爵位を与える、と書いてある。


「アホか」

「あほですわ」

「ルイーズさん大胆ー」


 マスターは俺のアイコンタクトの意味を正確に察してくれたみたいで、手続きの終わったワイバーンの依頼書を渡してくる。


「じゃ、気をつけてな」


 マスターの言葉を受けて俺たちは酒場を出ていく。王都の中を行き途中の露店で買った朝ごはんを食べながら北側へ出られる門の近くへ行く。門の近くにあった貸馬車の店で馬ごと馬車を借り、王都の北に広がるフェデル山を目指す。

 

 旅をする過程で馬車の揺れにはもう慣れたものである。交代で御者をしながら2時間ほどでふもとに着いた。


 ここで馬車を置いて、馬は放しておく。馬車からは基本的に離れないようにしつけられているはずなので大丈夫だろう。


「ワイバーンは何回か狩っているから特に問題はないと思うが一応確認しておく、まずはこちらが先に対象を見つける。その後ステラの魔法で挑発しこちらに降りてきたところでステラとメリルで風を乱し墜落させ、ルイーゼが首を切って終わりだ。もしブレスを吐いてきた場合はメリルの妖精に打ち消してもらう」


 作戦を確認し俺たちは山の中の入っていく。ここからは俺の出番だ、先頭を進み進みやすい道を見分けそこに道を作る。目当てでない生物を見つけたら回避する。そうやって山の中を歩くこと2時間。


「いたぞ」


 皆に合図をし空を指差す、指の先ではワイバーンは獲物でも探しているのか円を描くように上空を飛んでいる。周囲に開けた場所があるかを確認し、少し離れたところにそれを見つけ、全員を誘導する。


「ステラ、届くか?」

「微妙ですわね、ただ炎を使えば届かなくてもこちらを認識させることはできそうですわ」

「頼む」


 ステラが杖をワイバーンのほうへ向け、今は時間があるため呪文を唱えだす。


 巨大な火の玉が飛んでいき、届いたかどうかまではわからなかったが相手はこちらを認識したようだ。俺たちの真上に陣取り、円を描いている。


 ワイバーンの鳴き声があたり一面に響き渡る。くるか? ぐっと首をのけ反らせたようだ。


「くるぞ」

「火の妖精さん」


 メリルが妖精に呼び掛けると、赤い光がぼうっとメリルの周りに点り、ワイバーンが吐いた火は俺たちの頭の上で掻き消えた。


 自分の放った火が消されたのをみてワイバーンは怒ったのか、もうひと鳴きしてこちらに急降下してきた。


「右へそらせ」


 俺の指示とほぼ同時にステラは杖を振り、メリルは妖精に呼び掛けた。ワイバーンは自らの周りの空気を乱され羽が空気を掴めなくなったところを更に姿勢を乱され、錐揉み落下し始めた。二人の微調整もあって狙い通り、俺たちの右側に落下させることに成功し、ドンっと重たいものが落ちた音とともに舞い上がる砂埃、だがその程度で倒せるはずもなく、立ち上がる影が見えた。俺は魔法の袋からボウガンを取り出し、ワイバーンの翼膜を打ち抜いた。太いボルトがピンと張った翼膜を貫き、遅れてそこからピリッと翼膜が裂ける。


「羽を傷つけた、もう飛べない」


 それを聞くやいなやルイーゼが長剣を構えて駆け出し、ステラとメリルの援護が飛ぶ、それでもルイーゼに向きなおるワイバーンに一条の雷が落ちる。キースの神聖魔法だ。神の力を宿した雷はワイバーンの身をのけ反らせ、一瞬だけ、それでいて致命的な隙を晒した。


 ルイーゼが目の前に晒されたワイバーンの首元を切り裂く。剣の長さが足りないためか一刀両断とはいかなかったが、それでも首への一撃は逃れられぬ死を与えるもので、もうこちらを気にする余裕はないのか、首を切られ声の代わりに空気の漏れる音と傷口から溢れる真っ赤な血を撒き散らしながらのたうち回ったワイバーンは徐々に動きが鈍くなっていき最終的に動かなくなった。


「依頼完了だな、こいつを回収して帰ろうか」


 そういって仕留めた獲物に近づこうとした時、さっき聞いたのよりも低くて大きい咆哮が周囲を揺らした。



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