第8話「信念」
飛行船ハーベストムーン号の客室の一室は、少々狭いながらもベッドや湯沸かし装置など滞在には十分な設備が備えられている。
「キリエ。入ってもいいかな?」
「どうぞ」
ドアとなっていた魔力の壁が消滅し、ミティスが入ってくる。ベッドに仰向けに寝転んだままのキリエはどこか心ここにあらずといった感じだった。
ミティスはそのようなキリエの態度にも眉をひそめたりはせず、ベッドの足元の部分にそっと腰を落ち着ける。
「……キリエ。聞いてもいいかな。前のチームを解散した時のこと」
キリエは少しの間沈黙していたが、やがて顔を上げてミティスの横に腰を据えた。
「新しいメンバーを探してたんだ。チームを強くしたくて、能力持ちを探してたの。私と同じ転生者だったら確実だったから、転生者を中心にね。でも、誰も相手してくれなかった。皆一つの町や村を拠点にして、大きな屋敷で若い女の子や男の子を沢山侍らせて……アタシみたいに自分から悪人をぶちのめしに行こうなんて考えてる人は一人もいなかった。それどころかアタシのほうが説教喰らっちゃったよ」
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「(正気かあんた? せっかく能力なんてもん貰えて第二の人生を謳歌してるってのに、わざわざ危険に首を突っ込むなんて。ヒーローごっこも程々にしとかないとその内殺されるぞ?)」
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「で、手ぶらで帰った後に、拠点が賊に襲撃されてたんだよね。幸い仲間の皆は避難して無事だったけど、せっかく間借りして使わせてもらってた拠点が全部燃えちゃって。それで決めたんだ。『これ以上自分のヒーローごっこに他人を巻き込むのはやめよう』って。皆は引き止めてくれたけど」
「……それでまた独りの活動に切り替えたのか」
「うん。正義を貫くって大変だよね」
ミティスはキリエの手の甲に自分の手を重ねた。
「確かに大変だよ。でも、やる価値はある。たとえキリエのやってきたことがヒーローごっこだったとしても、そのヒーローごっこのおかげで今私はここにいられるんだ。キリエが自分の正義を信じられなくなっても、私はキリエのことを信じてるよ」
見つめ合う二人の間に長く、そして少し暖かい沈黙が流れていく。
「……ねえ、ミティス……」
「どうした?」
「ここはキスする流れかな?」
ミティスはベッドからずり落ちそうになった。
「いやアタシって女の子好きなんだけどさ、ここまで踏み込んだ関係にはなったことなくて! こういう雰囲気には慣れてないの! ごめんね!」
「こ、このタイミングで……。尻をぶつけた……」
2人がそうこうしているうちに艦内放送が鳴り響いた。
【こちら司令官。全員作戦司令部に集まってくれ】
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「皆に次の任務の内容を伝える。その前にこの事件における背景を説明させてくれ」
マジグラム越しのヘルタは真剣な面持ちで、作戦司令部に集まったキリエたちに話を続ける。
「さて……今回の件だけど、あのガラシャを拘束して解決というわけにはいかなそう。奴への尋問と諜報班の調査から事件の全容が見えてきた」
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転生者の持ち込んだ技術をこの世界の資源で再現した装置「スマートリトグラフ」、通称「スマリト」。これによって私たちは以前とは比べものにならない程自由な情報共有が可能になった。
それと同時にこの装置は犯罪組織も積極的に活用するようになった。今回の件の黒幕とも言える組織の「ブラックフライ」もその一つだ。
大元は独り身の男性たちによる相互扶助組織だったそうだけど、「蝿の王」ベルゼブを名乗る男が中心になってから少しずつ様子が変わり始めた。
連中は人魔大戦以前に合法だった女性の奴隷制度の復活を求め始めた。当然表では誰の共感も得られなかったように見えたけど、裏では着実に支持者の数を増やしていた。
そして起きたのが今回の事件だ。ガラシャという堕落者を暴れさせてそちらに衛兵の気を逸らした隙に、避難の名目で若い女性たちを連れ出す。後は当局が後始末で手が離せないうちにおさらばするという算段だろう。
あの髑髏仮面の魔族の正体も分かった。
名前はゼル=ヴァーク。かつての人魔大戦で魔族側の英雄と呼ばれていた獣人族の男だ。
何故奴がベルゼブと手を組んでいたのかは分からない。だが奴は闇属性の魔術を操る歴戦の戦士だ。本格的に敵に回すなら覚悟がいるだろう。
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「……この船は今ヴァークの逃走した方角とガラシャの証言から割り出した連中の拠点へと向かっている。ミティス、戦闘の準備は出来てる?」
「私は大丈夫。いつでも行けるよ、ヘルタ」
ミティスは拳を掌に打ち付けて戦いへの意欲を示した。
「そしてキリエ。貴方はまだ正式にはこのチームのメンバーに参加していない。だから今ここで船を降りるかどうかは貴方の判断に任せる」
「……」
「キリエ?」
キリエは腕を組みヘルタの話を黙って聞き続けていたが、やがて意を決した表情で顔を上げて口を開いた。
「ヘルタ。この船に戦闘用の装備を調整するための設備はある?」
「ああ、ある。一流の装備技師のブラウニーが搭乗しているよ」
「案内して。新しいコスチュームが要るから!」
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「よし! アタシ、完璧!」
キリエは装備調整室からご機嫌な様子で姿を現した。
新しい戦闘服は彼女の要望通り、元いた世界で言う「パイロットスーツ」を元に仕立てられた代物だ。
華やかなピンク色を貴重に金色のラインが入っており、背中に得物である刀、腰にフリントロック式改造銃とマルチツールを納めるレザーベルトも備えている。
「キリエ……!」
「どうミティス? 決まってるでしょ?」
自信満々の笑顔で見せつけるキリエだったが、ミティスには気がかりな部分があるようだった。
「キリエあんた胸……! 谷間が丸出し!」
「88cmです」
「そういう問題じゃなくて!」
ミティスの言う通りスーツの胸元は大胆に開けており、豊かな谷間が丸見えになっていた。
「わざとだよん。相手が動揺するでしょ?」
「そりゃまぁ……するだろうけど……」
再び艦内通信の音が二人の耳に届いた。
【皆、艦橋に集まってくれ! 標的を発見した!】
Q.主人公の胸のサイズに言及する場面要る?
A.絶対要る




