出発
ノクサは、部屋に入るなり靴を脱がなかった。
「私は嬉しいよ。君が選んでくれて。」
そう言って、靴のまま踏み込んだ。
「やっぱり退屈な部屋だね。」
開口一番に、そう評価を下した。
連はまだドアから一歩も動けずにいた。
「人の部屋に入っておいて失礼だな」
「ホントのことでしょ?」
「……」
「靴、脱げよ」
「どうして?」
本当に理由が分からない、という顔でノクサは首を傾げる。
「常識だろ」
「“常識”ねぇ」
ノクサは心底どうでもいいように繰り返した。
「常識に囚われるなんて、一番つまらないからね。」
底冷えするような声だった。
「まあ、いいさ」
「ぐずぐずしてても仕方ないし、出発しよう。」
「今用意するからさ、ブレスレット持って外で待っててよ。」
「分かった」
扉が閉まってから一分ほどで、ノクサは満面の笑みで出てきた。
「よし、行こうか。」
そう言うとノクサは、金属質な鳥を模した何かに石を食べさせた。
カチ、と乾いた音がして、嘴が閉じる。
「まずはゲートに行こうか。」
次の瞬間、鳥の眼が淡く光り、翼を広げた。
空気が、一段と重くなる。
「――な」
連が声を上げるより早く、眼の前の景色が変わった。
ビルの上だった。
「まだここは地球だよ。」
「正確に言えば、東京都足立区千住三丁目九十二番地の屋上だね。」
「この時間は誰もいないから、都合がいいのさ。」
ビルの上だからか、やけに風を感じた。
ノクサは下を見下ろしたかと思うとポツリと呟いた。
「……ここ一撃入れたらどうなるかな。」
風が吹いているのに、やけにはっきりと聞こえた。
「もちろん冗談だよ?」
「こうして君も来てくれたしね。」
来なかったらやっていた。そう言われたように連は感じた。
「お話しはここまでにして行こうか。」
「ゲートってめんどくさいんだよね。」
「許可証がないといけないし。」
ノクサは許可証を取り出しながら言った。
「――勝手にやると、色々うるさいんだ。」
「ふぅ――『境界管理権限、行使。ゲート、開放。』」
そう言い放つと同時に扉が現れた。
「じゃあ、地球とお別れしよっか。」
ドアノブに手をかけながらそう言い放った。




