選択
連は、目覚ましが鳴るよりも先に目が覚めていた。
一晩たった今でも『どうせ暇でしょ』という言葉が心に刺さっていた。
昨夜の出来事が夢だとはあまりにも思えなかった。
連は部屋の天井を見つめたまま、昨夜の出来事を思い出していた。
ノクサの声。
軽い口調。
「どうせ暇でしょ」という言葉。
学校の準備をしている間、誰かが立っているわけでもないのにも関わらず、何度も玄関のほうに視線が向いてしまう。
何の変哲もない、いつも通りの日常だった。
考えないようにしても、ノクサの言葉が頭の中で反芻されていた。
夕方。
連は昨日と同じように、鍵を回して部屋に入った。
「ああ、帰ったんだね。」
確かに鍵は閉まっていた。
「なんでここに……」
「明日も来るって言ったじゃないか。」
「な、何で中に……鍵は閉めたはずだぞ」
「うん。鍵は閉まってたね。」
「防犯意識がしっかりしているのはいいことだ。」
「そうそう。手土産も持って来たよ。」
混乱する連を置いてノクサは紙袋を投げた。
「それは私なりの善意だよ。」
「例え君が来なくとも返せなんてことは言わないから安心してくれていいよ。」
「まあ、とりあえず開けてみてくれよ。」
紙袋の中には、白黒のブレスレットが入っていた。
「綺麗でしょ?」
「君が来ないにしろさ、お守り代わりにでも持っておいてくれよ。」
「さて、本題に入ろうか?」
「退屈な日常を捨てて異世界に行くか、それともただ生きるか。」
「賢い選択を期待しているよ。」
連は無意識にブレスレットを握りしめていた。
「……」
「まあ、まだ時間はあるんだ気長に待たしてもらうとするかな。」
ノクサは、金属質の鳥を模した何かを弄りながら言った。
「……一体何をしたいんだよ。」
「何度でも言うけど退屈しのぎだよ。」
「君さ、明日休日でしょ?」
「明日の夜までに決めといてね。私は何処かで暇を潰してるよ。」
そう言ってノクサは玄関から出ていった。
静まり返った部屋で、連は気づいてしまった。
ノクサがいなくなった今のほうが、落ち着かないということ、
そして玄関には鍵が掛かっているということに。




