第十話・月樹・ここにあった幸せ
そうか。そうだったのか。
僕の知らないことを教えてくれる時の、朝の淡い日差しを集めたような姉の優しげな微笑みが。
泣いた後の悲しみを払うように立ち上がり僕を見上げる、ぱっと辺りを照らす花火のような妹の笑顔が。
色々な思い出の一切れが、ゆるやかな弧を描きながら僕の頭に回っていった。
――あぁ、やっぱりあのままの、リズさんとれいれいだ。
ほろりと浮かぶ小さな感情は、薄れていく夕日に映えて僕に飽和する。
「リズさん…れいれい。ずっとそれを伝えようとしてくれてたの?」
机に手をつくと、どこか柔らかな木の感触が僕の手を伝っていった。
「思い出してくれた?」
横目で見てくるれいれいに、僕は無言でうなずいた。
――きっと、いつか会えるよ!どこかで絆がつながってるんだから!
頭の中に反響する声。
「またこうやって三人揃う日がほんとに来るとは思ってなかったよ。最初にるきあに気づいたときはびっくりした」
「私も思わなかった。嬉しくて沙月置いて走ってきちゃったし」
目に見えない糸で絡まり合った運命が、僕らをここまで運んできたのかもしれない。
「やっぱり僕らは繋がっていたんだね」
「繋がっていた?どういうこと?」
首をかしげるれいれいに僕はゆっくりと口を開いた。
「絆、いや、そんな言葉で表せないくらいに、もっと確実な何かで僕らは繋がれていて…みたいな。上手く言えないけど、なんだかそんな気がする」
ぴったりとはまったパズル。
澄んだ風の延長線は僕らを強調する。
「なんだか私、そのキーホルダー見たらあっさり思い出しちゃった。るき兄がペンを手渡してくれてさ。それぞれの色で作ったなって」
リズさんはれいれいの手に自分の手を重ねた。
「私もだよ。でもれいっかが妹だって気づいたのはほとんど自分の感覚。るきあが言うように、何かで繋がれていたのかもしれない」
僕は…僕は最後まで気づかなかった。
なんだか自分だけ仲間はずれな気がしてくる。
「ね、もうすぐ下校のチャイム鳴るよ。帰ろうよ」
時計を見ると、いつの間にか5時を回っていた。
「ほんとだ。そろそろ帰ろうか」
れいれいはニヤリとした。
「そうだね。早く帰って、それぞれの里親に話して、三人で一緒に住めるようにしてもらおう」
一緒に住む?!一応元はただのクラスメートなのに…
「一緒に住むの?!」
「えー、家族なんだから一緒に住もうよ」
それもそうか…。
これから「本当の中学校生活」が始まるんだな。
たてつけの悪い教室のドアを開けると、誰もいない廊下。
でもそこは、僕の目には新しい世界のようで。
「じゃ、帰ろっか!みんなで一緒に!」
そして僕らは新しい一歩を踏み出した。




