悪役令嬢
新連載、はじめました!
どうぞよろしくお願いします!
「はよーっす!」
月曜日の朝。
俺は少しでも休日明けの憂鬱な気分を振り払おうと、おどけた調子で教室に入る。
「おはよ! “かっちゃん”!」
ニコニコと笑顔で挨拶を返してくれたのは、“星崎優奈”。俺の幼馴染だ。
ああ、俺の名前は“倉本数馬”って言うんだけど、優奈の奴は子どもの頃の愛称の“かっちゃん”でいまだに呼び続けてる。
もう高二だし、恥ずかしいからやめてくれって頼んでも、『アタシだけはかっちゃんって呼ぶの!』と言って一向に聞いてくれない……。
「オッス! ところで……頼む! 今日の数学の課題写させて!」
「えー! かっちゃんまたしてこなかったの!?」
朝の挨拶もそこそこに、俺は優奈に向かって拝み倒す。
そんな俺を、優奈は呆れた表情で見るが、俺は知っている。
「……もう、しょうがないなあ。アタシに感謝してよ?」
「スマン! 恩に着る!」
結局、優菜は俺に甘いからこうやって助けてくれるのだ。
ということで、俺は優奈から渋々ノートを手渡されると、早速自分の席に……って。
「……今日も休み、か……」
隣の席を眺めてポツリ、と呟く。
あの席には、クラス……いや、学年でも有名な“悪役令嬢”と呼ばれる女の子の席だ。
そんな彼女は、四六時中クラスの連中に文句を言っては、「フン!」と鼻を鳴らすのが癖だった。
俺がクラスの奴と騒いでは「ウルサイ」と冷たい視線で注意され、優奈に課題を写させてもらっては「たまには自分でやってきたらどうなの?」と蔑む視線で馬鹿にされ、授業中居眠りしてると消しゴムのカスを俺に投げつけながら嘲笑する……って、アレ? 俺への扱いヒドクナイ?
……まあ、これは俺に限った話じゃなくて、クラスの連中の大半が彼女から俺と同じ……いや、その半分くらい同じ目に遭っており、その口調も態度も“悪役令嬢”のソレだから、そんな渾名がついたって訳だ。
でも……そんな彼女は、冬休みが明けてから、急に来なくなってしまった。
もうすぐ三学期も終わりを迎え、三年に進級しようというのに、あれから一度も学校に来たことはない。
とはいえ、クラスの連中は彼女がいなくなってせいせいしているようだし、かくいう俺もほんの少し気になる程度で、それ以上でもそれ以下でもない。
それに、今では堂々と授業中も居眠りできるしな……って、それどころじゃねえ! サッサと課題を写さないと!
俺は自分のノートと筆記用具を取り出し、必死で優奈のノートを写した。
◇
——キーンコーン。
「よっし! 授業終わり!」
放課後になり、俺はいそいそと帰る支度をする。
「かっちゃんは今日もバイト?」
優奈が俺の席へやって来て、俺の顔を覗き込みながらおずおずと尋ねる。
「おう、そうだけど?」
「そっかー……ね、今度の日曜日、ちょっとアタシに付き合って欲しいんだけど……」
「日曜? んー……」
日曜か……今のところバイトも入ってねーなー。
「いいぞ」
「ホント! 絶対だよ! 約束だからね!」
俺はオッケーの返事をすると、優奈は嬉しそうにガッツポーズした。
つか、そんなことくらいで喜びすぎじゃね?
「おっと、早く行かねーと店長に怒られる。んじゃ、俺は行くからな」
「うん! バイバイ!」
優奈と別れ、俺は学校を出て早足でバイト先のファストフード店へと向かった。
「おはようございまーす!」
「あ! 数馬くん! 待ってたわよ!」
従業員口から入るなり、バイトの先輩で大学生の“久遠佐那”さんがぱああ、と笑顔を見せた。
……こういう時は、大体店が修羅場の時だ。
「すぐに入ります!」
「よろしく!」
俺は更衣室に飛び込んで大慌てで店の制服に着替えると、早速カウンターに入る。
うわあ……行列がすごい……。
「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりでしょうか!」
久遠さんの隣に並び、目の前の客を捌いていく。
そのまま一時間、ひっきりなしにやって来た客がようやく落ち着いてきた。
「数馬くん、カウンターはもう大丈夫だから、フロアの清掃をお願い」
「分かりました」
俺は消毒スプレーと拭き取り用のウエスを持ってフロアに出ると、ゴミ箱に溜まったゴミを回収したり使用済みのトレイを片づけたりする。
そして、空いているテーブルを拭いていると。
「あ……」
窓側奥の席……ここは、“悪役令嬢”の彼女が店に来るたびによく利用していた席。
そういやいつもこの席で勉強してたっけ……。
ここって、カウンターからよく見えるから目につくんだよなあ。
つか、今日に限って何で彼女のことが頭に浮かぶんだろ?
まあいいや。
俺は雑念を振り払うようにそのテーブルを丁寧に拭くと、また別のテーブルへと移動した。
◇
「お疲れさまでしたー!」
「お疲れさま! 今日は大変だったわねー!」
久遠さんがンー、と伸びをする、
すると、その巨大なお胸様がものすごく強調された。
「あ……数馬くんのエッチ!」
「へ!? あ、や、ち、違うっすよ!?」
ヤベ、久遠さんの胸に釘付けだったのがバレた。
「もう……ま、まあ、別にいいけど……」
すると、久遠さんが恥ずかしそうに俯きながらそう呟いた。
え、いいの?
「と、ところで数馬くんはまだ帰らなくて大丈夫なの?」
「あっと、本当だ」
時計の針はもう九時半を過ぎていた。
「じゃあ、俺は失礼しますね」
「お疲れさま。また明日ね」
着替えを済ませ、俺達は店を出て家路につく。
「あー……すっかり遅くなっちまったな」
や、久遠さんと話すの楽しいから別にいいんだけど、まだあと四日も学校あるからなー……。
そんなことを考えながら駅に向かって歩いていると。
「……ん?」
公園で、一人の女の子がベンチでたたずんでいた。
だけど、あの子……。
「ひょっとして……“四条”、さん……?」
それは——俺のクラスの“悪役令嬢”、“四条桐華”だった。
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