後悔
ご覧いただき、ありがとうございます!
新連載第二話!
「ひょっとして……“四条”……?」
公園のベンチに一人たたずんでいた女の子。
それは、俺のクラスの“悪役令嬢”、“四条桐華”だった。
だけど……彼女、あんな感じだったっけ?
腰まで伸びる艶やかな黒髪、少し切れ長の菫色の瞳に通った鼻筋、桜色の柔らかそうな唇、肌は透き通るような白さで、その容姿は間違いなくうちの学校でも一番だと思う。
とはいえ、その自信過剰で誰に対しても苛烈な性格のせいで、生徒達の印象は最悪だけど……。
遠くから眺めるそんな彼女の姿からは、あの自信たっぷりな雰囲気は微塵も感じられない。
それどころか、ジッと下を見て、俯いていて……。
「…………………………」
気がつけば、俺は彼女のところへと歩を進めていた。
「あ……」
「……よっ、久しぶり……っ!?」
俯く彼女に声を掛けると、彼女は顔を上げた。
俺は、その彼女の顔に思わず息を飲んだ。
だって……彼女の印象がまるで違ったから……。
その艶やかだった髪はぼさぼさで少し乱れ、顔もやつれて頬がこけていた。
何より、あの自信に溢れていた菫色の瞳に光はなく、どこまでもくすんでしまっていた。
「ふふ……本当に久しぶり、ですわね……」
彼女は俺を見つめ、乾いた笑みを浮かべた。
「こ、こんなところで何してんだよ……」
「ん……ちょっと……」
苦し紛れに俺はそう尋ねると、彼女はそう言って瞳を伏せた。
「……クラスの連中も、四条のこと心配してるぞ?」
俺も含めて、クラスの連中は彼女が来なくなってせいせいしてるのに、何故だか分からないけど、俺は心にもない嘘を吐いてしまった。
「ふふ……嘘。みんな私がいなくなってせいせいしてるくせに」
「…………………………」
彼女は震える声で答える。
……失敗した。
俺の言葉は、ただ彼女を傷つけただけだ。
「……それでも、さ。たまには学校来いよ。俺だって、隣からいつも文句言う奴がいねーと張り合いがねえ」
俺は取り繕うようにそう言うと、今度は彼女がクスリ、と笑った。
「ふふ、倉本さんは相変わらず、ですね」
「何だよ、相変わらずって。ソッチこそ、相変わらず俺への扱いがヒデーな」
まるで学校に来なくなる前のような悪態を吐いた彼女に、俺は少しだけ嬉しくなる。
「なあ……本当に、さ。学校に……「行かない」」
彼女は、俺の言葉を遮って明確に拒絶した。
「……ううん、行けないが正しい、かな。とにかく、そういうことだから」
「は? そういうことって言われても分かんねえよ。とにかく! 俺はお前がいねーと張り合いがねーんだよ!」
少しイラっとした俺は、強めの口調で彼女にそう言い放つ。
すると。
「ふふ……本当に、相変わらず……なん、だから……!」
彼女の瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ出した。
「なあ、一体どうしたんだよ……お、俺でよかったら相談に……って、オ、オイ!?」
突然彼女が立ち上がる。
そして、走って俺から逃げ出し、公園の入口でクルリ、と振り返って仁王立ちすると。
「……私は、ずっと倉本さんが……好き、でした……っ!」
「っ!?」
無理やり作ったような微笑みと絞り出すように零れたその一言を残し、彼女……四条は走り去ってしまった。
「……何なんだよ」
俺は彼女の告白に戸惑い、頭をガシガシと掻きながら、しばらくその場で立ち尽くしていた。
◇
「はよーっす!」
次の日の朝、俺は昨日の朝と同じテンションで教室に入る。
少しでも、昨夜の気分を変えたくて。
「おはよ! かっちゃん!」
いつも通り優奈が傍に寄って来て、挨拶をしてくれた。
「オッス! ところで……あ、今日は頼むモンないわ」
「なによソレ!」
そう言うと、優奈は苦笑しながらツッコミを入れた。
うんうん、少しだけど調子が戻ってきた。
——キーンコーン。
「あ、HRが始まるぞ」
「じゃ、また後で!」
優奈が手を振りながら席に戻る。
俺も早く自分の席に向かうが……どうしても、隣にある四条の席が目に入る。
はあ……また昨日の事思い出しちまった……。
俺は額を押さえながらかぶりを振ると、なるべく隣の席を見ないようにして席に着いた。
——ガラ。
扉を開け、担任の横井先生が教室の中に入ってきた。
だけど……何だか様子がおかしい。
「えー……HRを始める前に大事な報告があります……うちのクラスの四条桐華さんが、昨日お亡くなりになりました……」
「はあ!?」
先生の言葉に、俺は思わず立ち上がった。
や、だって、俺は昨日、公園で彼女に会って……!?
「なんで!? だって彼女は……!」
「倉本くん! お、落ち着きなさい!」
「かっちゃん!?」
先生につかみ掛かろうとする俺を、優奈が身体を張って止めた。
「だ、だけど……俺、昨日……!」
「……四条さんが亡くなった原因は、私も聞かされておりません。詳しく分かったら、また皆さんにお知らせしますから」
「かっちゃん……ほら、席に戻ろ?」
「…………………………」
狼狽する俺を、優奈がそっと支えながら席に連れて行ってくれた。
だけど……彼女が、死んだ……?
◇
「…………………………」
学校が終わると、俺はバイトもサボって家に帰り、ベッドの中に一人潜っていた。
目を瞑ると、昨日の彼女の微笑みとあの言葉が脳裏に浮かぶ。
『……私は、ずっと倉本さんが……好き、でした……』
あれは……彼女の、必死の心の叫びだったんじゃなかったんだろうか……。
もし、俺がそんな彼女の叫びに気づいていたら。
あの時、走り去る彼女を追い掛けて、捕まえていたら。
彼女の言葉に耳を傾け、寄り添っていたら。
そんな、後悔めいたことばかりが頭の中をグルグルと駆け巡る。
「俺……そんなつもりじゃ……」
あの時声を掛けたのだって、たまたま偶然彼女を見かけたからで。
俺の知ってる彼女と、雰囲気が違ったからで。
俺の中で、後悔が溢れる。
ボロボロだった彼女に寄り添えなかったことに。
そんな彼女に声を掛けてしまったことに。
「俺は……俺は……!」
彼女を忘れてしまえと、俺は頭を抱えてうずくまる。
だけど、そんなことは全然無理で……彼女は俺の頭から消えてくれなくて……。
「もし……あの時……いや、それよりももっと前から彼女に寄り添ってたら、こんなことにならなかったのかな……」
そう呟くと、俺は……後悔を抱えたまま……いつの間にか、眠りについた。
◇
——ドン、ドン。
「兄貴ー! 起きろー!」
「んう……」
部屋の向こうで、歳が一つ離れた妹の“佳代”がドアを叩きながら叫んでいた。
……結局あのまま、寝ちまったんだな……。
俺は仕方なく起き上がり、近くにあったスマホの画面を見ると、朝の六時十五分を表示していた。
……つか、朝まで寝てたのかよ……。
——ガチャ。
「もお! いつまで寝てんのよ! ……って、起きてるんなら返事くらいしてよね!」
「お、おお、スマン……」
しびれを切らして部屋の中に入ってきた佳代に、俺は手を挙げて謝る。
「ホントにもー……私も今日は入学式だし、遅刻する訳にはいかないんだからね!」
「スマンスマン……って、入学式?」
突然、佳代がおかしなことを言い出したぞ?
「おい佳代……お前、頭は大丈夫か?」
「はあ? 兄貴、朝からケンカ売ってる?」
そう言うと、佳代はギロリ、と俺を睨んだ。
「だってそうだろ? 今は三月だし、お前が入学したのは去年だぞ?」
「はあ……よりによってこんな日に、寝ぼけるのもいい加減にしてよ……」
佳代はこめかみを押さえながらかぶりを振る。
や、そうしたいのはコッチのほうなんだけど。
すると。
「ん」
「? スマホ?」
突然、佳代は自分のスマホ画面を俺に見せた。
「ええと……これがどうかしたか?」
「日付、見てみなよ」
日付っつってもそんなの、今日は三月……って。
「はあああああああああああああああ!?」
俺は思わず大声で叫ぶ。
だって……スマホは、去年の四月七日を指していたんだから。
お読みいただき、ありがとうございました!
本日は三話投稿!三話目もこの後投稿いたしますのでどうぞよろしくお願いします!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




