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夜に葬る 3

 僕は頷く。

「犯人は【藍沢葵】だ。」

「バスケ部エースで、あんたの知り合いだって男ね。

 でもなんで?

 B組で起きた盗難犯は、【一之谷一黄】じゃないの? だって私、奴の家でたくさんの女子の携帯10人分見つけたわ」

「それで合ってるよ。盗難犯は【一之谷一黄】。彼は1時間目の後の休み時間に盗難をした。

 ところで、話によると、その休み時間、B組全員の記憶が消されてたっていうじゃないか。

でも、葵は1限の後に静井さんの怒鳴り声が隣のクラスにまで聞こえた、って言ってた」

「なるほど、葵くんもボロを出したわね」

 つまり、葵は記憶が消えていなかった。B組で記憶が消されていない人、それが、記憶を消す能力を持った「犯人」ってことになる。

「一之谷一黄は、たまたまその時間に盗難をした。それで、間違って、盗難事件が記憶泥棒と関わりがある気がしてたんだ」

「でも葵くんは盗難していないんでしょ? だったらどうして記憶を消す必要があったのかしら?」

「そこがわからないんだよ。

 というか、さっき僕は『犯人は【藍沢葵】だ。』って言ったけれど、葵がやったと明確に言えるのは【記憶を消したこと】だけ。

 安在が刺されたときも、記憶が消されていたから、葵が安在を刺した犯人である【可能性は高い】けど、断言はできないな」

「まだ、解らないことが多いわね。でも、記憶を消す超能力者が誰か、はっきりしただけで進歩よ。

 今日の夜にでも彼の部屋に再潜入して、手がかりを探すわ」

 自然の摂理で、今日の焼肉は僕のおごりだった。

 しかし、そんな嫌な気もしないのは、カレンの言ってた通り、一歩前進したからなのだろうか。

 カレンと別れて――しかし、なにか嫌な気配、――や、人の気配か?――のようなものを感じながら、僕は帰路についた。


【7月18日 放課後】

 授業を終えて、僕はカレンの通うお嬢様校へと出向いた。

 昨日の夜以来、カレンから何の連絡もないので、しびれを切らした、というわけだ。

 メールをしても返信がなかなか来ないので、仕方なく校門で、カレンが出てくるのを待つ。

 いやはや、女子校の校門に男子が立つというのが、これほどハードなことだったとは。

 30分程待って、やっと見慣れた彼女の姿を見つけた。

「おい、4万払うんだから、返信するとか、連絡をする義務はあるんじゃないか?」

 するとカレンはキョトンとして、

「え?」

 と言う。え?じゃない。

「別に急かすわけじゃないけどさ、昨日は結局、どうだったんだ?」

「は?」

「は?って

藍沢の部屋に行くとか言ってなかったか?」

 すると、カレンは至極真面目な顔で、

「あなた、誰?」

という。

「……誰って?

おいおい、僕の存在――」

僕の存在忘れたのか?


と、冗談で言うつもりで、それが冗談でない可能性に気が付く。

藍沢葵は僕と同様、他人の記憶を消す力を持っている。

もし、彼が僕が葵の能力を嗅ぎつけていて、僕の協力者がカレンだと気が付いたら?


「僕のこと、知らない?」

「知りません、すみません」

「いえ、いいんです。

僕こそ、人違いだったみたいで」

 怪訝そうに首を捻り僕を見るカレンを置いて、僕は足早にその場を去ることしかできない。



 自分の部屋で、僕は一人、天井を見上げる。

 そもそも彼女を巻き込んだこと自体が間違いだった。これは僕の問題だったのだ。

 カレンから消された記憶は僕の存在だけだろうか?

 僕の知らない、カレンの大切な思い出まで消されてはいないだろうか?


 敵は葵だ。

でもカレンが居ない今、僕はどうしたらいい?

まがいなりにも超能力を授かってさえ、僕はこんなに無力だっただろうか?


 僕はそっと、自分の額に手を当てる。

「カレンが僕を忘れた」ということを、「忘れて」しまえるように。


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