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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
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9話

オークとギガント・ゴーレムを討伐を終え、プリムが『再生術』を使った次の日の昼頃、シン達はトリムに到着した。馬車を御者に任せて、荷物を宿に置いてから町に出た。

シンは、宿屋でゆっくり寝たかったのだが、女性陣から却下された。面倒がるシンを、サリナがトリムがあるポラミア地方がキルマイア王国に接していることを理由に、プリムを護衛するようにと説得した。元々、プリムの気晴らしのためだったから拒否しづらかったし、拒否してものんびりできそうに無かったので、シンは渋々ついて行くのを了承した。今は逃げられないように、サリナとミュリンがシンの左右を固めている。


「久しぶりにベットで寝られると思ったのに」


「いつまで言ってるんですか、まったく」


サリナが、いつまでもグチグチ言うシンに呆れる。


「だって、家のベットはプリムが使っているからなあ~・・・・・それで、何処に行くんだ?」


「おっ買いっ物」


楽しそうにミュリンが答える。買い物ならお金がいるな、と考えたシンはプリムを呼んだ。


「なんですか?」


「ちょっと手を出して」


「はあ」


プリムが首を傾げながら右手を出してくる。その小さな手のひらに、金貨を1枚置いた。


「あんまり金持ってきてないだろ。」


「は、はい。でも、いいんですか?」


「お前には腕を治してもらったからな。その報酬だと思ってくれればいい。欲しければもう少し出すぞ」


「い、いえ、充分です。ありがとうございます」


プリムが、恐縮した様子で礼を言ってくる。ちなみに、まだ受け取ってはいないが、チーム『ブルーバード』がこなしたオーク討伐の報酬は銀貨40枚だ。チーム『ブルーバード』は四人だから単純に考えて、1人銀貨10枚になる。銀貨10枚あれば、半月はそれなりの暮らしができる。金貨1枚は、銀貨の100枚分だから、一度の買い物ではかなりの大金だ。ちなみに銀貨は銅貨100枚になる。

それを見たジルとミュリンが呆れる。


「あいつらの金銭感覚はおかしい」

「だよねえ、金貨って」


「あはは、『秘術』は身分の高い人でないと習得が認められないことが多いですから、プリムさんもきっと元は身分が高い人なんでしょう。シンさんは、まあ、あれですから」


ライラがそうフォローすると、今度は矛先がライラに向いた。


「そういうライラの家も金持ちだけどね。」


「うっ」


ライラが少し気まずそうに目を逸らす。ライラの実家は、運輸関係を営む豪商だ。ライラの家は、経済大国のグンダーラ王国内でも、それなりの資産を持っている。言ってしまえば、ライラはお嬢様みたいなものなのだ。お嬢様のライラがギルドに所属しているのは、親の方針らしい。幼少期はお嬢様のように育てられたライラは、最初の頃はギルドに所属することに否定的だったが、サリナ達と出会ってからは、ギルドに所属してよかったと思っている。


「サリナも親がギルドマスターだし、俺とミュリンだけなんか普通だな」


「そうね。私達って普通だね」


不貞腐れる二人を見て、サリナとライラは苦笑いを返すことしかできなかった。


トリムは女性に人気な町なだけあって、おしゃれな店が多かった。店の様式も様々で、レンガの建物はもちろん、島国であるヤマト和国の特徴である木を基調にした和式のお店や、獣人の狸族が営む毛皮や紐と石で作った首飾りを売っている店などもある。まあ、色々なお店があるのは、グンダーラ王国ではさほど珍しいことではない。そしてほとんどの店がそうなのだが、どの店も掃除が行き届いているらしく、清潔感があった。客層の多くが女性のためだろう。

今はトリムに何度か来たことがあるらしいライラに、道案内をしてもらって、ショーウインドウーが並ぶ通りを歩いている。


「この熊さん、かわいい~」


そう言ってテディベア専門店のショーウインドウーに張りついているのは、意外なことにサリナだった。ショーウインドウーに飾られているテディベアに見とれているサリナからは、普段の大人びた感じが無くなっていた。

そんなサリナをジルがだらしない顔で眺めていた。確かに分かり易いやつだ。


「入らないのか?」


「えっ!?い、いえ、私は別に」


サリナが誤魔化そうとするが、それは無理だろう。


「なんで隠すんだ?」


「私には似合いませんから。・・・じゃなくて、興味ありません!」


サリナが顔を赤くして否定してくる。うろたえるサリナは珍しく、とても可愛かった。このままだと、いつまでも店内に入りそうになかったので、プリムに店にはいるように耳打ちした。プリムは得心して、店に入って行った。


「あっ、プリムさん!まったく、勝手な行動をされては困ります。し、しかたありませんね。お、追いかけましょう。」


言い訳をしながら、サリナがプリムを追ってテディベア専門店に入って行く。シン達は、そんなサリナを微笑ましそうに見ていた。

テディベア専門店に入ると、サリナは自分を抑えられなくなった。具体的に言うと、全てのテディベアを観賞する勢いで、目をキラキラさせて店内を見て回り始めた。そして最終的にたどり着いたのは、1.5メートルの巨大なテディベアの前だった。サリナはかれこれ30分程、大きなテディベアをずっと眺めていた。さすがに、待ちくたびれた。


「買わないのか?」


「私には似合いませんから。それにギルドマスターの娘が、こんな子供っぽい趣味は持てません。」


誤魔化すのは諦めたようだが、それでも買おうとはしなかった。サリナは、ずっと周りからギルドマスターの娘として扱われてきた。大戦終了後すぐに父がギルドマスターになり、サリナは子供の頃からよく大人たちと話す機会が多かった。そのためか、サリナは体裁を気にするようになった。

テディベアを買っても誰も気にしないと思うのだがな。シンをギルドに呼ぶときは、あまりそのあたりのことを気にしないのに、どうでもいいところを気にする奴だ。


「ギルドマスターの地位は世襲制じゃないんだから、あまり気にする必要は無いと思うぞ。」


シンはそう言ってサリナの頭を手でポンポン叩いた。最近よく女の頭をなでるなあ。それに、普段の大人びたサリナもいいが、テディベアを抱いているサリナも、なかなか可愛いかった。その証拠に、サリナがテディベアを抱い時、それを見たジルが幸せそうだった。


「でっ、どうするんだ?」


「・・・・・やめておきます。この大きさだと馬車にのらないですし」


「郵送してもらえばいいだろ」


「配達はお金がかかりますから。」


欲しいくせに、何かと理由をつけて買おうとしないサリナ。そのくせそこから動こうとしない。


「そういや、アルフレッドに、手紙出していないな。」


「父に手紙ですか?」


「寄り道しているからな。依頼が無事に終わったことを伝えないと、アルフレッドが心配するだろ」


俺が付いていて、依頼の心配はしていないだろうが、元々イレギュラーの可能性があったし、今はプリムという不安要素もあるからな。


「ああ、そうですね」


「手紙のついでにそのテディベアも俺が買って、一緒にお前の家に送ろう。」


「・・・・・えっ」


サリナは迷った。家に郵送するなら、買っても家の人にしかわからない。この時のサリナは、テディベアが欲しいという気持ちと、シンに対しての遠慮の間で揺れた。サリナが迷っている間に、シンは店員を呼んでしまった。


「これをくれ。ついでに手紙と一緒に配達も頼む。」


「かしこまりました。どちらに配達しましょう」


店員さんに、サリナの自宅を教える。ついでに手紙の配達も頼んだ。


「ありがとうございました。バーミア地方は近いですから、配達料は銀貨1枚であう。そちらのテディベアは特注なので、銀貨20枚になりますので、合計銀貨21枚になります。」


「た、たかい」


サリナ達の今回の依頼の報酬一人分より高い。ぬいぐるみの値段としてはかなり高価だ。しかし、シンが金額を気にする訳もなく、金貨を1枚を取り出して支払った。サリナが止める暇もなかった。店員が店の奥から、銀貨が78枚入った袋を持ってきて、シンに渡した。


「いいんですか?こんな高価なものを」


「日頃の礼だ。プリムの先生役をしてくれていることもそうだが、お前の作る飯はうまいからな、感謝している。これからもよろしくな。」


プリムの先生みたいなのをしてくれて、本当に助かっているし、飯もまともな物を食えるようになった。昔の食生活には、あまり戻りたくない。

サリナにとって、シンの率直な言葉は、少しこそばゆかったようだ。頬が少し赤くなり、目を逸らした。


「い、いいですけど。ずいぶん率直に言いますね?」


「大事なことだぞ。言いたいことは、言える時に言ったほうがいい。」


サリナはシンが戦争に参加していたのを知っている。そのため、シンの言葉には説得力を感じた。そういう経験があるのだろうな、とサリナが思っていると。


「てっ、誰かが言っていたぞ」


「経験談じゃないんですか!」


サリナが珍しく声を荒げる。


「俺、ガキだったから、結構ズカズカ言ってた気がする。」


「そ、そうですか。」


「でっ、なにか言いたいことは?」


「・・・・・ありがとう、ございます。・・・・・後、ライラで遊ぶのは、ほどほどに。」


「善処しよう」


シンがそう答えたところに、ミュリンが近づいて来て、サリナに後ろから抱き付いた。


「見てたよ~。あのテディベアを買ってもらったみたいだね。いいな~。ライラはお仕置きしてもらうみたいだし、プリムには頬にキスで、わたしだけ何もないな~」


ミュリンがちらっとこちらを見てくる。おねだりされているらしい。お仕置きやキスがテディベアと同じ扱いなのはよく分からなかった。


「機会があったらな」


「これはシンさんからの感謝の証なの。ミュリンは特にないでしょ」


サリナがどことなく得意気だ。ミュリンがムッとした表情をみせたが、すぐに引っ込めて本当の理由を言ってきた。


「はいはい。こっちが本題なんだけど、サリナがいいなら、次のお店に行かない。テディベアは嫌いじゃないけど、1時間はきついわ」


店内を回るのに30分、巨大テディベアの前で30分、合計で1時間以上もこのお店にいるのだ。サリナはともかく、特に思い入れの無いほかの人にはきつかった。そのことにサリナは気づいて気まずそうに、ミュリンの提案に賛成した。


「そ、そうですね。」


「それじゃあ、次いこーーー」


そう言ってシン達は、テディベア専門店を出て、別のお店に向かった。


・・・

・・・

・・・


それから数時間後


「・・・・・女の買い物に付き合うのって、こんなに疲れるのか」


シンがウンザリした様子でベンチに座っていた。


「当たり前だろ」


何を当たり前のことを、といった感じのジルがシンに呆れた表情を向ける。


「当たり前なのか」


「なんだ、親戚に女はいなかったのか?」


「知らん」


「知らない?」


「会ったことないからな」


シンの声からは何の感情も伺えなかったが、居心地の悪さを感じたジルに、その話を続ける度胸はなかった。


「そ、そうか、まあこれからはプリムさんの買い物に付き合うことも増えるだろ。」


「サリナにもね」


そこにいつの間にか近くに来ていたミュリンが、茶々を入れてきた。ジルが感じた居心地の悪さは、いつの間にか無くなっていた。


「うっせーな」


ジルが、鬱陶しそうにミュリンを見やる。サリナやプリム、ライラに接する時と比べて、よく言えば気易い、悪く言えばぞんざいな態度だった。


「長い付き合いなのか?」


「同じ村出身なんです。幼馴染みみたいなものですね」


「へえ~いいな。こんな可愛い幼馴染みがいて」


「うるさいだけだ」


「なによ、サリナとお近づきになれたの誰のおかげだったかしら?」


二人はそのまま舌戦を始めてしまった。仲が良いことは良いことだ。ちなみに舌戦はミュリンの方が優勢だ。幼馴染みか、シンがいた傭兵団にも同じくらいのガキはいたが、幼馴染みになるのだろうか。

ここにいる奴らはどうだろう。サリナは同居人で、『ブルーバード』はサリナのチームメイトだ。プリムはどうだろう?同居人で片付けるのは簡単だが、どうもしっくりしない。

ジルとミュリンに聞いてみるか。


「君らから見て、俺とプリムはどんな関係に見えていた?護衛だとわかる前だ」


尋ねられた二人は言い争いをやめて少し考えた後で答えてくれた。


「あんたとプリムさんか?最初は男と女の関係かとも思ったけど。後々考えると無いな。精々兄妹ってところだ。」


「そうだね~家族に見えないこともないかな。岩場で手を貸してるところとか、お兄さんぽかったですよ。」


家族か・・・・・今まで仲間はいたが、家族はいなかったから、よくわからなかった。シンなりに考えてみた結果、家族は大事にするもの、という結論に至った。そういえば、『魔寄せ』だったとはいえ、プリムのペンダントを壊したことがあった。そのことを思い出したシンは、ある店を探して歩き出した。


「ちょっと出てくる。」


「「えっ!?」」


「夕食頃には、宿屋に戻る」


そう言ってシンは、歩き出して人ごみに紛れて見えなくなった。ジルとミュリンは、あまりに唐突だったので、止めることも、追いかけることもできなかった。そこにサリナが近づいてきた。近くにシンが居ないことに気づき。いつもより少し低い声でジルとミュリンに尋ねた。


「シンさんは?」


「どっか行っちゃった。」


「・・・・・はあ、またですか」


シンには、依頼に出る前に、説明なしで先にクルセウスに行った前科がある。


「後でお仕置きですね。今は放っておいて、次に行きましょう」


だんだんシンの勝手な行動になれてきたらしく、すぐに受け入れて次のお店に移動した。


それからサリナたちは何件かお店を回ってから、ショッピングを堪能した後で、休憩がてらケーキ専門店に入ることになった。ジルは甘いものが苦手らしいので、荷物を宿に持っていってもらった。なので、今は女だけになっている。自然と話の方向が、女だけで話せる内容になっていった。


「この中で好きな人がいる人、挙手!」


ミュリンがそんなことを言うが、もちろん誰も挙げない。ミュリンは一人で、ハイテンションになっていた。


「まあ、挙げるのは期待していないわ。だから、最近接することが増えた男について話したいと思います!わかってると思うけどお兄さんのことね。私は、なんか色々ズレてるけど、総合的にはいい人だと思う。サリナは?」


「怠け者ですね。勝手にどこかに行くし、いつも外でお昼寝したり、ダラダラしてますから。」


サリナが酷評を口にする。まあ、事実なのだが。

そう言った後で、テディベアをプレゼントしてくれたのを思い出し、少し照れた様子でサリナが付け足した。


「まあ、感謝もしていますし、すごいとは思いますけど」


「へえ~~普段のお兄さんってそんなんなんだ。ところでプリムとお兄さんってどうやって知り合ったの?」


「魔物に襲われているところを、助けていただいたんです。青く光ったと思ったら、いつの間にか目の前にシンさんが居て、大きな黒狼を倒して、魔物を追い払ってくれたんです。」


その時のことを話すプリムの表情は幸せそうで、シンのことを信頼していることが伺えた。


「ふ~ん、それで好きになったんだ?」


「す、好きとかでは、嫌いでは無いですけど。」


プリムが、顔を真っ赤にして俯く。まだ、気になる異性くらいのものらしい、これからどうなるか楽しみだ。そして私はこの話の本命である、さっきからずっと沈黙しているライラに話しかける。


「で、ライラは?」


「なな、な、なにが?」


明らかに挙動不審のライラ。


「お兄さんのこと、気になってるんでしょ」


「えっ!?あ、えと、・・・・・まあ」


誤魔化せないと思った照れながらライラが肯定した。


「あの時のお兄さんかっこよかったもんねえ。」


ミュリンが言っているのは、〔AA〕ランクの魔物『ギガント・ゴーレム』との戦いのことだろう。ライラはその時、シンに身を挺して助けられたのだ。

ライラは、助けられる時に、ギュッと抱きしめられたのを思い出して、少し顔を赤くする。その後、沈んだように顔を俯かせる。


「ねえ、私ってシンさんに敵意剥き出しだったし、助けられて好意を持つのってどうなのかな?それに私の所為で怪我を」


ライラが不安そうに聞く。ライラは最初のころシンのことを、サリナに纏わり付く悪い虫のように思っていた。しかしいざ戦ってみると、あっさり負けた。それも手加減されてだ。その後もライラは、獣人にとってデリケートな尻尾を触られたこともあって、素直にシンのことを認められなかった。そのためライラは、シンを避けていた。昨日、ギガント・ゴーレムの攻撃から、シンに助けられたことと、その時の圧倒的な力に魅せられて、シンに惚れてしまったのだ。


「だからこそじゃん。あれは、好きになっても仕方ないと思うよ。怪我は治ったんだし、謝罪より、お礼だよ。なにか、ないの?」


ミュリンがライラの背中を後押しすると、おずおずとライラは自分の考えを口にした。



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