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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
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8話


お仕置きをするのを約束してからも、ライラは罪悪感が無くならないらしく、シンの傍でなにかと世話を焼こうとしていた。


「あの、腕大丈夫ですか?冷やしますか?」


今はそういいながら、魔法陣を描こうとしている。


「じゃあ氷をくれるか?さっきまで感覚がなかったんだが、今になって痛み出した。」


そう言ってシンが顔を歪める。するとシンの火傷を見てから、ずっと黙っていたプリムが口を開いた。


「シンさん、ちょっといいですか?」


この時のプリムからは、のんびりした様子はなく、今まで見たことがないほど真剣な表情だった。

プリムは、シンの傍にしゃがんで腕の状態を確認する。腕を診断する動きには淀みがなく、手馴れている雰囲気だった。その後、プリムの言葉が皆を驚かせた。


「今からシンさんの腕を治します。」


「あんた治癒術が使えるのか!?」


驚くジルに皆が呆れる。治癒術では、火傷を治せない。ギルドに所属する『メンバー』なら常識だ。皆から冷めた視線を向けられて、ジルは気まずそうに押し黙る。

火傷に対して治癒術でできるのは精々応急処置ぐらいだ。だがプリムは治すと言った。そしてシンは一つだけ治す方法を知っている。確かに、医術と薬術の国、キルマイア王国の王族のプリムなら、その方法を使える可能性はある。

プリムが腕に触れ、緑色の魔法陣が浮かび上がる。


「始めます」


プリムの言葉と共にそれは始まった。

シンの左腕が白く淡い光に包まれた。すると、焼け爛れ、肌色のほとんどなかった腕に新しい皮膚ができ皮膚が戻っていく。


チーム『ブルーバード』の面々は、その光景を唖然とした表情で見ていた。シンの腕から火傷が消えるのにさほど時間はかからなかった。白い光が消えると、今度は緑色の光が発生した。

緑色の光は普通の『治癒術』なので、この頃になると『ブルーバード』の面々の思考が動き出した。


「な、何ですか、今の!?」


ミュリンが『ブルーバード』を代表して、プリムに問いかけると、プリムがビクッと身体を震わせる。


「え、えと、今のは、その・・・・・えと」


プリムにとって、この術は知られたくないことだった。恩人であるシンさんが、苦痛に顔を歪めるのを見て、この場で使う決心はついたが、その後のことまで考えていなかった。

知られた以上は誤魔化すことにあまり意味はない。たとえ黙秘しても、プリムが火傷を治せることが知られたことに変わりはないのだから。

この力のことが広まれば、またシンやサリナに迷惑をかけることになるかもしれない。いや、かけてしまうだろう。本来治せないとされる火傷を治せる術には、それだけ価値がある。もしかしたら今の生活が壊れてしまうかもしれない、プリムはそれがとても怖かった。


「えと・・・その・・・・・うう」


とうとう泣きだしてしまった。『ブルーバード』の四人が困惑する。それを見かねたシンが代わりに答えた。


「『再生術』だ。」


プリムが驚いて顔を上げてシンを見る。


「知ってるんですか?」


「昔、ちょっとな」


プリムは結構驚いているのだが、シンの態度は平然としたものだった。気になって仕方なかったミュリンが、説明を求めた。


「『再生術』ってなに?」


「死んだ細胞を再生させることができる。火傷はもちろん、極端な話し、腕を生やすことも可能だ。キルマイア王国に伝わる『秘術』だ。」


正確には、キルマイア王国の王族と公爵家にだけ許された術だが、そのことは一応伏せた。『秘術』は、秘されるから意味がある。それもどんな外傷も治すことができる『再生術』は、キルマイア王国の極秘と言っていい。


バカのジル以外は、プリムが訳ありだと理解して、表情が固くなる。

それに気づかないジルがはしゃぎだす。


「すげえ。その術があれば、怖いもの無しだな。」


「リスクはあるぞ。『再生術』は無理な再生を促す術だから、寿命が縮むらしい。」


「げぇっ」


「だから途中から普通の『治癒術』を使っていただろ」


「そういや、そうだったな」


一人納得するジル。シンは、話を続けた。


「・・・・・ここからが本題だ。プリムは、『再生術』が原因で狙われている。俺はプリムの護衛をしている。」


シンが言った護衛というのは、誰かにどうしてもプリムとの関係を話さないといけない時のために、前もって決めていた仮の関係だ。


「『再生術』については秘密にするように。マスターから命令する許可は取ってる。」


シンが、ギルドマスターの署名付きの許可証を見せてきた。そこにはシンが、ギルド『青竜の爪』の『メンバー』に、依頼に関係する情報の口外を禁止することを命令することを許可する、という内容が書かれていた。

それを『ブルーバード』の四人は、少し疑問に思った。ギルドにはいくつかルールがあって、その内の一つにSクラス(S~SSSランクのこと)の『メンバー』は、Aランク未満の『メンバー』に命令することができる、という物がある。もちろん、命令内容には制限があるし、内容によっては拒否もできる。それにSクラスの者が命令することはほとんど無いし、そもそも数が少ない。Sクラスの居るギルドは稀だ。

『ブルーバード』の四人は、ギガント・ゴーレムとの戦いを見て、シンがSクラスなのではと予想していたのだが、わざわざ許可証を取っている所から見るとAクラスなのだろうか?と疑問に思ったのだ。


ちなみに大戦でSクラスも大勢死んだし、生き残った者も利用されることを嫌い、Sクラスのほとんどが隠居している。どの国も魔窟の対策にSクラスの力を求めたが、Sクラス達の隠居は生半可なものではなく、見つけるのは困難を極めた。


「・・・・・・・」


四人がシンのランクについて考え込んでいると、いつまで待っても、秘密にする、という返事が無いのことに痺れを切らしたシンが、返答を促してきた。


「返事は?」


「は、はい。わかり、ました。」


歯切れは悪いが、了承はしてくれた。

そういえば聞いておかないといけないことがある。


「俺達といると危険なことがあるかもしれない。一緒に行動するのが嫌なら、別行動を取る。どうしてほしい?」


シンの言葉を聞いたプリムが、ビクッと体を震わせ、顔が強張る。

同居しているサリナが、真っ先に答えてくれた。


「私はプリムさんと一緒に生活して、人柄を知っていますから、なんの問題もありません。」


それを聞いたライラとミュリンも答えてくれた。


「私も大丈夫だよ。私達の前で『再生術』を使ったのって、お兄さんのためなんだよね。お兄さんが私達も守ってくれるなら問題なし。」


「プリムさんは、私の所為で怪我をしたシンの腕を治してくれました。たとえ訳ありでも、私はプリムさんが『再生術』を使える人で本当に良かったと思います。」


「危険かもしれないぞ」


「お兄さんがいればきっと大丈夫。なんたって〔AAダブルエー〕の魔物を一人で倒しちゃうんだから」


力を見せたのがいい方向に働いたらしい。『ブルーバード』の四人は俺達を受け入れてくれた。プリムの表情から硬さが取れていく。


「プリム、友達になろう」


さらにミュリンがそう言ってきた。


「えっ、・・・・・はい。」


プリムが一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに笑みに変えて嬉しそうに答えた。

するとミュリンがプリムに抱きついた。サリナがこちらを見て、手振りで何かを催促してきた。そこで出発前にサリナと話していたことを思い出した。


「提案がある。帰るときに、トリムに寄らないか?折角新しい友人ができたんだ。友好を深めるといい」


トリムとは、バーミア地方から南にあるポラミア地方の北端にある町だ。ポラミア地方は、キルマイア王国と接しているため、北端にあるトリムに領主が屋敷を構えている。国境付近にも貿易用のガウスマルという町があるが、城塞都市の役割もあるため何処と無く重苦しい感じがする町で、その空気を領主が嫌い、トリムに屋敷を建てたらしい。

ポラミア地方の領主は、女領主だ。貴族制度の弛いグンダーラ王国でも、女領主は珍しい。そしてこの女領主は、女性向けの服や装飾品の商売に力を入れている。おかげでトリムの店は女性向けの商品の品揃えが豊富で、とても女性に人気がある町なのだ。

そのため、シンが提案すると女性陣からは、すぐにいい返事が返ってきた。


「賛成ーー」

「賛成です」


トリムと聞いて『ブルーバード』の女達からいい返事が返ってきた。ジルは彼女達に従うようだ。ただプリムからは


「あの、私のことは気にしなくても」


山小屋を出る前に、サリナに外出したいと、話したことを思いだして、自分に気を使っていると思ったようだ。まあ、当たりなのだが。だが、それだけではない。


「俺は火傷を負った時、正直に言うとクルセウスに帰るつもりだったんだ。だけど、お前が俺の腕を治してくれた。だから、あれだ、トリムに行けるのはお前のおかげでもあるんだ。気にするな。」


「は、はい」


「腕、ありがとな。助かったぞ。」


「はい・・・はい。・・・ぐす」


プリムがまた泣き出してしまった。シンは意味がわからず、珍しく困惑する。


「ど、どうした?」


「お役に立てたのが、嬉しくて、ぐす、私、迷惑ばかりかけてたし、『再生術』も迷惑になると、でもシンさん、ありがとうって、うえーーん」


プリムがマジ泣きを初めてしまった。


「ど、どうすれば、いい?」


シンは困惑して、周りに助けを求める。この場にアルフレッドがいたら爆笑していたかもしれない。サリナ達も、〔AA〕の魔物を倒したシンが女の涙に慌てる姿が面白くて、悪乗りして助け船?を出した。


「まずプリムを抱き締める」

「次に頭を優しく撫でてください」

「そして最後に、頬にキスです」


もちろんサリナ達は冗談のつもりだった。だったのだが、それを聞いたシンは、傍らで泣いているプリムを、言われた通りに抱き締めた。


「ひゃっ」


プリムは小柄なため、シンの胸の中にすっぽり納まった。プリムが驚いて泣き止む。次に、薄い桃色の髪を梳くように丁寧に撫でると、プリムが少し嬉しそうにする。

最後にシンは、腰を曲げて顔を近づけると、プリムのやわらかそうな頬にキスをした。プリムの顔が、一気に真っ赤になった。あわあわしている姿が可愛らしい。思わず、もう一度抱きしめてしまった。


「あうあう」


「おお、泣き止んだ」


恥ずかしがるプリムを見て、シンがずれた発言をする。


「な、なななな、何してるんですか!?」


サリナ達はシンの暴挙に、しばらくの間呆然としていたが、シンの場違いな言葉を聞いて、サリナが問い詰める。


「お前らがやれっていったんだろう?いいじゃないか、泣き止んだんだから」


「そうですけど。嬉し泣きは泣かせておいてもいいんです。それに抱き締めた時点で、プリムさん泣き止んでました。それなのに、キ、キスなんて」


自分で言っておいて少し赤くなるサリナ。


「うん?昔、キスは挨拶みたいなものだと聞いたぞ。されたこともあるし」


シンの答えに、一番反応したのはライラだった。


「だ、誰ですか!?」


「昔の戦友」


「・・・・・女性ですか?」


「さすがに男にはされたくないな」


シンが懐かしそうに目を瞑る。

ライラがムッとしてシンを見る。

ライラは、懐かしそうにするシンを見て、自分が嫉妬してることに気づいて、顔を赤くして俯く。シンはライラが俯いたことに首を傾げる。

サリナも、その女性について聞きたかったが、シンが言った昔という言葉を大戦時の仲間のことだと察して、話題を打ち切ることにした。大戦にシンが参加していたことはチームメイトには秘密なのだ。


「そろそろトリムに向かいましょう。日が暮れます。プリムさん大丈夫ですか」


未だに目をグルグルさせているプリムを、サリナが連れていく。

シンも移動しようとしたらライラに呼び止められた。その声が何処と無く固い。シンは、怒っているのかとも思ったが、そうでも無さそうだ。どちらかと言うとモジモジしている。

なかなか喋らないので、シンの方から促した。


「どうした?」


ライラは戦友である女性のことを聞こうと思ったのが、聞くためのうまい理由が思いつかなかった。でも呼び止めた以上は何か言わないと、と悩んだ末、言った言葉は


「え、え~と、ちゃんと罰のこと考えて置いてくださいね!・・・・・(わ、私は何を言っているんでしょう)」


「ああ、わかった。(やっぱりマゾ)」


後半は小声で言った。


「聞こえてますよ!た、確かに変態ぽかったですけど、わたし変態じゃありませんから!」


ライラは失敗と恥ずかしさを誤魔化すように、顔を真っ赤にして怒る。その頭の上で猫耳がぴょこぴょこ動いていた。以前のことを思い出して、悪戯心を刺激されたシンは、ライラの可愛らしい猫耳を触ってみた。


「にゃん!」


ライラは不意打ちで尻尾並みに敏感な耳を触られて、猫みたいな声を出して座り込んだ。あまりに自然に手を伸ばしてくるので、ライラは反応できなかった。ライラに睨まれるが、全然怖くなかった。頬を染め、ウルウルした瞳で上目遣いで睨まれても可愛いだけだ。ライラは尻尾の件といい、妙に弄りたくなる子だ。

そんなことを考えていると、ミュリンとジルから冷たい視線を向けられる。少し気まずくなって、シンはその場から逃げるようにサリナとプリムを追いかけた。



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