表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだ俺だけが、世界崩壊前に戻れる』  作者: Y.M
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/18

「死者からの通知」

 ――その日、日本中のスマホが、一斉に鳴った。


 授業中だった。


 五月の湿った空気。窓際の席。眠気と戦いながら、黒板の数式をぼんやり見ていた俺――天城ユウは、突然鳴り響いた通知音に顔を上げた。


 ピコン。


 ピコン、ピコン、ピコン。


 教室中のスマホが震えている。


「な、なんだこれ……?」


 教師が眉をひそめた瞬間、教室の空気が変わった。


 全員のスマホ画面に、同じ文字が表示されていた。


【選定開始】


【適合者を確認】


【“門”を開きます】


「は?」


 誰かが笑った。


「ドッキリ?」


「新作ゲームの広告じゃね?」


 だが、その直後。


 教室の中央に、“黒い亀裂”が走った。


 空間そのものが割れたような音。


 女子の悲鳴。


 机が倒れる。


 黒い裂け目の奥には、底の見えない闇が広がっていた。


「な、何だよあれ……!」


 教師が後ずさる。


 だが次の瞬間、裂け目から“腕”が伸びた。


 人間の腕ではない。


 皮膚が黒く、骨のように細長い指。


 それが、一番近くにいた男子生徒の首を掴んだ。


「え――」


 引きずり込まれる。


 悲鳴すら最後まで出なかった。


 血だけが飛んだ。


 教室が凍りつく。


「逃げろおおおおお!!」


 誰かが叫び、全員が出口へ殺到した。


 椅子が倒れる。


 窓ガラスが割れる。


 泣き声。


 怒号。


 スマホの通知音だけが、不気味に鳴り続けていた。


 俺も走った。


 意味なんて分からない。


 ただ、本能が叫んでいた。


 ――ここにいたら死ぬ。


 だが、廊下へ飛び出した瞬間。


 学校中が地獄になっていた。


 至る所に黒い裂け目。


 逃げ惑う生徒。


 化け物。


 血。


 叫び声。


 現実感が、なかった。


「う、うわあああ!!」


 前方で教師が何かに食いちぎられる。


 俺は吐きそうになるのを必死に堪え、階段へ走った。


 逃げろ。


 とにかく逃げろ。


 だが。


 途中で、足が止まった。


「……っ」


 聞こえたのだ。


 女子の声が。


「た、助けて……!」


 階段下。


 一人の女子生徒が、化け物に追い詰められていた。


 長い黒髪。


 制服の袖が裂け、足を怪我している。


 同じクラスの――白峰レナ。


 学校でも有名な、美人で、近寄りがたい雰囲気の女子。


 その彼女が、涙を浮かべていた。


「いや……来ないで……!」


 化け物が迫る。


 黒い犬のような姿。


 目が赤く光っている。


 俺は震えていた。


 怖かった。


 逃げたかった。


 今なら、まだ助かるかもしれない。


 でも。


 レナと目が合った。


「……!」


 助けを求める目だった。


 気づけば、俺は近くに落ちていた消火器を掴んでいた。


「うおおおおお!!」


 全力で振り下ろす。


 鈍い音。


 化け物の頭が揺れる。


「グルルルル……!」


 だが、効いていない。


 赤い目が、俺を見た。


「やば――」


 一瞬だった。


 化け物の爪が、俺の腹を貫いた。


「がっ……!?」


 熱い。


 いや、冷たい。


 視界が揺れる。


 口から血がこぼれた。


「天城くん!!」


 倒れる。


 力が入らない。


 死ぬ。


 本能で理解した。


 怖い。


 嫌だ。


 まだ何もしてない。


 こんなの、あまりにも――


 その瞬間。


 スマホが震えた。


【死亡を確認】


【ユニークスキルを付与します】


【《死者帰還》を獲得しました】


 直後。


 世界が、反転した。


 ――気づくと。


 俺は、教室の席に座っていた。


 授業中だった。


 五月の湿った空気。


 黒板の数式。


 そして。


 ピコン。


 スマホが鳴った。


【選定開始】


【適合者を確認】


【“門”を開きます】


「……は?」


 全身から汗が噴き出した。


 腹を押さえる。


 傷はない。


 だが、痛みだけは残っていた。


 夢じゃない。


 今、確かに俺は――


「死んだ」


 その瞬間。


 教室の中央に、黒い亀裂が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ