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誰ヵ之半妖物語 平成への道のり  作者: アワイン
誰ヵ之半妖物語 名前と記憶を忘れた彼女と無表情な彼
6/34

3 直文


 あの子は蛇人の姿で現れていた。


 彼女の口から全てを思い出したと聞き、俺はまた(あやま)ちを犯したとわかった。彼女の気持ちを傷付けないよう時期を見て話す、予定だった。なのに、逆に傷付けてしまった。


 彼女は全てを思い出して、俺の隠し事を見破る。

 

 俺が悪いのに彼女は悪くないと言う。彼女は泣きながら自分の身の上を話す。俺をここから追い出そうとしていた。


 此処から去れない。俺は彼女を救いたい。


 俺に彼女は表情を与えてくれた。神と名乗る化け物をその身で封印している彼女。優しさ故に身を(てい)した封印をしている。

 ほっとけない。助けたい。

 強引に追い出そうと彼女は蛇となって、襲い掛かろうとする。

 俺は妖怪と戦い慣れている。彼女であるから怖くないけれど、泣いている女性の(なぐさ)めは慣れてない。泣かせてしまった彼女をどうすればいいのか。思いついた行動を俺はとる。


 両手を広げて、受け止めた。抱き締めて、彼女を受け入れる。悲しみと負わせてしまった心の傷を受け入れる。彼女の気持ちの全てを受け入れたかった。

 

 肩を噛まれたときは痛かったけど、どうってことはない。彼女は驚いていた。俺は彼女を抱きしめて感じる。肌は蛇の感触とはいえ、その奥にあるのは彼女の温かさ。

 謝って、(なぐさ)めて、(はげ)まして。

 彼女の涙を指で拭いて、彼女の蛇の舌が俺の肩の傷口を拭う。痛くないように、血だけを拭き取ってくれていた。くすぐったくて身をよじると、彼女は不安げに見てくる。

 安心させて、自身の傷を癒やす。その後に俺は彼女に説明をした。

 頓与殺の化け物から彼女を剥がす。一部である為、苦痛は感じるだろう。まだ不安がある彼女の気持ちをほぐす。

 大丈夫。絶対に君を救う。君を守る。君に花火を見せると。

 化け物扱いをしないのかと訪ねるが、君は化け物ではない。口でいいかけて、俺は先を言うのをやめる。


 むしろ、化け物は俺の方だ。


 俺は妖怪だけでなく、人を殺している。酷い殺した方したこともある。仕事の一貫とはいえ人を殺しても、殺したあとでも俺は何とも思わない。

 彼女は人を傷付けて苦しんで悲しんだ。まだ彼女は人だ。俺は彼女を人として、天に送りたい。合図が聞こえて、俺は彼女に準備をするように言う。


 彼女は苦しみ始めた。痛そうだった。舌を噛みそうで怖い。代わりに俺の反対側の肩を噛むように言う。一瞬躊躇(ちゅうちょ)したけど、彼女は肩を噛んでくれた。

 鋭い痛みはなく、背中に手を回される。

 驚いて彼女を見ると、人の姿に戻っていた。ああ、彼女から化け物が引き離れつつある。だが、殺気を感じた。彼女を捕まえようとする殺気。封印した彼女を殺すか、取り込むつもりか。



 させない。させるつもりはないっ!



光明(こうみょう)!」


 彼女と俺の中に光を出して、頓与殺の化け物から遠ざける。地の底から悲鳴が聞こえた。彼女を通して痛みを与えている。この光は穢れのあるものにしか痛みを感じない。

 

 完全に引き剥がれてはないが、後もう少しだ!


頓与殺(とみよさつ)の化性よ! お前に彼女を渡すものかっ!

彼女は天に、お前は地獄(じごく)()される。禁忌(きんき)を犯した者よ。これより、我等組織がお前の死刑を執行する!」




 意識を失った彼女をつれて、村から出ていく。

 彼女を村から出せる。つまり、頓与殺(とみよさつ)の封印ではなくなった事を示す。彼女は頓与殺(とみよさつ)眷属(けんぞく)ではない。もうほぼ幽霊の状態だ。

 

 横抱きにして、彼女の顔を一瞥(いちべつ)した。安らかな顔をしている。よかったと言う安心感と寂しさを感じた。何故、寂しさを感じるのか。わからずに仲間と合流する。村を一望できる場所に茂吉とその他の仲間もいた。



「お疲れさん。その子を預かるよ」

「ありがとう」

「丁重に扱うから任せて」



 彼女を引き取ってもらい、俺は村の方向を向く。頓与殺の神社があった部分から、建物を壊して化け物が突き出てくる。

 人の顔を持った蛇が、人の脚を多く生やしていた。多くの手と、蜘蛛のように幾つの目がある。

 今までの巫女──身内を取り込み、人を食ったのだろう。どれだけ彼女を苦しめたのだろう。

 身のうちから沸々(ふつふつ)と炎のような感情が来る。



 俺は声をあげた。

 人ではない鳴き声。高い笛の音を出す。麒麟(きりん)の鳴き声は凶を、不吉を払う。俺を傷つけた彼女に災厄が降りかからぬよう、彼女のために鳴いた。同時に、俺は黄金の(ほむら)に包まれた。

 人の耳を無くす。代わりに竜の耳と二本の角を生やした。黄金の瞳に長い髪はほどかれる。武官の軽装と申し訳ない程度と鎧と皮の靴。

 白い首巻きをつけ直して、俺は宙に浮かぶ。



「行ってくるよ」

「……なおくん。分かりやすくなったね」

「えっ? もっくん。顔に表情が出てたのか?」


 驚くと茂吉は楽しそうに笑う。


「うん、スッゴク鬼の形相。いいね、殺る気満々じゃん。麒麟(きりん)の血を半分に引くくせに闘気満ちてる。本当に穏やかな性質もってんのって言いたくなるよ」


 麒麟(きりん)は基本的に争いを嫌い、殺生は好まない。だが、やむ終えない場合は戦うと言う。俺の場合は半分人の血を引いているのか、殺生と争いはやれる。

 ……何度もやれるというわけではない。麒麟の血のお陰で、俺は優しいと言われるのかもしれないな。

 考えている内に、茂吉は変化していた。人の耳をなくして狸の耳と尾っぽを生やしている。僧侶に似た着物に包まれていた。もっくんはにこやかに笑う。


「安心して行ってこい。なおくん。隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)の半妖の俺と仲間が、きっちりとこの子を守ってあげるからさ!」

「ありがとう。もっくん」


 感謝して、すぐに頓与殺(とみよさつ)の村へ向かう。

 最初は飛んでいこうと思った。彼女の封印の関係で、変な刺激を与えたくなかった。もう思い出してしまったため、言い訳にすぎない。





 俺は頓与殺(とみよさつ)の化け物の目の前に浮かぶ。化け物は俺を見て、驚いていた。


[貴様、半妖だったか]


 知っている口ぶり。なるほど、彼女を通して俺の行動を見ていたか。茂吉が俺を置いていって正解のようだ。俺の姿を見て、化け物の口がにたりと笑みを形作る。



[麒麟の半妖か。面白い面白い。貴様を食えばどれだけ力を得るか]

悪食(あくじき)だ。あの先生の方がましだな」


 あの人の方が魔を喰らうからましだ。素直な感想に化け物は不機嫌そうな顔をする。舐めているのかと言う顔だ。


[誰かは知らんが比べられては困るなっ!]


 俺に向かって、液を吐き出す。避けると、液が当たった森の辺りが溶け始める。

 溶解液か。ああ、生物の住み処と木々がやられたな。そんなことを考えて、俺は数本の針を宙に出して両手でつかむ。言霊を吐く。


金剛(こんごう)(しゅ)


 針が紅く輝く。

 勢いをつけて飛ぶ。化け物は溶解液を吐き出し続けるが、避けながら化け物に針を投げつけた。足と手。顔に数本深く刺さり、痛みにより化け物の顔が歪む。液を吐かなくなった所で攻撃を仕掛けた。


明散(みょうさん)


 指を鳴らし言葉を吐くと、針の刺さった部分が光り出し、爆発し始める。


[ぎぃぃぁぁぁっ!]


 化け物は悲鳴を上げた。

 痛いだろう。苦しいだろう。だが、彼女を苦しんだのはこんなものではないはずだ。彼女の苦しみは彼女にしかわからない。それでも、相応の苦しみを与えられるはず。


 だとしたら、一気に殺すなんて勿体無(もったいな)い。


 俺は懐から四枚の紙を出す。人の形をした物。赤い文字、青い文字、黒い文字、白文字で書かれたもの。式神の札。これには先輩の力を込めて貰った。宙に投げて、言霊を吐く。


顕現(げんげん)


 俺の姿をした式神が現れた。色違いの俺が複数いるのも滑稽だな。式神の俺は化け物を見て、怒りの形相を向ける。鋭い眼光を、殺意を化け物に向けている。ああ、俺はあんな顔をしていたのか。式神は俺の感情と連動していた。



 さぁ、なめた化け物を苦しめよう。



 俺はきっと鬼の形相であの化け物を見ている。





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