3 彼女
体に力がでてこない。ううん、当然と言えば当然なのだろう。目を開けると、私に気付いて男性が明るく笑う。
「あっ、起きた?」
茂吉さんだ。声をだす気力もなく、呆然と彼を見る。彼の耳は人ではなく、狸で彼も半妖なのだと見てわかった。
自分が何をしていたのか。あの化け物から私が剥がされて、封印ではなくなった。ああ、剥がされた後、私は気を失って……人じゃなくなっても気を失うんだなぁ。
「動けないでしょう。あの化け物から剥がして、力が削がれたからね。封印が解かれて、君の名は頓与殺の封印ではなくなった。君は自由だ。成仏できる」
自由。成仏。
聞いて目頭が熱くなる。肌に涙が伝う感覚がある。
ああ、直文さんの言葉通りだった。
君を救う。君を守る。こんな名無しの私でも守ってくれた。
[────っ!]
人ならざる悲鳴が聞こえた。あの、化け物の声。
「ほら、あいつが倒してくれているよ」
茂吉さんは私に見せてくれた。
化け物の足は全て切断されて、体は大きな光の刺で身動きを封じられている。たくさんの手は焦げたあとしかない。
抉れた箇所がいくつかある。
四人の色の違う直文さんがいた。彼らが化け物を鎖のようなもので捕らえている。化け物の顔は歪んでおり、ボロボロと泣き崩れていた。
[助けて助けてもうやめて許して]
驚くしかなかった。あの恐ろしい化け物が情けない姿で、直文さんに命乞いをしている。茂吉さんは恐々として笑みを浮かべていた。
「いやぁ、あいつの憤激した姿は初めて見た。余程、許せなかったみたいだね。一気に片をつけられるはずなのに、じわじわ苦しめていってたよ」
直文さんがとても怒った。そんなに激しく怒るほどだったの?
「君、不思議そうな顔をしているね」
茂吉さんに言われて私は驚く。顔に出ていたようだ。彼は明るく笑う。
「大切な人を傷つけられたら怒るって、耳に入れたことあるけど。それじゃないの?」
大切な人。
私が、直文さんにとって大切な人。
思うと、心がなんだか温かいものに満たされた。けど、胸が苦しい。ドキドキしてきて切ない。彼の事をたくさん考えると、たくさんの涙が出てくる。
我が儘な願いが生まれる。彼と一緒にいたい。彼の傍で生きていたいと。
ああ、こう思うなら、彼と早く会いたかった。
美しい音色が響き渡る。
麒麟の鳴き声。直文さんの声だ。色の違う直文さんは四方に散った。彼はその中央に立つ。風にのって声が聞こえた。
「四方に顕現せよ。南に朱雀、北に玄武、東に青龍、西に白虎。余はその中央に在りし者」
四人の直文さんは、其々の色の光に変える。その本人は髪の色を黄金に変えていく。光の加減によっては五色にも見えた。月のない夜に黄金の月が現れて、私は微笑んでしまった。
直文さん。やっぱり貴方は『夜空の化身』だったのですね。
「煌々と瞬きし執行の光を黒き者に。さあ、浄土と地獄を見せよう」
四方の光が直文さんに集まる。段々と光が帯びていく。黄金の瞳を開いて、言霊を使った。
「輝天光獄」
黄金の光の柱が彼の中心に展開する。光の柱は段々と大きくなり、化け物ごと村を呑み込む。まるで、村の全てを浄化しているみたい。けど、とても優しい光だ。




