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ガランドゥ『仮想現代戦記』  作者: 扇屋
ガランドゥ 6話 『切れぬのは血の縁』

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34/220

6-6

【13】


 カルラはギターのネックを掴み逆手に持つと、駆け出してクーヤーに振り下ろす。祭具のギターを鈍器として運用し、何度も彼女の拳と打ち合いを続ける。すかさずそこにカーラーが現れて彼を襲うが、ギターを振り回して彼女を遠ざけ、すぐさま彼女に雷撃を放つ。しかし、それはあらぬ方向に飛んでいった。

「あ、あれ何ですか!?」

「兄貴の権能『サンダー』効果は高威力の雷撃を放つこと」

 何度か雷撃を放つも明後日の方向に飛んでしまい、当たらずにカーラーの接近を許してしまう彼。

「命中率が低いのがたまに傷」

「駄目じゃないっすか!?」

 大振りのギターで二人を狙う彼だが滑り込んで避けられ、彼の背後の双子は同時に蹴り飛ばす。衝撃でよろけるカルラだが、意地で振り返ると再び雷撃を放った。運良くそれはカーラーの脇腹を貫通し、焼け焦げたことで出血はなかった。

 彼女が姿勢を崩して着地する。

「クソっ!」

「カーラーあれを使おうよ」

「……そうだね」

「させるかああ!」

 嫌な予感がして乱入した粳部。負傷したカーラーに追い打ちをかけようと殴り掛かる彼女だが簡単に躱される。クーヤーとカーラーが交互に入れ替わりながら攻撃を仕掛け、フェイントを織り交ぜたフェイントが彼女の体を砕いた。

 だが、海坊主は既にクーヤーの足を掴んでいた。浮き上がる彼女の体。

「しまっ!?」

「今です!」

「レジェあれをやるぞ!」

「了解!」

 レジェが携帯をクーヤーに向けて撮影する。粳部はサンダー兄妹が何を考えているのかが分からない。しかし、彼らはやる時はやる人間だと心から信じている。彼らならばやってくれると、そう信じてサンドバックになりながら海坊主に指示を出していた。

 しかし、相手が悪かった。

「司祭第三形態」

「……はっ?」

 双子が粳部の知らない単語を呟く。瞬間、攻撃を凌いでいた彼女の体をカーラーの腕が貫通する。頑強さがまたランダムに低下したのかと思う粳部だったが、体から薄緑色の結晶を生やしたカーラーを見てその考えが消え失せる。目の前に居る殺気立った生き物は正しく怪物だ。

 粳部が血を吹き出す。

「粳部!」

「邪魔」

「馬鹿!レジェ!」

 よそ見をしたレジェの下に高速で接近する薄緑色の結晶を生やしたクーヤー。いつの間にか海坊主の腕を引き千切っていた彼女が腕を伸ばす中、ギリギリ間に滑り込んだカルラが彼女の代わりに攻撃を受けた。両腕で掴んで止めるものの威力を殺すことはできず、彼の腹を腕が貫く。

「ロックな一撃じゃねえか……!」

「このおおおっ!」

「カルラさんっ!?」

「やけに元気……」

 動こうとした粳部だったが、カーラーが突き刺していた腕を振り上半身と下半身が泣き別れになる。今までに感じたことのない破壊力。反射の司祭や飾身を超えるその力は、グラスに届きそうな威力だった。正に、次元が違う。

「うおりゃあああ!」

 カルラが至近距離から雷撃を放つ。クーヤーはすぐさま腕を引き抜いて下がり、雷撃の中を駆けていく。乱射したことで一発は当たるかと思われたが、運が悪いことに圧倒的な速度で全て回避されてしまう。しかし、避けるということは当たりたくはないということ。

 腹に穴が空いていてもカルラは戦い続ける。

「こいつゴキブリか……!」

「はあ……はあ……」

「兄貴、準備できた!」

 祭具の携帯電話を片手に彼の肩を支えるレジェ。既に彼女はクーヤーの写真を撮影している。準備ができた以上、これから起きることはもう確定していた。

 彼の周囲に電流が迸る。

「これで決める!」

 レジェには二つの権能がある。過去の音声を再生する『留守電』と、写真を撮影した相手に攻撃が必中する『メール』だ。法術も権能も、効果や攻撃を理屈を無視して必中させる権能。

「(必中の条件は携帯のカメラで撮影すること!)」

「(そんで!この必中効果はレジェ以外にも渡せる!)」

 カルラから放たれた電撃が双子へ向かって直進する。クーヤーに標的を設定したそれは命中することが既に決まっていた。しかし、それは二人の間をすり抜けて明後日の方向に向かう。当たる事はない。

 状況を理解できずに困惑するサンダー兄妹。

「こんなの……当たらなければ」

「あり得ない!私の権能が外れるなんて!?」

「やむを得ないか!」

 二人で交互に入れ替わりながら直進する双子と応戦するサンダー兄妹。重症のカルラの拳は空を切り、双子は連携してヒットアンドアウェイを繰り返す。

 レジェはその連携を乱そうとクーヤーに横から肘鉄を食らわせるものの、すぐさま現れたカーラーに殴られて怯んでしまう。高速の貫手をギリギリで躱したものの腕が切り裂かれた。

 カーラーは追撃しようと拳を上げるが、その腕を既に再生した粳部が掴んだ。

「なっ!?」

「好き勝手させるもんですか!」

 手を振りほどき拳と拳を衝突させる二人。衝撃で粳部の腕が破裂するものの、壊れたそばから治し攻撃を受け止める。その様を見てカーラーは異常さに動揺する。もし彼女が考える通り不死身だったとすれば、どう倒せばいいのか。その隙を突き、カーラーの背後から海坊主が殴り抜ける。

「ぐううっ!?」

「粳部!」

「そういや嬢ちゃん不死身だったな!」

「それよりこれからどうにかしますよ!」

 粳部が喋っている内にチョップが彼女の肩を切り裂くものの、近寄ったカーラーを唇を噛みながら殴り投げ飛ばす。カーラーは空中で姿勢を立て直すと、地面に片足を着けた途端に加速して粳部の視界から消えた。

 クーヤーも加速すると周囲を高速で跳び回り、兄妹は必死に敵を目で追う。

「俺がゴキブリならお前は羽虫だぜ!」

「私が二人を分断します!じゃなきゃ連携に勝てない!」

「でもどうやっ……」

 レジェが言い終える前にカーラーの腕が粳部の首に突き刺さる。突然のことに驚くレジェだが全ては粳部の段取り通り。粳部は手元から鎖を出してレジェを自分ごと巻き付ける。しかし、彼女の鎖の強度では今の双子の筋力には敵わない。すぐに鎖を粉砕してカーラーは自由の身になる。

 連携を乱そうとする彼女の意図を察知し、クーヤーが姉の下に駆け出す。

「カーラー!」

「させねえ!」

 カルラは姉の下へ向かうクーヤーをギターで弾く。すかさず雷撃で追い打ちをかけるものの、圧倒的な速度で避けられて当たることはなかった。しかし、回避で生まれた隙に接近したレジェがドロップキックを命中させる。咄嗟に両腕で受け止めたもののこれで姉の下へは向かえない。

「その不死身ウザったい!」

「死ぬほどウザイですよ!」

 粳部の頭を粉砕しようと拳を振るうカーラーだが、彼女は致命的なことに気が付いていなかった。先程から海坊主が姿を見せていないことに。自分と粳部に落ちる影を見て何かが上にあると見上げると、そこにはいつかの時のように全身から針を出した巨大な海坊主が居た。

「なっ」

 海坊主は変幻自在。質量も面積もランダムだが、今回はトラック以上の質量で大量の針を備え降ってきた。カーラーが耐えられるかは別として、まず駐車場のコンクリートの床は耐えられずに崩落する。それは粳部自身を巻き添えにした分断作戦。両者が針に串刺しになることを前提にした作戦。

 三階から一階まで穴を空けて落ちていく彼女らをレジェが見下ろす。

「な、なんて奴……」

「だが、これで分断できたぜえ!」

「……一人だろうとカーラーは負けない」

 依然として本調子のクーヤーと腹に穴が空いた重傷のカルラ。そして、攻撃力の乏しいレジェが三階で向き合う。戦力差は激しく分が悪いことは事実。だが、あの連携攻撃を封じたのであれば勝機はある。

 彼が穴の下を指差す。

「レジェは下で嬢ちゃんの援護!いいな!」

「一人で奴と戦うのは無理!今の兄貴じゃ」

形態変化けいたいへんかを使う!」

 それを聞いてレジェは苦い顔をする。司祭の形態変化けいたいへんか、それは全てを賭けた最悪の手段。目の前の双子の圧倒的な性能も形態変化けいたいへんかによるもの。ならばそれを使えばこの状況も少しはマシになる。当然、神が求めるその代償は重いのだが。

「……何も忘れないでね」

 レジェは寂しげな目でそう言いい穴に飛び降りる。それと同時に彼も上着を破り捨てギターを構えた。目の前の相手は格上、自分より二つは等級が上のγ相当の実力者。それでもまだ彼の中のロックは鳴り止まない。

「一曲も忘れたくないが……司祭第二形態」

 赤い輝きカルラから放たれ、突風が吹くと共に周囲を電気が迸る。自身の大切な概念を切り離す代わりに概念防御がいねんぼうぎょの強度を上げる司祭の手段。他者を拒絶することで強まる拒絶の力。それが司祭の最終手段、形態変化けいたいへんかだ。





【14】


 立体駐車場の一階、瓦礫が積もる穴の下にレジェが着地する。薄暗い影が満ちる一階に上からの光が差し込んでいた。その穴の中心、大きな針だらけの海坊主が瓦礫の上に鎮座している。生死を確認する為に彼女が近寄ると、衝撃と共に海坊主を突き破ったカーラーが飛び出す。

「ちっ、まだ生きてるか」

「何なのこの化け物……これが司祭だって……?」

 瓦礫の中から粳部が這い出て、傷を治しながら立ち上がる。形態変化をしていたカーラーはあまり負傷しておらず、不死身の粳部はすぐに治せる為に両者の消耗はないに等しい。だが、カーラーの体力は無限ではない。ここにレジェという戦力が加わればチャンスはある。

 粳部の横に並ぶレジェ。

「レジェさん、あれ何ですか?異様に強いっすよ……」

「司祭の形態変化、大切な物を捨てた司祭の究極系」

 体中から緑色に光る結晶が生えた司祭の通過点。忘れたくない思い出、趣味、家族、それらを自分の中から削り落とすことで、司祭が核としている概念をより純粋な物に近付ける。人間らしさや生きる動機すらも薄れてしまいかねない最終手段を双子は切ったのだ。

「見て、概念防御が結晶化してる……生半可な攻撃は効かない」

「だ、だからカチカチなんすね」

「……死なない奴なんて居る筈がない。まずお前から殺すね」

 カーラーが殺害を宣言する。彼女は粳部の力の正体を知らず、実際にそれを知る者も居ない。彼女を殺せるかもしれないし殺せないかもしれない。少なくとも、カーラーの圧倒的な身体能力であれば粳部を一方的に虐殺することだろう。

 カーラーが消えたかと思うと、次の瞬間には粳部の頭が百八十度を超えて回転した。一瞬で接近し粳部の首をへし折ったのだ。だが、すぐに首が回転して正しい位置に戻ると粳部とレジェは別の方向に走り出す。

 どうにかして二人で倒さなければならない。

「いでええ!」

「粳部、相手の動きを止められる?」

「や、やれるだけのことはやります!」

 高速で周囲を跳び回るカーラーに対して粳部は鎖を飛ばす。しかし、それは簡単に躱され粳部の脇腹が手刀で切り裂かれる。レジェは携帯を構えてシャッターを切ろうとするが、カーラーの速さのあまり撮影が間に合わない。粳部は海坊主を出すと全身に針を生やして射出させるも、それも躱され彼女は粳部へと進む。

 だが、突然カーラーが足を滑らせる。その足元には海坊主の体が影のように伸びており、泥のようなそれに足を取られて姿勢を崩したのだ。

「こいつ!?」

「今です!」

 レジェがシャッターを切る。携帯のカメラにはカーラーの姿が写し出され、遂にフレームに彼女が捉えられた。そしてレジェの権能の発動条件が揃い、発動する。粳部へ向かっていた筈の彼女が方向転換し、レジェの下に吸い寄せられた。

「何をした!?」

「既に当たってる。それが『必中』」

 何故自分がレジェの下へ向かっているのか理解できない彼女は、彼女の蹴りを受けてようやく止まる。レジェの権能の被写体への必中攻撃は、このように現実を捻じ曲げる。攻撃を考えた時点でそれは当たったことになり、後から辻褄を合わせるように放つ攻撃が命中する。故に、当たる為にカーラーは自然に動く。

 カーラーの反撃をレジェは受け流す。

「やっぱりお前を先にする!」

「ところで音楽の趣味は?」

「ない!」

「つまんない女!」

 レジェの拳は全てカーラーの体に命中する。その圧倒的な速度でも躱すことはできず、せめて攻撃を自分の拳で防ぐことで精一杯であった。防戦を強いられたカーラーは足払いで彼女の姿勢を崩すと、生じた隙に横に回って殴ろうとする。

 だが、そこを粳部のドロップキックが襲う。完全に思考の外であった。

「しつこい!」

「結構です!」

 体勢を立て直したレジェが再びカーラーに殴りがかり、当たることを確信した彼女が咄嗟に防御態勢を取る。一発目の拳は確かに当たり、距離を取ろうとしてカーラーが後退する。だが、彼女は二発目の拳が当たらずに空を切るのを見た。

 カーラーは必中だった彼女の拳が当たらないことに疑問を覚えるが、体が粳部の下に引き寄せられ貫手がその腹を貫く。

 既に必中効果は粳部へと移っていたのだ。

「何っ!?」

「こ、これは!?」

「私の『必中メール』は、送り主を変更して対象を変える」

 戦闘中、レジェは片手で携帯を操作してメールの送信者を変更したのだ。写真を撮った時点で既にターゲットの設定は終了し、後は誰がその必中効果の恩恵を受けるのかを設定すればいいだけ。そして、携帯の画面を見ない限りその対象は分からない。

「おらあああ!」

 粳部の徒手空拳を受け止めながらそのランダムな威力に悩まされるカーラー。絶対当たる粳部の拳を払いながら後退するも、粳部の影から現れた海坊主の針攻撃が全弾命中して突き刺さった。だが、身を捩るとそれら全てを粉砕する。

 しかし、既に粳部は針の破片が舞うカーラーの視界に居ない。

「ッ!?」

 腰を落とした粳部の足払いを受けて姿勢を崩すカーラーに、レジェのドロップキックが必中で当たる。コロコロと必中効果の使用者を変える戦法は正に驚異。これをカルラとやっていれば圧倒的な連携だったことだろう。だが、粳部も引けを取らない。

 カーラーが大きく飛んで柱にぶつかった。

「凄いですね必中……」

「さっき不発に終わった理由が分かった」

「えっ?」

「『双子』だから。双子は同一人物、つまりどちらもターゲット」

 カルラの雷撃が必中にならなかった理由がそこにある。一卵性の双子はお互いがお互いのクローン。故に同一人物であり、片方をターゲットにするともう片方もターゲットになる。そうなれば雷撃はどこへ向かえばいいのかを判断できなくなり命中しない。

「同じ的が二つあって、どれを撃てばいいか分からず権能がバグった」

「じゃあ、二人が離れた今なら!」

「行ける」

 その時、瓦礫の中から飛び出したカーラーが二人に飛び掛かる。必中効果の対象が変わらない内にその対象を潰そうとレジェへ向かう彼女だったが、レジェが携帯を片手で操作するのを見て必中効果が粳部に移ると確信する。

 その進路が粳部の方へと変わった。

「はっ!?」

 だが、体が引き寄せられたのはレジェの方だった。それは完全なるフェイント。彼女はただ適当にボタンを押していただけで必中効果の対象を変更したわけではない。経験則からそうだろうと判断したカーラーの判断ミスだったのだ。

 レジェの拳が彼女の顎に必中する。そして、反対側から粳部も殴る。

「フェイントなんて……!」

 司祭第三形態に到達した彼女の速度は凄まじい。形態変化を使えないレジェでは当然全能力で劣る。だが、カーラーが速度でかく乱しようとしても攻撃を必中させる時には引き寄せられ、必中効果が入れ替わることで追い詰められていく。

 粳部の拳をクロスカウンターで返す彼女だったが、すぐにレジェに引き寄せられて殴られる。もう粳部以外の全員が追い詰められてフラフラになっていた。

 カーラーが片手で携帯を操作するレジェを見る。

「それさえ壊せばあああ!」

 振り払うレジェの手を片手で弾き、カーラーは片手で祭具の携帯を破壊する。しかし、レジェの表情に動揺はない。普段通りの無表情を貫いたまま、勝ったとでも言うように堂々と見つめていた。

「……まさか!」

「とどめえええ!」

 槍の形に変化した海坊主の腕を粳部が掴む。既に必中効果は粳部へと移っている。祭具を失ったことで必中効果の変更はできなくなったものの、権能自体が失われるわけではない。急加速してレジェの権能の効果範囲から脱出しようと試みるカーラーであったが、既に必中の為の引き寄せは始まっていた。

 槍が彼女の腹を貫通する。

「こんな……ことが」

「中々やるじゃん」

「レジェさんこそ」

 勝者は粳部とレジェとして、片方に決着は付いた。

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