帰宅
学徒の彼は船の中でジッとしていたが、ヒカリがずっとそばに寄り添っていた。
どうやら一緒に仕事をして気が合ったらしい。彼もヒカリを邪険にしたりはせず、会った時とは打って変わって穏やかな顔になっていた。
たぶん辛い人生を送ってきて他人から構ってもらったことがなく、優しさに触れたのも初めてだろう。
だが、娘はやらんぞー!
見ていると、彼はハッとして僕に質問してくる。たぶん気づいたな、やはりキレる。
「お前ほどの力があればリアクターが出来上がる前に、建造を止められたんじゃないのか? ジェットを止めるためにわざと、バジルを泳がせてたんじゃないのか?」
「はてさてな? いやー、時計天体を探すのに時間がかかったからね。大惨事にならなくてよかった、よかった」
僕が空惚けると、彼は言う。
「…………大魔王」
「ははははははははは!!」
僕は思わず大声で笑ってしまった。神だ救世主だと言われるより、むしろ清々しい。
実際僕がやってきたことは、見ようによってはズルなのだから。
後日談。
その後彼は事件の証人になってくれた。リアクター製造に関わったとはいえ、利用された彼に罪はなく、誰もが同情して僕達を手伝ったことで賞賛された。
僕は学費と生活費を援助し、彼は無事卒業して文吾さんの弟子になる。
借りを返す気で開発チームに入ったようだが、ヒカリが彼を強く望んだからである。
獲ってきた男は逃がさないのが家訓、そして二人は結婚することになる。
お菊さん・翠さん・小玉が喜んで賛同したので僕も渋々認めるしかなかったが、文吾さんは絶対に彼を受け入れなかった。大事な孫を渡してたまるものか!
「このバカ弟子がー!」
「うるせー、クソ爺!」
そして、毎日のように死合いをすることになる。ああ歴史は繰り返す……。
「お家が見えてきた!」
「わーい!」
窓から外を見て娘達は無邪気にはしゃいでいた。僕は帰るのが恐くて、引きつった笑いをするしかない。
エデンはコッチに向かってきてたようで、予想よりランデブーは早かった。
大型輸送船が近づくと、レーザー光で格納庫へと誘導される。操船はAI任せになり僕達は乗降扉の前で待つ。
船が収容されて着陸すると、隔壁が閉じて気圧調整がされる。
やがてプシューという音とともにドアが開いた。目の前には笑顔の母親達。
「ただいまー!」
「おかえり!」
娘達はそれぞれの母親に抱きつくも、なぜか自慢して張り合ってる子もいる。
僕を連れて帰ってきたことを誇っているようで、頭の良い子ほど負けず嫌いである。
母親がライバルで、輝夜さんは小夜に苦笑していた。
「娘達を連れてきてくれてありがとう、ホリー」
「本当に感謝だわ」
「いえいえ」
ホリーさんはみんなから感謝されていたが、僕とは目すら合わせようとはせず、無視されたままだった。くっ、辛い、やっぱ怒ってるよなー……。
仕方ないので僕はバベルと話す。
「とりあえずは上手くいったよ。船も無事に届いたから何とかなったよ」
『それはなによりですね、正に奇跡だ。しかし作戦は全部バレてしまい、お嬢様方を止められませんでした。申し訳ない』
「しゃーないさ、どうせ娘達に脅されたんだろ? みんな生きて帰ってこれたから結果オーライだよ」
『そうですね。まあ半殺しにされた者もいますが……』
「えっ!? どういうこと?」
僕は驚いて聞く。
『実はもっと早く光太郎と合流できるはずだったのですが、トラブルが起きました。移動してるエデンの前方に十数隻の船が現れたのです』
「あー! そうか」
『その船団は通信を送ってくるなり、「邪魔だそこをどけ!」「避けぬなら撃沈してやる!」と命令してきました。しかも、コッチが返事をする前に威嚇射撃をしてきたのです』
「焦ってたのかもしれないが完全に敵対行動だね。管理者不在の宙域では即戦闘で、殺されても文句は言えない」
『はい、それで奥様方は完全にキレました。ただでさえイラついてたので、般若顔と夜叉顔になってしまいとても恐ろしかったです。美しさの欠片もなくなって、人には見せられません』
ゴクリ、と僕は息をのむ。
『啖呵も凄かったですよ。女暴走族も真っ青です』
「ああん!? 誰に喧嘩売っとんじゃ、ゴラァ!!」
「イキってんじゃねぇぞ、このタコ!」
「いてこましたるわ! おんどりゃー覚悟せぇや!」
『エデンの全武装制限が解除され、やむなく総攻撃を行いました。向こうのビームなど蚊に刺されたほどのダメージもなく、こっちが一方的に袋叩きにして撃滅しました。それでも脱出艇で逃げたので、奥様方が直接乗り込んで捕らえました』
「国の刺繍が入った特攻服を着て木刀を持ってる姿が目に浮かぶな……グループ名は奥様連合。うー、続きは聞きたくない……」
『捕虜は空の倉庫に叩き込まれ、最初は反抗的な態度でしたが、皇帝・女王・大統領達に気づいて震えだしました。現状を理解しペラペラと勝手に喋って、リアクターの暴走とバジルの残党であることを明かしました』
「あー、それを言っちゃおしめーよ。嫁さん達は怒り狂うだけだ」
『その通りです』
「こちとら子供と旦那を連れ戻しにやって来てんのに、邪魔しやがってー!」
「お前らのせいで、私らの家庭は滅茶苦茶になったんだ――――!」
「うんうん、バジル死すべし! 宇宙に存在する価値なし!」
「い、いや! こんなことをしてる場合じゃなくて、早く逃げないと反物質が――ゲフッ!」
「そんなの、うちらの亭主が何とかするわ! 黙ってやられろ!」
『あとは奥様全員で残党をタコ殴り、恨みがこもってましたね。喜久子さんが死なないギリギリを見極めてたので、正に生き地獄。あな恐ろしや、あな恐ろしや。残党達は取りあえず生きてはいます』
「さらに国際宇宙裁判にかけられるだろうねー、死んだほうがマシになるかも…………んっ?」
僕は後ろから肩を叩かれ、振り向くと笑顔の喜久子姉さんがいた……こわいよー!
「光君、あとで部屋に来なさい」
「…………はい、姉さん」
正妻の制裁。僕は一晩中、説教される……。
もうすぐ完結です。




