序章 メアリー・バーンズ
一太郎に書いた文章を直で張っているために、文法無視の書き方になってしまいました。見苦しい形での発表になってしまい、申し訳ありません。
神父ジェラルドはその日の仕事を終え、家路についていた。
「私は、間違っているのでしょうか……」
ジェラルドが今日行った仕事とは、死者の埋葬。それも、自殺者のものだった。
ジェラルドが信仰している宗教は、自殺者の埋葬を認めてはいない。神に与えられた生命を自ら投げ捨てることなど、認められてはいないからだ。
「おとうさーん」
ジェラルドはその声にうつむいていた顔を上げる。すると、そこにはジェラルドの愛する娘メアリーの姿があった。しょぼくれた自分の顔を見られまいと、ジェラルドは娘が近づくわずかな間に笑顔を浮かべる。
「おぉ、メアリー。今日もまた大きくなったね」
「もー、おとうさんはいっつも私が大きくなったって言うけど、そんなに毎日成長してたら、私一体どれだけ大きくなっちゃうのよー」
笑いながら、そう言って肩を叩いてくる娘の姿に、ジェラルドは今日一日で溜まった疲れが消えていくのを感じる。
「子供は日々、様々な事を経験して大きくなるもの。生はどれだけ辛くとも、実り多き素晴らしきもの……」
自らの娘の背中を追いながら、ジェラルドは呟く。
「この世界に、娘が生まれた事に感謝を……」
小さく祈りを捧げるジェラルド。ジェラルドが神に仕えていて最も良かったと思うのは、こうした日々で感じる幸福に対して、感謝を捧げられることだった。
今、この世界を生きる命に敬意を持ち、感謝を神に捧げる。そんな時に、ジェラルドはこの世界を包む神の愛を感じるのだった。
「おとうさーん、早く来ないと置いてっちゃうよー?」
「ああ、今行きます」
祈りを捧げ、今日もまた騒がしくも美しい我が家に帰ろうと、視線を前に向けようとした瞬間、ジェラルドは視界の端に奇妙なものを見つけてしまった。
「あれは?」
最初にジェラルドが見たのは、空に突然光の輪が作られたということだった。たまたま天に祈りを捧げ、空を見上げていたジェラルド以外に気付いたものはいない。
光の輪が広がり、その間から何かが降りてくる。それは、人の形をしているように見えた。
「メアリー、こちらに!」
「え?」
いつのまにか、随分と前を歩いていたメアリーを呼び止める。
しかし、光の輪から現れた巨人は無情にも、メアリーの頭上へと降りてきていた。
「メアリー!」
歯を食いしばり、必死にジェラルドは前に走る。
「おとうさん?」
不思議そうに、心底何をそんなに必死になっているのかわからないというように首を傾げるメアリー。
しかし、メアリーは次の瞬間、巨人に踏みつぶされ、光の粒となった。
「メアリーーーー!」
叫ぶジェラルドを押しのけるように衝撃が走り、ジェラルドは吹き飛ばされる。後ろにあった民家の壁に叩きつけられ、肺の中から空気が叩き出された。しかし、ジェラルドの頭の中にあるのはメアリーのことだけだった。
「メアリー、メアリー……メアリー!」
頭を打ち、ふらついてまともに歩く事ができないジェラルド。しかし、ジェラルドは娘の名前を叫びながら這って、メアリーがいた場所に辿り着いた。
そこには、何もなかった。さっきまでジェラルドの前で笑っていたメアリーの痕跡は、それこそ髪の毛一つすらなかった。土を掴み、砂を噛み、少しでも消えてしまったメアリーの痕跡を探ろうとするジェラルド。
メアリーが目の前で消えてしまったことを、ジェラルドは信じたくなかった。
そして、そんなジェラルドの頭上から声が降ってきた。
「我が救いを求める者よ。我に触れよ……それこそ、我が世界への入り口である」
荘厳な声。
ジェラルドが見上げる人型のなにかは、今まで自分が信仰してきた宗教の神に似ていた。
自らの意志を告げると共に、前へと歩き出す巨人。その神のような巨人に触れたものは皆、メアリーのように光の粒となって巨人に吸収されていった。
町に住んでいた多くの人がパニックに陥る中、そんな人たちの中から取り残されたジェラルドは、町の人々が去った後も、ただひたすらにメアリーがいたはずの場所を見ていた。
「メアリー……」
目の前で奪われた娘の命。ジェラルドは、何も出来なかった。
この世界に祝福をもって生まれ、これから輝かしい未来を歩くはずだった命。
それを、守れなかった。
例えどれだけ辛い事があろうとも、この世界に生きる価値はあるのだ。そう教えてやるのが、片親であるジェラルドの父親としての役目であったというのに。
「ぬぅぅあぁぁぁ!」
叫ぶジェラルドの顔は先程までの穏やかな顔ではなく、まるで鬼神のような険しいものへと変わっていた。
「……私は、あなたを許さない」
それがジェラルドの、この後に神と呼ばれるものに対する宣戦布告だった。