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6日目 激流を越えて

 崖を上りきったことで、景色をより落ち着いて見られるようになった雷太は、さきほど空中で見たと思ったそれを改めて確認した。


 草原のずっと向こう、惑星の直径と大気中の塵の関係で地球よりもずっとずっと遠くまで見渡せるその向こう。かすかに見える煙。それも純粋に自然のものではなく、おそらく人の手によって生み出されたものだと予想できる。


「過去の古代文明は滅亡したが、やはり人類はしぶとく生き残った、ってところかね」


 雷太がどこかニヒルに笑っていると、二体のアルフェーイがそっちじゃないといわんばかりに雷太の視界をさえぎった。


「ん? お前らが言いたいのはアレの事じゃないのか?」


 遠くの煙を指差しながら尋ねたが、二体とも違うと光を横に振り、はやく、こっちだ、と急かすように森の奥へ戻っていく。


「んん? おっとと……」


 すぐ後ろが崖だったのを忘れていた雷太はあやうくまた滝にまっさかさまになりそうになったがなんとか態勢を立て直してアルフェーイの後をおった。


 すると、彼らが主張していたものの正体がすぐに見えてきた。


 いうなれば鹿、の頭を持った人間。いや、人間の骨格に近づいた鹿だろうか。それがまるで人間のように、簡単な貫頭衣をまとって寝そべっている。


「ふむ……? 息はあるようだ。脈もある。手は四本指なのか。足にはちゃんとヒヅメが残っている……あ、でも履き物もちゃんとあるみたいだ。片方だけだが」


 地球の鹿と共通する生態があるのかはわからないが、体型と頭の上を見て察するにメス、もしくは女性の個体だと思われた。心なしかポンチョのような簡素な衣服にも飾り気が多いような気がする。


 ちなみにこれらを確認する雷太の姿は、もしほかに人がいれば相当に訝っただろう。主に雷太の人間性を。


「今のうちにちょっと……」


 さらに非情な行為は続く。


 軽くつまんで自然に抜けた体毛と、目やにを拝借し簡易解析にかける。わかったのは、雷太と同じ炭素系の組織を主に構成されているという事だけ。染色体やDNAのレベルの解析は、スーツに備え付けのこの簡易解析機能では行えない。ゆえに簡易なのだ。


「うぅむ……困った。とりあえず水でも飲ませてみるか?」


 頭部に外傷がないのは確認したから、鹿人間の頭を抱えあげて膝にのせ、すこし上体を起こさせた。そこから水筒を取り出し、蓋を開け、口元に近づけると、スンスンと鼻が動いてゆっくりと目が平かれる。


「気がついたか。とりあえず水を飲め」


 鹿人間は自分とまったく容姿の違う雷太にとても驚いたようだったが、目の前におかれている水筒を見て一気にそちらへ集中した。


 奪い取るような勢いで水筒を取ると呷って飲む。その姿を見て、雷太はもう顔のつくりが似ているからといって自分の記憶の中にある鹿と彼女を比較するのをやめようと思った。


 たっぷりと水分を補給していくらか体力を取り戻した彼女は何度か肩で息をして呼吸を整えると、緩慢な動きで雷太から離れて姿勢を正す。


 雷太は、カッシェルフとのファーストコンタクトのように、また単語を拾ってデータベース化し、意味にあたりをつける作業が始まるのだろうなあと漠然と思っていたが、それは見事に裏切られた。


「え、えれぇたすげでいだだきましたぁ」

「お、おう。気にするな」


 なんと、カッシェルフが用いていた言語とパターンがほぼ一致したのだ。


「いんええ。えれぇたすがりましだだぁ。そんのぉ、森の賢者ぁざまだとおン見受けしましだだがぁ。おン名前をおぎぎしてもぉ?」


 イントネーションに多少の違いがあるが、彼らの声帯の構造からか、それとも単に時間を経て訛っていったのかは不明だったが、十分に聞き取れる誤差だった。


「雷太だ。君の名前は?」

「うっは! オラぁとしだごどがあ。名乗りもせんどおン名前をおぎぎしてもヴで。大変すづれえしましだだあ! オラぁ名前を、ゾーリューネヅ、アルカンコーのゾーリューネヅと申すもんでず」

「ゾーリューネヅさん、ね。まあ言葉が通じるみたいでよかったよ」


 大げさな態度に慣れない雷太は、悪い気こそしないものの苦笑しか出てこない。


「あい! なげえもんで、リューネのんぞとおン呼びくだざい」

「俺の事も雷太でいい。で、リューネさんはなんでこんなところで行き倒れてたんだ?」


 雷太が尋ねると、ゾーリューネヅはやっと何か重大な事を思い出したようだった。鹿を丸顔にしたような顔がよく動く。驚いた時のようなわかりやすい顔というのは、どの世界も共通なのだなあと雷太は漠然と思った。


「あ! それがそンのぉ。森の賢者ぁざまにおン願いごどざ、ござってましで……」


 森の賢者なんて大層なものではないのだが、どのタイミングで否定するか雷太は悩む。ひとまず今はどうも深刻そうな展開なので黙っておく事にした。


「どうかあ! オラん里おおン救いください!」


 救いください。の部分だけえらくクリアな発音だった。祈りの言葉か何かなのだろうか。


「ん。うん。まあ、飯でも食いながら詳しく聞こうか」


 何はともあれ、この星に来て三種類目の知的原住民との遭遇だ。一種目はアルフェーイ、二種目はカッシェルフで間違いない。


 しかし、野生の原生生物とは痕跡としか出会わなかったというのに、知的生命体とはもう三種目だ。どういう確率なんだろうなと明後日の事を考えながら、雷太はゾーリューネヅの話しを片手間に聞き始めたのだった。



 帰還可能時刻まで、まだ約152時間。


ようやくの新キャラは鹿頭(容姿的な意味で)

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