しょのじゅうきゅう さようなら時雨君、君のことは忘れない(BY 賢治)
今日も天気は快晴。晴れ晴れとした気持ちで学生たちは自分たちの教室で騒ぎ立てている。そんな教室の中心に席がある時雨は雨が降っているような顔でボーっと空を眺めていた。
「はぁ・・・。」
時折ため息も混ざっている。
彼は昨日、家に帰ったあといろいろとあったのだ。コンビニから帰ってきたら美奈が甘えだした。時雨の膝の上に座ってまるで子猫のように甘えだした。いや、うらやましいと思われる光景でもあるが・・・・彼女が身につけているメイド服はとても重いのだ。支えきらなくなった時雨はそのまま後ろに転倒。置いてあった家具に頭をぶつけたりもした。
倒れた時雨に美奈が覆い被さってきて時雨はギョッとした。顔が目の前にあるではないか・・・・。いつかのことを思い出して時雨の顔は真っ赤に染まる。今でも美奈が言った台詞は頭に残っている・・・。
「・・・時雨様が望むなら私は何でもしますよ?」
頭の中でそんなことが何回も繰り返されて時雨は今日の朝から不調。
「時雨君?どうかしたの?」
「あ、亜美さん・・・?」
気がつくと目の前に亜美の心配そうな顔があった。そして、肩を誰かが揉んでいる。
「疲れているんじゃないんですか?」
凪が時雨の肩をもんでいる。意外に力が強いことにびっくりしながらも時雨は笑った。
「・・・ちょっと体調が優れないかもしれないんだ。だけど大丈夫だよ。」
「そう?ならいいけど・・・」
昼休み、時雨の不調は回復したのであった。気分の問題だったようでいつものようになったのでみんなはホッとした。これは数少ない男子生徒から見た今日の時雨の様子である。
「いやぁ、今日の時雨はひどかったなぁ。先生から名前を呼ばれても上の空・・・先生が頭を叩こうとしてもそれを器用にずっと避け続けて先生は肩で息をしてたっけなぁ?」
そして、次の生徒はこのようにかたる。
「そうそう、時雨君は珍しいことではないのですが・・・男子で教室の端に集まりメイドの話をしていたらすごい速さでここまできたんですよ。そのとき彼は僕たちから見てかなり遠い場所にいたはずなんですけどねぇ」
最後に・・・
「たまに顔を真っ赤にして頭から煙をふいてたなぁ。あんな動揺した姿は珍しいってクラスの連中が携帯で写真とってたぜ?」
まぁ、彼の動揺は先生から頭に水をかけられて正気になったのでよかったのだ・・・。このままではいつぞやのゴ○ラみたいに爆発する可能性もあると誰かが言っていた。
「あ・・・そういえば賢治はどこに行ったのかな?」
「賢治ならそこにいるよ?」
亜美にそう言われて一人で弁当を食べながら何かの写真集を見ている賢治のもとに行く。放課後の話をここで聞いたほうがいいと時雨は思ったからである。
「ねぇ、何の用事なの?」
「時雨君、いっそのことここで話しておくけれど・・・君にやってもらいたいことがあるんだよ。」
見ていた本・・・(なかみはやはりというかなんというか・・・美少女人形の本である。)を閉じて賢治は話し出す。
「・・・魔界で冥土が反旗をひるがえしたんだ。」
「あ、それは知っているよ。」
美奈から見せてもらった手紙の事を思い出す。
「ならそこの部分は省くけど・・・実は魔界にある学校に立てこもったらしいんだよ。だから時雨君にはぜひともこの事件を解決してもらいたい。」
「へぇ・・・それはまた・・・不可能な仕事じゃない?」
どこから見ても時雨は単なる高校生である。警察でもなんでもないのだ。
「まず、説得にあたってほしい。もしも説得に応じなかったらに煮るなり焼くなり好きにしてかまわないよ。さて、それでは時雨君にはがんばってきてもらわないとね?」
「いや、それってもう・・・決定されてるの?」
賢治は時雨の話などまったく聞いていない。時雨はさっさと自分のこれからをあきらめた。
「時雨君、ぜひともこの二つの刀を持っていきたまえ。きっと役に立ってくれるよ。」
賢治がどこから出したのかは知らないが二本の刀を差し出した。時雨がそれを見るのは初めてではない。みながこの前賢治に修理をお願いした『紅陽・改』と『蒼月・改』であった。
「・・・・ちょっとした仕掛けがあるからね。ま、たぶん気が付かないと思うけど・・・」
「刀ってそんなにいろいろいじれるもんなの?」
「これ大体もとが鉄でできているわけじゃないし・・・大丈夫。」
賢治が持っている二つの刀はかなりゆれている。まるで妖刀の様で少々不気味である。
「ほら、早くもってくれないとこの二つは僕を細切れにしようと狙ってくるからね。」
いや、時雨の心境としてはこの刀をもらいたくない。というものである。まだ彼は魔界にも行ってないので装備品であろう二つの刀にこんなところでやられたくないもんだ。
「・・・僕が持って大丈夫なの?」
「さぁ、それはもってからのお楽しみだよ。」
教室で刀を受け取るのもなかなか危ないものである。周りに誰もいなくてよかったと時雨は思いながらも結局賢治の手から二つの刀を受け取った。すると、刀は何事もなかったようにもとの無機物へと変わった。
「よし、成功確率30パーセントだったけどよかったよかった。」
「・・・・もし、失敗したらどうなってたの?」
「予想だにしない展開になってたかもね?そしたら僕がこれ以降は主人公になってたよ。」
さらりと物語が変わってしまいそうなことを賢治が言ったので時雨はちょっと心配になった。
「それじゃ、時雨君を魔界に案内するよ。」
「何かほかに必要なものは?」
「女の子と×××ができる心と過ちをおかしてもいいという勇気だよ。」
あえてここでは伏せさせてもらおう。別にそんなに危険なことではない。あしからず。
「しかしどうやって魔界に行くの?僕行った事がないんだけど・・・。」
「初めての魔界ツアーを推薦したいんだけど今は観光に行っている場合じゃないので省略。ただ単に魔界に行く道を使えばいいんだよ。あるだろう、この学校にも?」
そう、この高校には誰も近づかない場所がある。一度迷ったら葬式屋を呼ぶ生徒のほうが多いといわれている場所である。
こうして、時雨は単身陰謀渦巻く魔界へと旅立つのであった。
「・・・・ここだけの話、実は僕が行くのがめんどくさいから時雨君に代わりを頼んだんだよ。」
と言うのは賢治があとで誰かに話したことである。
ようやく、ここまでやってきました!!あと一つで目標達成です。いや、目標達成しても時雨の間改変をはじめたいのですがね・・・まぁ、なんにせようれしいことです。