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罪人天使  作者: 雨月
14/31

しょのじゅうよん 恐怖の図書館

 今日も時雨は元気に登校中。朝から美奈といろいろあったが、何事もなかったと彼は思いたい。空は日本晴れでどこまでも青い。平和な日常である・・・・


「うーん、昨日はちょっと疲れたなぁ。」


 肩を回したり首を回したり口の開閉を確かめてもみた。どれも良好である。途中から彼は気絶していたが、美奈が犯人の身柄を賢治に引き渡したらしい。


「時雨様、おはようございます。」


 物思いにふけっていた時雨の目の前に現れた一人の男性。黒いスーツと白い手袋、そして何より後ろに黙っているだけで存在感をアピールするような黒塗りの車・・・


「あ、焔さんの執事さん?」


 頭を下げてその執事は時雨に手招きをした。彼のもとにいくと話をし始めた。


「実は、時雨さまにお頼みしたいことがあるのです。よろしいでしょうか?」


 お願い事の中身を聞かないと判断のしようがないと時雨は思った。


「ああ、すみません。では話させてもらいますね。・・・・実はお嬢様・・焔様が学校の図書館で迷ったようなのです。」


「ま、迷ったんですか?」


「ええ。」


・・・飼い犬にかまれた気分に違いない。かわいそうに。


「つまり僕に迷子・・・いや、遭難してしまった焔さんを探してほしいんですか?」


「はい、その通りです。がんばってくださいね。それでは・・・」


 執事は手際の良さがよかったらしく、車にすばやく乗ってその場からいなくなったのである。


「・・・・しょうがないか・・・」


 時雨はそう呟いて再び学校に向かった。だが、その足は急いでいることは間違いない。あそこで迷ったら大変だと知っているからである。いつ彼女が行方不明になったのか時雨にはわからないが、一刻を争う自体かもしれないのだ。




 時雨は学校に行くと図書館を目指して走った。

途中、教師を何人かふっとばしってしまったので頭を下げたりもした。

そして、図書館の前にたどり着いたが、中から声などは聞こえない。

時雨は躊躇せずにゲームだったら『迷いの図書館』と名付けられるだろうダンジョンに向かったのである。

学生かばんは一応図書館の前に置いておいた。こうしておけば時雨が戻ってこれなかったときに誰かが助けにきてくれると思ったからである。だが、残念なことにここでそんなことをするのはちょっと間違いである。なぜなら、この図書館で迷った人物を探すよりも手を合わせる人物のほうが圧倒的に多いのである。


「おーい、焔さーん!!」


 ここが雪山だったら雪崩でも起きてしまったかもしれないが、ここは図書館。人は迷うが雪崩は起きないはずである。だが、これまた残念なことに時雨は気が付いてない。この図書館のある一帯では本の置き方が非常に雑なところもあるのだ。いっつもぐらぐらしていて、そこを通る時は抜き足差し足忍び足で行かないととっても危険なのだ。


 ぐらぐらぐら・・・


「おーーーーい!!」


 がしゃーん


 時雨がきた方角にあった本棚の中の本が見事、彼の帰る道を塞いでしまった。しかもかなりの量である。復旧のめどはまだたってない。


「・・・・とりあえず今は人命救助が先かな?」


 倒れた本も気にせずに時雨は先に進むことにした。というより、先に進む道しかないのだ。


 図書館はまるで迷路のようでだんだん時雨は道に迷ってきた。彼は今、自分の人生をある一つの物に託している。


「・・・・どっちに曲がったらいいんですか?」


 図書館に落ちていた鉛筆を床においてどっちに進めばいいか試してみる。右と左、鉛筆は右のほうに行けと結果を出した。


「・・・・よし!」


 時雨は足取り軽くそっちの方向に走り出した。そして、奇跡は起きる。時雨の進行方向に大量の本が落ちていた。その一番下から足が二本出ていた。


「ほ、焔さん!!大丈夫ですか?」


 時雨は至急、本に襲われている?焔のもとに駆けつけ本を片付けた。どの本も結構な重さがあり、よくこんなものの下敷きになっても生きてるなぁと時雨は思った。彼なりの心配だったが焔は本の数が少なくなるにつれてその姿をあらわし始めた。だが、残念なことにそれは焔ではなく他の人物だった。


「・・・・亜美さん!!何でこんなところに亜美さんがいるの?」


 時雨は級友の亜美を揺すって揺すって揺すりまくった。あまり反応がないので今度はほっぺたをぺちぺちたたいてみた。


「・・・ん・・んんっ・・」


「起きて下さい!!」


 しかし、よほどいい夢を見ているのだろうか、亜美は顔をニヤニヤさせながらまったく起きる気配を見せない。

時雨は亜美をどうにかして起こしたかったのでちょっと強引な方法をとることにした。そこらに転がっている本の中で最も重そうなものを手にもち、それを亜美の胸の上に置く。息苦しくなった網は目を覚ますだろうと時雨は思ったのだ。だが、お痛は禁止らしく、時雨に罰があたった。両脇にある本棚に残っていた本が時雨の後頭部に落ちてきたのだ。


「んがぁぁ」


 そのまま前につんのめり、体重を支えきれなくなった時雨は亜美の胸にダイブ。持っていた本も手から放れ辺りに転がる。しかし、これにより亜美は目を覚ました。


「・・・・時雨君、積極的なのはいいけれど寝ているのを襲うのはどうかと思うよ。」


「いや、襲われたのは僕のほうだけどね・・・・」


「じゃあさ、いつまで私の胸掴んでるの?」


 時雨はさっと亜美から離れ、亜美を立たせた。そして、なぜここに亜美がいるのか聞いてみた。


「・・・・実は図書館にお化けが出たとか噂が立ったからね。賢治に頼まれてここに来たんだよ。ところが・・・落ちてきた本に潰されてしまってそのまま気を失ってしまったみたいだね。いやぁ、失敗失敗。」


 亜美はそう言って時雨のほうを向いた。


「ところでなんで時雨君がいるの?」


「実は文化委員長が図書館で行方不明になったって聞いたんだ。それで捜索を頼まれてここまできたんだよ。」


 亜美はなるほどぉと思ったようだが、時雨に背を向けていった。


「じゃあさ、私も手伝うよ。二人で探したほうがいいでしょ?」


 実のところ図書館で二手に分かれて人物を探すのはちょっと無理である。探している人物が見つかってもその片方の人物が今度は迷子になってしまう。


「うん、助かるよ。」


 こうして、時雨と亜美(どちらとも方向音痴である。)は焔を探すたびに出た。


「・・・・どっちが入り口だろ?」


「こっちじゃないかな?僕はあっちから来たからね。」


 早速、道に迷ってそうな気がするがこれも愛嬌。時雨と網は時間短縮のために走り出した。すると、亜美と時雨が通って来た道にあった両脇の本棚がいっせいにゆれ始めた。そして、本が上から降ってくる。


「きゃぁぁぁぁ!!」


「うわぁぁぁぁ!!」


 このコーナーは辞書だらけだったのだろうか?後ろではすごく鈍い音が連続して聞こえてくる。あれがあたったら痛いに違いない。いや、痛いで済んだらいいほうかもしれない。

 ある程度はしったら音はしなくなった。どうやら辞書コーナーを脱出したようだ。


「ふぅ、もう大丈夫みたいだよ。」


「うん、ちょっと休憩しようか?時雨君。」


「そうだね・・・」


 図書館の床に座り本棚を背もたれにする。網はそこの本棚にある一冊の本を取り出した。


「あっ、これエロ本だ!」


「・・・・何喜んでんの。」


「時雨君もこんな本持っているの?」


「い、いや持ってないよ。」


 時雨が言っている事に嘘、偽りはない。このような本は本当に持っていない。


「ふ〜ん、意外だなぁ。じゃあさ、こんなことされても大丈夫なの??」


「のわぁぁ」


 亜美に押し倒されて時雨はそれをどかそうとしてかたを掴もうとするが亜美の違う部分を掴んでしまう。


「これで本日二回目だね?」


「ご、ごめん!!こ、これは・・・事故だよ!あの時も上から本が落ちてきたんだよ!!」


 亜美の顔はうれしそうである。時雨の顔にほとんどくっ付きそうなので目と目が合って時雨は目をそらす事ができない。これはまだ大丈夫だろう。


「じゃ、悪いけど私もしたい事させてもらうね。」


「べ、別に僕は触りたくて触った訳じゃ・・・んんぅ。」


 時雨の口を何かが覆った。

ここで何が覆ったのかは不粋な質問なので聞かれても答えるつもりはない。時雨は目をつぶっているのでその光景を目にすることはできないので動かないでいた。そっと、何かが口から放れたので目を開ける。そこには顔を赤くしている亜美が未だに時雨に覆い被さるようにして乗ったままだ。ちなみに言うなら時雨の手もさっきと同じところを掴んでいる。


「さ、焔を探しに行こうか?」


「え、う、うん。」


 網はそう言ったものの一向に時雨からどこうとしない。時雨も亜美が動いてくれないとどうしようもないのでさっきの体勢のままだ。再び二人の間にいいムードが流れ始める。そして、亜美がまた顔を近づけてきたのを時雨が確認したので今度も目を閉じる。だが、いつまで経っても何もおきない。


「・・・私に優しくしてくれた男子は時雨君が初めてだよ。」


「え?」


 瞬間、時雨の上に乗っていた体重がなくなった。



 その近くの本棚から二つの顔が出てくる。


「いやぁ、見ているこっちが恥ずかしいね。どうだい、見守っている人としては?」


「う〜ん、僕としては早く焔さんを探しに行ったほうがいいんじゃないかな?こんなところでいちゃついている時間もないだろうにねぇ。」


「時雨君の言うとおりだな。こんなR18のかかっているコーナーで何やってるんだろうか?亜美の方から押し倒しちゃったから大丈夫だったけどもし時雨君のほうからしてたらどうなってただろうね?」


「・・・・さぁね?」




 そして、再び亜美と時雨は図書館を走っている。

もう少しで貸し出しカウンターがあるところのはずである。

これまで亜美と時雨は同じところを三階ぐらい回った後にここまでやってきた。再度言うがここで迷ったら助けにきてくれる人物はあまりいない。時雨と亜美の視界がひらけ、今までよりある程度広い場所に辿りつく。そこにも焔の姿はない。ただ何冊かの本が机の上にきれいに置かれている。どの本も魔法が何たら〜といった具合の本である。


「時雨君、どうやらここに焔さんはいたようだね?魔法関係の本を見るのは彼女以外でこの学校にはいないからね。」


「へぇー。」


 時雨はその中の本の一つを掴んで開いてみた。どうやらかなり前の本らしく題名はまったく見えない。中身もすでに変色しており、茶色で見ることも結構難しいものであった。


「えーっと、召喚の本?」


「・・・・時雨君、こっちのほうに何かいる気配がするんだけど?」


 亜美が指差す方向には確かに何かがいるような感じがする。時雨は万全の準備をするために天使化することにした。


『我は、悲しみを背負いし天使・・・』


『我は、罪を裁く天使・・・』


 まず時雨がその方向に近づいてみるが何の気配もない。だが、次の瞬間、時雨に敵意を感じたのか知らないが炎が時雨の頭をかすめて行った。炎は網が消したので火事になることはなかった。


「こ、こいつは・・・!」


 時雨の目の前にいる生命体は間違いなく人間ではない。荒々しい目つきにどんなものでも引き裂くことができる爪、そして極めつけは背中に生えている大きな翼。


「ファンタジーかよ!!」


「しかし何でこんなところにドラゴンがいるんだろ?」


 とりあえず龍は時雨があっという間に倒した。龍は口から泡を吹かして倒れてしまっている。その光景を見て時雨はちょっとやりすぎたかもしれないと思ったのであった。とりあえず時雨と亜美はその龍を跨いで先に進むことにした。そして、途中である人物と出会った。


「・・・しー君、悪いけどココから先には行かせる事はできないわ。」


 二人の前に立ちはだかったのは『断末魔』メンバーの中でもっとも強い風神である。(炎神は何度も何度もこの風神を相手に戦いを挑んだが結果はどれも惨敗。だが、なぜだか彼はリーダーである。)


「何が起こっているんですか?」


「悪いけどうちのリーダーが世界を征服したくなったそうなのよ。」


 簡潔にそう言うと風神はその体を台風のような突風で覆った。まずその被害にあったのは亜美である。


「きゃぁぁぁ!!」


 スカートが舞い上がり中身が見えそうになる。時雨はできるだけそっちの方向を見ないように努力してみた。そして、後ろのほうから声が聞こえてくる。


「亜美、悪いが君のパンツを見て興奮するのは時雨君だけだからそんなにかわいい声を出さなくてもいいと思うよ。」


 賢治が紫の羽を出して剣の切っ先を風神に向けている。その後ろにも人影が見えたような気がしたが時雨は突風に吹き飛ばされないように踏ん張る事しかできない。


「・・・時雨君、早く今のうちにこの先に行きなよ。」


「え、うん!わかった。ありがとう賢治。」


 時雨と亜美は風神の方向に向かって走り出す。そして、その後ろから大きなはりせんが飛んできて風神の頭を叩く。時雨は一瞬後ろを振り返ろうとしたが網に引っ張られてみることはできなかった。




 この先にある物を時雨は知らない。この前の部屋があるのは違う方向なのでこちらにきたことは一回もない。


「こ、これはいったい?」


 図書館の中でもっとも大きいと思われるスペースに時雨と亜美が探していた人物がいた。だが、それはものすごい光景であった。まず、部屋の中央で大鍋がぐつぐつ煮えたぎっていて、その上にほむらがロープでぐるぐる巻きにされて吊るされているのだ。


「あ、時雨さん。どうかしたんですか?」


 当の本人は涼しい顔で時雨たちを見下ろしている。


「焔さん、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。」


 今にも大鍋に落とされてシチューにされそうな雰囲気が漂っているがほんとに大丈夫だろうか?


「ようこそしーくん。私の新たな拠点はどうかね?」


「あ、炎神さんじゃないですか。何やってんですかこんなところで?」


 大鍋をはさんで反対側に『断末魔』リーダーの炎神がいた。その顔はまるで世界征服をたくらむ悪の親玉のような顔をしているのであった。そして、時雨と亜美の前にやってきて得意げに説明をはじめる。


「これはね、召喚の装置だ。術者本人がこのなべに落ちればその術者と同じ力を持った何かがお鍋の中から現れる仕掛けになっているんだよ。さっき本を試しに投げ込んだら竜が出てきたんだよ。君たちも見ただろう?」


 そんな事を言っている炎神に神の鉄槌があたったのだろうか?何かが彼の額に直撃してバランスを失った彼は後ろにあった大鍋の中に入ってしまった。


『・・・世界の清潔を守る、便器の聖騎士参上!!』


 彼にあたったのは便座であった。そして、それを投げたのは時雨の誇るスーパートイレ、雷神である。


 時雨の家にて美奈による大幅な改造手術を受けた彼は普段は普通のトイレだが仲間のピンチになると姿を変えて彼らの前に現れるのだ!!


『・・・それではトイレでまた会おう!!』


 こうして、雷神のおかげで大鍋の中に悪の首謀者は落ちてしまった。時雨と亜美はなんだかあっさりしている今回の事件に不満を感じながらもロープでぐるぐるまきにされている焔を奪還。


「あ、大鍋からなんだかかわいい人形が出てきたよ?」


 これが炎神の代わりに召喚されたものだろうか?亜美はそれを手にとって時雨に渡した。


「はい、これ時雨君にあげるね?」


 時雨としても別にほしいわけじゃないが足蹴にするのもなんだかいけないような気がしたので素直に受け取ることにした。


「・・・・ありがとう。トイレにでも飾っておくよ。」


 トイレに飾って置いたら雷神が喜ぶかもしれないなぁと時雨は思いながら図書館から出ることにした。



・・・・・最後に書いておくが彼らが学校を出ることができたのは次の日の放課後である。散らかしてきた本や倒れた本棚などをきれいにしたりもしたのだ。



「・・・・さて、これで全ての罪を償えたね時雨君?」


「うん、確かにそうだけどこれからあの時雨には頑張れと言わないといけないなぁ・・」


「後なんかいでれると思う?」


「・・・あと一回で決着をつけないといけないんじゃない?」


「それでは次回、『しぐれとしぐれ!!』までごきげんよう。」


「・・・やれやれ・・・」



 そろそろ・・・前の時雨から今の時雨にきちんとした物語を歩んでほしいと思ってます。今のところは前の時雨の過去のせい遺産といったあれですからね。まぁ、なんだかまだまだがんばりたいと思うのでがんばっていきたいと思います。あと、かなり長い文章になっているんで・・・今度から改めたほうがいいかもしれないと思っている今日、この頃です。

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