しょのじゅうさん 美奈とエンゲージ
時雨がどこかの森から戻ってきた次の日、休日はとっくに終わっており、学校が始まっていた。
戻って来たといっても夜遅くで、後一時間ぐらい時雨が帰ってきたのが遅かったら次の日になっていたかもしれない。時雨は帰りついたときのみんなの反応を忘れないだろう。まず、きているものを蕾と涼に引き剥がされ、美奈にお風呂に連行されて体を血が出るまで洗ってもらい(それはもう、嫌がる時雨をもの凄い力で押さえつけすみ隅まで洗った。)あがったところでようやく感動の再開シーンとなった。
「え、あの眼帯貴族だったの犯人(保健室の先生)が逃げたの!?」
時間帯はお昼休み。時雨は中庭にて亜美と凪、涼と蕾からその話を聞いていた。その話を聞いているとどうやら、時雨がいない間に刑務所から脱獄したらしい。人間じゃない彼なら易々と逃げたに違いない。シャバの空気はうまいといまさら言っているかもしれない。
「うん、それでね、今日賢治は来てないんだけど昨日ね、『時雨君が来たらその犯人を手分けして捜してくれ』って言われたんだよ。」
それから、昼休みをかけてチームを編成。次のとおりとなった。
一組目、涼と蕾。
二組目、凪と亜美
三組目、時雨
力の差が大体同じになるように亜美が決めたものである。時雨はこの前捕まえたと言うより、負けてしまったので今回はリベンジに燃えていた。
(・・・・せめてあの耳で世界を征服する考えだけはやめさせよう。彼を止めないと世界に恐怖が生まれるに違いない。)
まぁ、人のやる気の原因は色々として、その日の放課後から始めることとなった。各組、町のいろんな所をくまなく探し、見つけた場合は全員そろうまで見つけた組が時間稼ぎをする。そういった作戦内容である。作戦を考えるのに使った時間は約三十秒。即席のなんだか頼りない作戦である。ぜひとも頑張って欲しいものだ。
そして、時雨は只今、スーパーの野菜売り場にいる。ふざけているわけでもない。彼なりに真剣である。ここに来るまでに彼は彼なりの罠を各所に設置、触れると彼の携帯がなるという仕組みになっている。そんな高度な技術は彼は持っていない。持っているのは・・・
「時雨様、今日は何にしますか?」
彼のメイドさんである。彼女と学校の校門前であった時雨は状況を説明。美奈の意見を取り入れていたるところに様々なえさを置いてきた。
「うーん、じゃ、今日はコロッケがいいや。」
この二人が本当に犯人を捕まえたいか不安だが、時雨の携帯がなった。どうやら何かがわなに引っかかったようだ。
「時雨さま、行きましょう。」
「うん。」
その後、美奈と時雨はスーパーのレジ(行列になっている。)でお会計を済ませ、いったん自宅に帰り、満を帰して目的地に到着。そして、落とし穴にはまっているどこかで見たことのある少年を眺めていた。
「あ、思い出した。『断末魔』リーダー、炎神さんだ。」
ちなみに彼は美奈が仕掛けた美少女人形を手にもっている。(美奈が賢治の屋敷に侵入、そして彼のコレクションの一つを持ってきたのだ。)その人形には傷ひとつついていない。しかし、それを持っている炎神は傷だらけである。
「助けてください!」
ぴるるるるるるる
彼が叫んだのと同じに再び時雨の携帯が鳴り響く。不幸なことに時雨と美奈は彼のことを置いていった。そして、残された彼はその後自力で脱出できず、風神に助けてもらったらしい。
二つ目の罠の所にいたのは賢治だった。その顔は怒りで変形している。
「・・・・やぁ、時雨君と美奈さん。奇遇ですね、こんな所で会うなんて・・・。ちょうどいいや、なぜこんなところに僕のコレクションの一つがあるのか説明してくれるかな?」
すでに背中には紫の羽が生えており、時雨と美奈はちょっとどころか生命の危険まで感じてその場から逃げたくなった。
「・・・遺書を書くなら今がお勧めだね。お墓に入った後は何もできないからねぇ。」
いつのまにか右腕には禍禍しい何かを纏った鈍く紫色に光る剣を時雨に向けている。絶体絶命のピンチ!!賢治を怒らせると人間界が吹っ飛ぶ可能性がある。そんなことを考えながら美奈が時雨の前に立った。
「時雨さまは悪くありません。悪いのは・・・・」
時雨は美奈が体を張ってまで自分のことを助けてくれそうだったので泣きそうになった。
「あの世界征服をたくらんでいるお馬鹿な吸血鬼です。」
責任転嫁だと時雨はちょっと思い、出かけていた涙は涙腺の奥に引っ込んだ。賢治は美奈を見ていたが、
「・・・おしい、今の台詞で自分が悪いといってたら助けてあげたんだけどな。」
と時雨となんとなく同じ感想を言って再び時雨に剣の切っ先を向けた。
「ちょ、ジョーダンです。冗談。私はどうなってもいいから時雨さまだけはどうにかしてください!!」
「じゃ、時雨君、悪いが地獄に行ってくれ。」
美奈の申し出に聞く耳を持たずといった様子で時雨に特攻。二人の目にとまることのない異常な速さで時雨に迫る。
「守りたい世界があるんだぁぁぁぁ!!」
ついでに誰かの台詞を辺りに大声でぶち巻きながら・・・・
「やらせはせん、やらせはせんぞぉ。」
そして、時雨と賢治の間に誰かが割って入った。目をつぶっている時雨に顔は見えない。
ガキャーン
そんな甲高い音が鳴り響き、その衝撃で時雨は後ろに倒れた。時雨を助けてくれた人物は美奈に何かを言って時雨を逃がした。
時雨は後ろから聞こえるさまざまな声。
「いけ!!フィン・○ァンネル!!」
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ!!」
などを聞きながら美奈にお姫様抱っこされて戦線離脱。完璧な安全圏まで逃げることに成功。先程まで時雨達が居た所では火柱などが上がっている。どうやら戦闘がいまだに続いているようだ。
そんなときに携帯が鳴り響き、今日の探索は終わりを告げた。あとで賢治に謝っておくとして、時雨と美奈は仕掛けた人形を回収しに回った。(今、彼の屋敷にある人形はまったくない。)お詫びの印として、何かをプレゼントしたほうがいいかもしれない。いや、間違いなくしたほうがいいだろう。
「今日は寿命が縮みましたね、時雨さま。」
「・・・・うん。」
そんな会話をしていたが、辺りがだんだん暗くなっていき人形をすべて回収し終わったときはあたりは暗闇に包まれていた。(途中、いろいろな人物が人形を持っていこうとしていたりしたので時雨たちと戦闘を繰り広げた。)そして、美奈は唐突に時雨に言った。
「・・・今すぐ家に電話をして涼様と蕾様に電話してください。」
「え?いいよ。」
時雨は携帯を取り出し、家の電話番号にかける。数秒後、蕾の声が聞こえてきた。
『あ、兄さん?どうしたの。』
「美奈さんがちょっと話したいって・・」
時雨はジェスチャーをしている美奈に携帯を手渡す。電話をかけた時から繋がったら自分と変わってほしいと目と体で訴えていたのだ。
「蕾様、今すぐ時雨様の部屋に行って私のメイド服がかかっているかどうか確かめてください。」
『え?わかったよ。』
氷雨が居なくなり、今は時雨の部屋となった。そして、美奈はあれからずっとセーターにエプロンといった格好で生活していたのである。
数分後、蕾はびっくりしたように言った。
『なくなってたよ。』
「そうですか、ありがとうございます。それでは失礼しますね?」
携帯を時雨に渡し、美奈は彼に言った。
「ちょっと寄りたい所があるんですけどいいですか?」
「う、うん、いいよ。」
美奈の声、顔つき、体から溢れる出るオーラ(先程の賢治と極似していた。)はとても怒っているようだ。赤い、赤いよ美奈さん。
時雨の手を取って美奈は勢いよく走り出す。近くを歩いていた女子高生のスカートを思いっきり捲らせ(時雨が確認したところ、青だったらしい。)暗くなった路地を時雨の高校に向けて走り出す。時雨は美奈に引っ張られるようにつかまれている。そして、美奈が止まった所はそう、あそこである。
冥土喫茶
時雨を扉の前に残して一人でご入場。扉越しに中の会話が聞こえてくる。
『あ、美奈先輩どうしたんですか?』
『私と背丈が同じなのは・・・・あ、いた』
『ちょっと、なにするんですかぁ。』
『失礼しますね。』
次に、中から悲鳴が聞こえてきた。
時雨が扉を開けようとして中から美奈がメイド服を装備してフル装備(右腕装備、『紅陽・改』。左腕装備、『蒼月・改』。背中、ゴッドガンダ○のバックパック。)これから何処かの国を攻めるような格好でもある。そして、扉の向こうに見える光景は凄い、下着姿のメイドさんが一人立っており、こっちを見ている。
「さ、時雨様行きますよ。敵はこの学校の保健室にいると私のアンテナが言ってます。」
今度は時雨の首根っこをつかんで一気に保健室を目指して美奈は走り出す。時雨の視界から下着姿のメイドさんは飛んでいくように消え、次に時雨を待っていたのは後ろに飛んでいく光景だった。
時雨が半ば乗り物酔い(美奈酔い)で吐きそうになったときに美奈は急停止。手を離された時雨は慣性の法則で美奈が止まった位置から五メートル先ぐらいまで飛んでいった。時雨が立ち上がり美奈を見ると早速美奈は刀を抜いて保健室に切り込み・・・と思いきや再び廊下に戻って時雨の元に向かう。
「伏せてください時雨様。」
既に伏せの状態になっている時雨に覆い被さる。時雨としては何かやわらかいものが顔にあたった気がしたのでなぜだか知らないが得した気分になったそうだ。そして、次に起こったのは老化が爆発する現象であった。
「・・・・なっ・・」
時雨はその光景を倒れた姿勢のままで眺めていたのだが、爆発が終わったあとすぐに美奈をどけて保健室を覗き込む。そこには、時雨がギョッとする光景が広がっていた。
噂の犯人がメイド服を着てたっていたのだ。
「お久しぶりだね、時雨君。私は今日、絶対的な力を手にいれたよ。素晴らしい、実にすばらしい!!」
そういって自分を抱きしめるような格好を取って、くねくねした。時雨としてはこのような格好を見るだけでも怖気がするのにさらにこのような行為を見たあとはどうにも気分が悪くなった。顔が赤くなっている時雨の後ろから美奈が叫ぶ。
「今すぐ私の服を返してください!!今返すのなら手加減だけはしてあげます。」
「残念だが、それは駄目だ。これは私の手に入れてきたアイテムの中で最高峰に位置する品物だからね。なんともこの着心地が最高だ。」
時雨はそんなやり取りを終始みていたが、やはり背筋が寒くなるだけだった。
「それでは、腑抜けの時雨君とその偽のメイドさんとはちょっとの間お別れだ。耳で世界が征服できないなら今度はこれで世界征服を狙わせてもらおう。」
再び、時雨は頭の中で想像し、今度は頭痛までしてきた始末だ。メイド服を着た奇妙な男は背中から羽を広げ保健室の窓を突き破って逃げいった。
「ま、まちなさーい。」
残念ながら今の時雨には犯人を負う気力はまったく残っておらず、怒っている美奈を見ていることしかできなかった。
その後、いまだに煙を上げる廊下に座り込んで時雨は美奈がなぜ自分のメイド服がなくなったのがわかったのか教えてもらっていた。
「・・・あれには発信機がついており、移動したりすると私にはわかるんです。私の機能の中にそのような装置がついているのです。」
時雨は先程、美奈の正体を知った。別に聞いてもまったく驚かなかったが(どっちかというと、当然のように思えた。生身で始めてあったときしていたことをするのは危険だと思ったからである。)なぜあんなにあの服にこだわるのか不思議だった。
「実はあの服には『紅陽・改』と『蒼月・改』以外の私の武器が入っているんですよ。エプロンについているポケットの中はドラえ○ん並みの蓄積量数を持っているんですよ。」
もはやなぜそのような危険な服が存在するか不思議だが、時雨はあえてそのことを追及せずに別のことを聞いた。
「じゃあ何で今までメイド服を着てなかったんですか?」
着ていたらとられることはないだろう。もっとも、さっき美奈がしたような好意を受けたら襲ってきた人物が跡形もなく消えるかもしれないが・・・・
「それはですね、時雨様から着て欲しいと言われるまでとっておきたかったんですよ。」
美奈は顔を赤くしながらそんなことを口走る。そして、時雨は
(え、じゃあ、これって僕のせい?)
と思い、何気に自己嫌悪していた。悩むこと数分、時雨は立ち上がり美奈に告げた。
「じゃ、今からあの眼帯さんを追いましょう。」
「はい、わかりました。」
再び時雨の首根っこを掴み走り出そうとした美奈に時雨は待ったをかける。
「ちょっとまってください。僕が天使化をしますから・・・」
数秒後、開け放たれていた保健室の窓から紅い羽根をまとった何かが飛び出していったのであった。
美奈が教えるポイントには凄い光景が広がっていた。場所は時雨たちが住んでいる地域のある公園だったが、その公園の地面にはさまざまな武器がセットされていた。
「対戦車砲!?美奈さん、あなたはいったい何をするつもりだったんですか!」
「いや、ついつい・・・てへっ。」
時雨の背中の上で美奈は質問に答える。
「いや、ちょっとまってくださいよ。何であんな大きなレーザー砲までポケットに入るんですか!!」
まさしく戦略兵器の光化学兵器までその頭を並べている。くわばらくわばら。
「そんなことより時雨様。急いで茂みに隠れてください。いい加減ばれてしまいますよ。」
そんな話をそらすような美奈の言葉にも時雨はまったくだと思い、言われたとおりに近くの茂みに着地をする。背中に乗っている美奈をおろし、今後どのようにするか話し合いをすることにした。
「さてどうするんですか美奈さん?」
時雨は美奈に武器のことをある程度は教わっていたが、やはりここは詳しい美奈の方に作戦を聞くべきだと判断した。そして、話を振られた美奈は暗がりながらもわかるぐらいに顔を赤くして答えた。
「・・・まずこうします。」
「え・・・ってうわぁ。」
物凄い力で時雨は倒れされて一番星の輝く夜空が視界に広がった。
「な、何をするん・・・」
時雨は体を起こそうとしたが、美奈の手に両方の頬をつかまれて・・・というより馬乗りの姿勢だったのでどっちみち起き上がることはできなかった。
「美奈、いきまーす!!」
「うえぇぇえ!!」
目を閉じた美奈の顔がだんだん時雨に近づいていく。そして・・・
「はうぅ・・・・」
公園に並べられていた武器は再び美奈のメイド服に戻っていた。眼帯さんが入れたのである。
「さて、これだけ数があれば大丈夫でしょう。」
そんな事をいってこの公園から出るために翼を広げる。だが、それを阻むものがいた。
「最後の勧告です。今すぐ私のメイド服を返してください!」
飛び立とうとする彼の前に美奈が現れる。その手には何も持っていない。
「いい加減しつこいですよ。いくら温厚な私でもあなたの体に流れている血をすべて抜き出しますよ。・・・・もっともあなたは人形ですから血が流れているとは思いませんがね。」
その申し出を否定の意思ととった美奈は行動をおこした。
『我は、悲しみを背負いし人形の姿をした天使・・・』
血のように紅い何かが美奈の背中から飛び出す。それは翼の形にとどまり、あたりに羽を飛ばす。
「・・・・ば、ばかな・・・」
絶句している眼帯さんだったが、慌ててエプロンの中からバズーカ砲を取り出して美奈に向ける。だが、すでに美奈の姿は見当たらずにあたりを見渡す。
「・・・遅いですよ。」
格ゲーだったら凄まじいほどのコンボ数を稼げたに違いない攻撃を受けてメイド服を着た眼帯さんは夜の公園にあるジャングルジムにぶつかり動かなくなったのである。
時雨は近くの茂みのところで気絶しており、このことは知らない。行動を起こしたほうが登場できた行を獲得していた眼帯さんはこれにて御用となった。もっとも、二度と逃げ出さないように魔界にあるらしい強固な牢屋に入れられたそうだ。
時雨が目を覚ますと目の前に美奈の顔があった。そして、昨日のことを思い出す。
「あ、ああぁぁっぁぁ」
なんともいえない言葉を出した後、時雨はすぐ近くにあるメイドさんの顔を眺めることにした。特に意味はない。ただ、体ががっちりつかまれていたのでそうするしかなかっただけである。
「・・しぐ・・れさまぁ・・」
「み、美奈さん!!ちょっとどこ触っているんですか!!」
彼の苦労はまだ始まってもいない。
今回は美奈が主役となってしまいました。次回は・・・・なんにしようかなぁ・・。とりあえずご感想、ご意見をよければくださいね。




